私はロボットではありません
東京、総理官邸。会議室。
スクリーンには無人機が、月面のハドリー山脈で撮影した写真。
高さ5m、幅2m、厚さ1mの黒い石碑。
正面、胸の高さの位置に、日本語で
⊡ 私はロボットではありません
と書かれたチェックボックスがあった。
宇宙開発担当の川島が説明する
「ハドリー山脈、アポロ15コーナーキューブの東200mに存在します。
おそらく、我々が『モノリス』と呼ぶものに関係します。
無人探査機のあらゆる種類の通信。マニュピレーターによる物理接触は無視されました」
麻田総理
「未知との遭遇じゃないよな。知ってるやつだ。
作ったのは日本人だろ、これ」
「そこまでは断定できませんが、接触を拒絶した、というより、人間以外は相手にしていないようです」
「速やかに、秘密裏に接触する。公表内容は結果次第だ」
「次に、メリケンの動きです。サラマンダーの事故報告です。原因は純酸素環境下での点火。アポロ1号と同じです。窒素切り替えプロセスが設計に含まれていなかった」
「開発速度は?」
「速いです。現代の工業力と技術力に60年代の強引な国家動員と安全軽視が組み合わさっています。最短、1年で飛ばす可能性もあるのか。バクチを打つならですが。
現在、8連固体エンジンとケロシン-液体酸素の月面無人探索機。組み立てに入っています。直接、月に向かわせる様です」
「無人機なら試験するより飛ばした方が早い。金持ちは羨ましいね。メリケンの探査機がモノリスを見つける可能性は?」
「高くは無いとおもいますが、アポロ15に関心をもつかどうかです。通常なら、静の海を中心に着陸地点の観測を重視するでしょう。しかし、急ぐ必要があります。こちらの無人着陸は成功しました。有人出発まで、当初計画より前倒しを検討すべき段階です」
麻田は窓の外を見た。
「宇宙ステーションの建設を中断して、直ぐに宇宙船の組み立てに移るのか。
いや、無理だ。モノリスの存在を秘匿したままでは難しい。
それで、メリケンが先に月に着いた場合は?」
川島は少し間を置いた。
「モノリスとの接触が、メリケン側で先に起きる可能性があります」
「月への前倒しを、検討してくれ」
「はい」
「モノリスは——我々が先に行く」
川島は静かに頷いた。
麻田
「いや、足りないか、いざとなったら、月面の星条旗とアポロ11の写真を出す。その時のストーリー用意してくれ」
窓の外では、冬の東京が静かに広がっていた。
その向こうに、見えない月がある。
そして、そこには何かが待っている。
ロボットがだめならーーー人間が乗り込むしかない。




