メリケンの宇宙開発
パトリック空軍基地。
管制施設の窓越しに、遠くの発射台で組み立てられたヒュドラが見える。
サラマンダーの拡大発展版。ブースターが倍の8本に増えている。
ニナ・アームストロング少佐は、腕を組んだままモニターを見つめていた。
「サラマンダーでさえ8回中の5回しか成功していないのに、もう次のロケット」
隣でラヴェル大尉が頷く。
「しかも、5回目は毎分200回転を超えて空中分解。成功率、62.5パーセント。私達、よく生きて帰れたね」
その会話を聞いていたキャロルが、後ろから口を挟んだ。
「でも、最近は安定してるわよ。7号機と8号機。2回連続で成功したじゃない」
「キャロル。宇宙ロケットの統計で、2回連続成功を「安定」とは言わないと思う」
「サラマンダーは実験機よ。2段目の本命はヒュドラ。1段目と3段目より進んでいるわ」
「そういう問題じゃない。安心できる要素が一つもないわ」
「失敗は成功のマザー!」
「失敗する可能性のあるものは、いずれ失敗する。日本のステーションで聞いたわ」
「深い言葉ね。禅ってやつかしら?それより、時間よ」
その言葉を証明するように、施設の奥で警報音が鳴った。
点火。
轟音。
次の瞬間。
八本のうち一本が、地上で爆発した。
ニナはゆっくりとキャロルを見る。
「……ヒュドラ、失敗?」
「1回目はね。来月、またやるわ。成功するまで何度でも」
ラヴェルが小声で言った。
「窓ガラスのワイヤーを二重にしたのは失敗した時の保険?」
キャロルは答えなかった。
その視線の先に、巨大な格納庫があった。
いや。格納庫ではない。
遠くからでも分かるほど巨大な構造物だった。
ニナは双眼鏡を手に取った。
「……あれが、リバイアサン?ブースター30本の怪物」
ニナは双眼鏡を下ろした。
「遠くで組み立ててる理由が分かったわ」
「誰も死にたくないんだな」
「当然でしょう」
キャロルは平然としていた。
「いいニュースと言えば、宇宙食は日本から輸入することになった。」
「日本の方が美味しいから、うれしいけど、いいの?」
「宇宙食の開発してる余裕ないのよね。残念だけど」
誰も答えなかった。
その頃。
別の建物では、別のエンジンが燃えていた。
巨大な試験設備の中央。
液体酸素とケロシンを使用する液体ロケットエンジンが、轟音とともに燃焼を開始した。
炎が伸びる。
振動が建物全体を揺らす。
監視モニターを見つめていた女性が、ゆっくりと時計を確認した。
「燃焼時間、規定値到達」
「圧力、正常、振動、許容範囲内」
「チーム・ワルプルギスのエンジンが、初めて規定時間の燃焼に成功しました」
Dr.フーは静かに頷いた。
「これで、月まで行ける」
数日後。
ニナとラヴェルは、NASAの長官室に呼び出された。
「……月面着陸クルーに内定。私たちが?」
シモーヌが言った。
「経験、運、サラマンダーで生き残った実績がある」
「つまり?」
「あなたたちは、危険なロケットに乗っても死なない」
ニナは呆然とした。
「宇宙飛行士の選抜基準として、それはどうなの?」
シモーヌは真顔だった。
「重要よ。我が国の宇宙飛行士には特にね」
ニナは深く息を吐いた。
その夜。
彼女の端末にメッセージが届いた。
日本の宇宙飛行士、若狭からだった。
「まだ、重力に慣れないけど、ステーキ食べて来ました」
添付画像。
黒毛和牛のサーロインステーキだった。300gぐらい。とても美味しそうだ。
ニナは思わず笑った。
「美味しそうだけど、ステーキならこうでなくっちゃ」
今度はニナが写真を貼る。
キャロルに奢らせた、超特大Tボーンステーキ。2ポンド(900g)
「一人で完食したの?どこに入るの、それ」
通信はすべて検閲されている。
しかし、ステーキの写真まで禁止する理由はない。
それで十分だった。
数日後。
NASAの会議室。
「日本の無人探査機が、月面、静かの海にコーナーキューブを設置しています」
「レーザー照射実験?」
「はい。地球からレーザーを照射し、反射光を観測します。
月との距離がセンチ単位でわかると」
「日本は、もう月に物を置いてるのね」
「座標は公開されています。自由に使っていいと」
「実験が成功すれば、日本の探査機が月面に設置した反射鏡の位置を、正確に確認できます」
「いずれ、我が国も設置する予定だし、日本のコーナーキューブで先に試験してもいいんじゃない?
レーザー照射機と観測機用意するだけで半年以上かかるけど、ハワイのマウナケア天文台がやりたがってたでしょ」




