宇宙ステーション
日本の宇宙ステーション。居住モジュール。
救助船のハッチが開いた瞬間、空気が流れ込んできた。
空調が効いていた。
ニナはヘルメットを外した。
サラマンダーの船内とは、全く別の世界だった。
白い壁。柔らかい照明。整然とした収納。
日本人クルーの若狭、野田が二人を迎えた。
「お怪我はありませんか?」
流暢な英語だった。
「ない。ありがとう」
「美人宇宙飛行士2人を我が国のステーションにお迎え出来て嬉しく思います。
まず食事を。長時間でしたから」
食事のパッケージを渡された。
ニナは中身を見て、少し驚いた。
真空パックのトルティーヤ、
真空パックの甘辛いチキン、
お湯で戻したマカロニ&チーズ
パウチのオレンジジュース
デザートのプリン
「なぜ、トルティ-ヤが?」
「パンくずが出ないので。とりあえず、メリケンの方が食べやすそうなものを選びました」
NASAの歯磨き粉モドキと全然違う。食べる前に勝負がついていた。
日本人クルーが、申し訳なさそうに笑った。
「本当に大変でしたね」
その一言で、何かが緩んだ。
ニナはラヴェルと顔を見合わせた。
それから、二人同時に口を開いた。
「あの設計、完全に頭おかしいのよ」
「4本束ねてスピン安定って何を考えてるの」
「回転数85よ。拷問だわ」
「ダクトテープで命を繋いだのよ。宇宙で」
日本人クルーたちが、困ったように笑いながら同情してくれた。
気づいたら、1時間経っていた。
ニナはふと我に返った。
しゃべりすぎた。
男性相手に舞い上がって、どこまで話したか分からない。
後の祭りだった。
まあ、サラマンダーの残骸みられた時点で全部分かるだろうけど。
その後、宇宙ステーションで生活する際の注意点を徹底的に教えられた。
粉が散る行為は禁止。パンがないのはそのため。
食事は何十種類もあった。日本食に詳しくなった。
プライバシー無い。当然だけど。
トイレの使い方。慣れるのに時間がかかった。
水の再利用は気にしたら負けだ。
作業はあまり手伝えなかった。
暇だけど、見るものすべてが英知の結晶。数億ドルの価値がある。
滞在中に日本の月無人探索船が任務を達成したと聞いた。
次は無人着陸。ロケットは既に向かっている。
日本の有人月探索船。想像はつく。このステーションの横で組み立てて月に出発。
安心、快適、不安ゼロ。
では、我がメリケンの月ロケットは?
サラマンダーの事故調査も日本と合同でやった。
燃料タンクが無くなっていた。よく生きてたな私達。
大破したサラマンダーを、補助ブースターだけでステーションまで持ってきたキャロル達もすごいけど。
酸素濃度調整用の窒素ボンベ使わなかったのかと聞かれた。
最初から純酸素は事故りやすいから、低濃度酸素で着火してから純酸素に切り替えるのが普通?
そんな話聞いたことない!
それから、サラマンダーのカプセルで再突入したら、多分死んでた。
3週間後。
帰還用の物資を積んだイプシロンが到着した。
日本の宇宙飛行士さんと地球で再会する約束をしてステーションとお別れした。
サラマンダーのカプセルは無人で地球に落とした。
「災い転じて福となす」
「キャロルが言ったら殴る」
「ええ」
帰還カプセルが大気圏に突入した。
安心感ってステキ。
日本の空母デッキ。
帰還カプセルが着水し、ヘリで引き上げられた。
ちなみに、サラマンダーのやつはロスト。
デッキに降り立った瞬間、ニナは大きく息を吸った。
潮の香りがした。
地球の空気だった。
翌日、メリケンへの輸送機に乗った。
基地に戻ると、キャロルたちNASAの技術者が待ち構えていた。
「無事で良かった! で、ステーションはどうだった? 大きさは? 居住モジュールの構造は? クルーは何人?災い転じて福となすってやつだよね」
ニナは、キャロルの顔を見た。
ラヴェルの顔を見た。
二人は同時に、同じことを考えた。
殺意。
「……とりあえず、殴る」
ニナとラヴェルは、できるだけ穏やかな声で言った。
キャロルは逃げ出しだ。
「ステーキ奢るから。何でも食べていいから。スーパーガールに本気で殴られたら死んじゃうから。二人とも冷静になって、お願いだから!」




