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サラマンダー爆発

メリケン、パトリック空軍基地。発射台。

ニナは、サラマンダーのコックピットに収まりながら、自分の状態を確認していた。

胴体は巨大なハーネスで完全に固定されている。

脚も耐G服のエアバッグがきつくて動かせない。

首、顎、頭部は万力のような固定具で動かせない。視界は正面だけだった。

隣でラヴェルが、くぐもった声を出した。


「……首が痛い」


「我慢して」


「これ、拷問じゃないの?」


「キャロルに言って」


しばらく沈黙した後、ラヴェルが言った。

「賭けをしましょう。回転数よ。100回転超えたら、キャロルに奢らせる」


ニナは少し考えた。

「乗った。100回転超えたら、ステーキよ。もちろん、最高級で」


管制から声が入った。

「サラマンダー、点火まで30秒」


二人は黙った。

「10、9、8——」


腹の底から、振動が来た。

「——点火」


最初は良かった。だが、加速するごとにロケットの回転が速くなっていく。

全身が遠心力で外側へ引っ張られながら、同時に上へ押しつけられる。

眼を開けていられない。

ニナは腹筋に力を込め、足を踏ん張り、意識を繋ぎ止めた。


「高度1万。速度マッハ2」


管制の声が、遠く聞こえる。

まだ回っている。

まだ回っている。

まだ回っている。

固体ブースターが分離した衝撃。

回転が、少し落ちた。

「高度30万。軌道投入完了」


静寂が落ちた。

無重力の感覚が、全身を包んだ。

頭を固定していた万力が緩み、ハーネスが上がる。脚も自由になった。

ニナは隣を見た。

ラヴェルが、青白い顔で固定具を外していた。

「……何回転だった」


管制から答えが返ってきた。

「最大85回転です」


二人は、しばらく無言だった。

それから、ほぼ同時に言った。

「キャロルの奢りはなし」


「ステーキが遠のいた」


低軌道。サラマンダー航行ユニット。

船外活動の準備を終えたニナは、ハッチを開けた。

宇宙が、目の前に広がった。

黒い空。白い太陽。青い地球。

ドラゴンで見た景色と同じだった。違うのは、今は落ちていないことだった。

ゆっくりと機体の外へ出る。

その時、視界の端に、何かが見えた。

大きかった。


「……ラヴェル」


「見えてる」


日本の宇宙ステーションだった。

太陽光パネルが翼のように広がり、銀色の構造物が地球を背景に浮かんでいる。

完成予想図で見たものと、同じだった。

違うのは、実物は写真の何倍も大きく見えることだった。


「……あれで、まだ半分なのね」


ラヴェルが、静かに言った。

二人はしばらく、黙って眺めた。

それから、船内に戻った。

軌道修正の時間だった。


「補助ロケット噴射、3、2、1——」


噴射した瞬間、爆発音が響いた。

機体が、大きく揺れた。

警報が鳴り始める。


「キャビン気圧低下。空気漏れを確認」


ニナは即座に動いた。

「宇宙服を着る。急いで」


二人で互いの宇宙服を確認し合いながら着用する。

漏れは止まらない。

気圧計が、下がり続けている。

ニナは管制へ送信した。

「こちらサラマンダー。補助ロケット爆発、キャビン気圧喪失。宇宙服で対応中。船外脱出の準備を開始する」


管制からの返答は、数秒後に来た。

「確認しました。現在、救助オプションを検討中です」


船内への酸素の供給を止める。

宇宙服の酸素は、あと3時間分しかない。

ラヴェルが、宇宙船用の酸素ボンベをラックから引っ張り出した。

酸素ボンベと宇宙服のジョイントを確認する。大きさが違った。


ニナが指令室に酸素ボンベのジョイントが合わないと怒鳴る。

キャロルがダクトテープ巻いてと怒鳴り返す。

ラヴェルがダクトテープを手に取った。

ジョイントをテープで固定する。

「繋がった」


「気圧は?」


「宇宙服の中は保ってる」


選択肢は多くない。

損傷してるかも知れない再突入カプセルを使うか、

日本の宇宙ステーションに避難するか。


時々、無事な補助ロケットが噴射している。

時間だけが過ぎる。酸素はあるが、宇宙服で長く我慢できるはずもない。

再突入カプセルを確認する。目立つ傷はない。しかし、耐熱タイルが1枚剥がれてればお終いだ。


まだ2時間しかたってないが、1日以上待たされてる気分だった。

やっと、管制から返答が来た。

「日本側、救助を受諾しました。3時間半後、救助船が到着します」

ラヴェルが、小さく息を吐いた。

「3時間半か」

「助かった」

「ダクトテープのおかげね」

「キャロルに感謝しないといけないわね」

「でも、ステーキは奢ってもらいましょう。別の理由で」


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