EP-11 生存戦略(Day+21)
■ 国家安全保障会議
重い防音扉が閉まる音で、室内の空気が切り替わった。
各席に配られた報告書。
誰もが同じページで手を止めている。
■ 生物学リスク
総理の問い。
「……男女比異常は、確定なのか」
科学技術顧問が首を振る。
「確定ではありません。現時点では“最有力仮説”です。
ミトコンドリア寄生型——いわゆるヒトウォルバキア仮説です。
昆虫で確認されている寄生細菌ウォルバキアと同様の機構が、人類で発生している可能性があります。」
「効果は、雄殺し、雌化、そして細胞質不和合。結果として、男性出生が構造的に阻害される」
沈黙。
■ 鬼女の正体
防衛大臣が口を開く。
「……あの戦闘個体は何だ」
「AIS、アンドロゲン不応症です」
「男か」
「染色体上は」
「ただし、生殖能力はありません」
「高い身体能力、短命、自己犠牲志向。厄介です。」
「魚雷とドッグファイトに特化した敵。防衛、特に離島は?」
「GPSが復活すればアウトレンジ可能と思われますが、短距離ミサイルだけでは如何とも」
「AI自立機銃で陣地化すれば防衛は可能と思います。攻勢は困難です。」
■ 技術停滞の理由
経済顧問が資料を叩く。
「文明水準が歪です」
「理由は三つ。大戦不在、人口制約、そして、天才不在です」
「平均知性は高い。しかし突出がない。結果として“改良は速いが、飛躍がない”」
「アンモニア合成が存在しない理由か」
「はい。ブレイクスルーが起きていない」
総理が小さく頷く。
■ 外交方針
外務大臣が資料をめくる。
「優先外交相手は明確です」
「メリケンの食料、アラブの石油」
「対価は」
「自動車1000台無償供与。整備要員派遣」
「市場を作る気か」
「はい。依存関係を構築します」
「それだけか」
「いいえ」
「食糧輸出国には——アンモニア空気合成技術を提供」
室内が静まる。
「待て。独占すべきだ」
「無意味です。世界が飢えます」
「1億人分の食料を追加で作るには、化学肥料の普及が不可欠です」
総理大臣
「我々だけ豊かでも、周囲が崩れれば意味がない。飢えてる人間の横では肉を楽しめん」
誰も反論しない。
■ 男性資源の扱い
内閣官房長官が低く問う。
「男はどうする」
「外貨獲得手段とします」
「具体的には」
「空港周辺に特区を設置。飲食、購買、そして——性的サービス」
「来訪者が“子種を持ち帰る”形式です」
「統制できるのか」
「公営管理とします。規模は年間2000万人」
「……国家事業だな」
■ 最悪シナリオ
科学顧問が口を挟む。
「一つ、確認事項があります」
「異常ミトコンドリアが国内に流入した場合です。
仮に1000人が定着した場合——」
間を置く。
「約200年後、日本の男女比は1:3000に崩壊します」
空気が凍る。
「ほぼ不可逆。封じ込めは、極めて困難」
沈黙。
■ 結論
総理がゆっくりと立ち上がる。
「整理する」
指を一本立てる。
「我々は“資源”ではない」
もう一本。
「だが、管理を誤れば滅びる」
最後に。
「これは外交ではない」
全員を見渡す。
「生存戦略だ」
誰も動かない。
「——制度を作る。今すぐだ」
その一言で、会議は終わった。




