ドロシーの決断
ホワイトハウス 会議室
窓の外に、再建途中の港が見える。
ドロシー・トランプ大統領は、壁面モニターを見つめていた。
映し出されているのは、日本の宇宙ステーションの完成予想図だった。
低軌道上に浮かぶ、銀色の構造物。
太陽光パネルが翼のように広がり、地球の青を背景に静かに回転している。
「……美しいわね」
誰も、すぐには答えなかった。
NASA長官のシモーヌが、静かに口を開いた。
「日本の宇宙ステーション、3回目の打ち上げパーツと連結中。完成まで後1年」
「月までは?」
「弱安定境界軌道を利用した無人探査機が出発済み。3か月後には観測データの送信が始まるわ」
ドロシーは腕を組んだ。
「解読できそう?」
「多分無理。1年以上かければ別だけど」
「商業格差は?」
シモーヌは、少し間を置いた。
「埋まりません。通信衛星、GPS、気象衛星——全て日本のインフラが標準になっています。我々が同じレベルに達するには、最低でも五年。その間にも差は広がります」
「追いつく必要はないわ」
ドロシーは即座に言った。
「並ぶ必要もない。ただ——」
彼女は立ち上がり、窓の外を見た。
「月面着陸だけは、先にやりたい」
パメラ国防長官が眉をひそめた。
「サラマンダーの安全性の問題があります。設計は——」
「知ってるわ」
「スピン安定、日本製カーナビのGPS受信機」
パメラが資料を手に取った。
「技術的には、成立します。動物試験も通過しています。ただ——」
「パイロットの生還率は80%。挑戦より冒険の世界ね」
ドロシーが先に言った。
「だから、やるわ。異世界のアポロは八年かけた。でも、それは半世紀前の話よ。日本は月には興味がないかもしれない、いいえ、月面着陸の価値を評価していないだけかもしれないわ」
ドロシーは窓ガラスを指先で叩いた。
「実利で勝てないなら、名誉は失えない。この世界でも、メリケンが最初に月に旗を立てる。それだけは譲らないの。今は色んな事が好転しているし、皆が日本のおかげと言っているわ。だからこそ、メリケンの力を、メリケンだけの成果を、世界に、わが国民に示さなければならないのよ!」
「ならば、彼女をご検討下さい。」
ナンシーが静かに資料を差し出した。
「北中国の亡命科学者。Dr.フー。特攻兵器。有人酸素魚雷”回天”を作った女です。
倫理的にはアウトな人物ですが、液体酸素とケロシンでタービンを回す技術。
水中70ノットでの制振技術。狭いスペースに生命維持装置を作る技術まで持っています。
彼女を開発チームに加えてもよろしいですか?」




