技術革新(後編)
東京、総理官邸。閣僚会議室。
南原は、新しいモニターを映した。
日本列島が二色に塗り分けられている。
青――阪神エリア。
赤――筑波・水沢。
「阪神エリアは、外国との技術・学術交流の最前線です。京都大学、大阪大学、神戸大学、ポートアイランド、播磨科学公園都市を中核とします」
「見せていい技術を、見せる場所か」
官房長官が呟く。
「はい。外国の研究者や企業を受け入れ、一究を公開計算資源として運用します」
「筑波と水沢は?」
南原の表情が少し引き締まった。
「軍事技術、宇宙開発、モノリス計画、そして本当の最先端研究はこちらです。東大、筑波研究学園都市、水沢観測所を中心とし、外国人の立ち入りは原則認めません」
「深慧聞もそこに置く」
「はい。公称三十メガワット、実際には八十メガワット級です」
官房長官が小さく笑う。
「一究は世界に見える一休さん。深慧聞は、その裏で支える新右衛門さんという訳だ」
「命名者がそこまで考えていたかは分かりませんが」
「考えていたでしょう」
麻田が即座に答えた。
誰も異論はなかった。
南原は続ける。
「フランクとの学術交流、漢との技術提携、邪馬台国との医療連携――これらは阪神エリアで進めます。一方、月探査、モノリス解析、次世代兵器の研究は筑波と水沢に集約します」
「つまり」
麻田が静かに言う。
「二つの日本を、同時に動かす」
「はい」
会議室に静かな緊張が流れた。
世界には開く。
だが、核心は見せない。
この二年間、日本が積み重ねてきた国家戦略が、その一枚の地図に凝縮されていた。
麻田は窓の外へ目を向ける。
冬晴れの東京。
その向こうには阪神があり、さらに北には筑波、水沢がある。
そして、そのさらに先には月があった。
「承認する」
短い一言で方針は決まった。
会議が終わり、閣僚たちは静かに部屋を後にする。
扉が閉まり、室内には麻田と官房長官だけが残った。
麻田は大きく息をつく。
「産業や技術は理屈で動く。しかし、人はそうはいかん」
官房長官が首を傾げる。
「何か懸念が?」
「嫉妬、不満、疎外感……特に女性陣だ。外国から優秀な女性が次々と来る。国内でも結婚や就職の競争は変わる。数字には表れない軋轢が必ず出る」
官房長官は苦笑した。
「総理、それはAIでも答えは出せません」
麻田も苦く笑う。
「AIも女性の敵になってるぞ
今のAIは、美人で、聞き上手で、否定しない」
官房長官は苦笑した。
「比較対象としては、勝ち目がありませんね」
「しかも月三千円だ」
やがて麻田は窓の外を見つめたまま、小さく呟く。
「若い男から見れば、AIも異世界女性も同じなんだ。
美人で、優秀で、優しくて、自分を否定しない。比較される側はたまらん」
麻田は官房長官を見ながら言った
「まあ、AIは規制でも何でもできる。だが、異世界女性は現実だ」




