変わる邪馬台国
邪馬台国・首相官邸 経済対策会議
邪馬台国首都、首相官邸。
壁一面のモニターには、今年の経済指標が映し出されていた。
右肩上がりのグラフが、いくつも並ぶ。
農林大臣が立ち上がった。
「まず、農業です。日本から導入した化学肥料と新品種の組み合わせで、試験導入地域で反収は平均1.5倍となりました。現在の導入率は全水田の一割ですが、来年には五割、再来年には全国へ展開できる見込みです」
首相は資料を見つめた。
「飢えを心配する必要がなくなるのね。空気原料の肥料を国内で生産。夢物語だった」
「はい。さらに国内三か所でアンモニア合成工場を建設中です。半年後には稼働を開始します。工業も変わります」
経済産業大臣が説明を引き継いだ。
「日本企業向けOEM生産は予想を上回る伸びです」
画面には生活用品が映る。
炊飯器、掃除機、洗濯機等の家電。
衣料品、雑貨、文房具。
どれも日本の設計による商品だった。
「品質要求は非常に厳しいです。日本向けの利益は厳しいが、国内分と欧米、アジアへの輸出で取り返しています」
「日本市場向けの受注は、漢との競争が激化してますが、意思疎通がスムーズな分こちらが有利です」
「賃金も、急上昇しています。」
労働大臣が苦笑した。
「日本旅行、日本製品購入を目標に働く若者が非常に増えました。残業を自ら希望しています。」
会議室に笑いが漏れる。
「旅行資金を稼ぐためです。日本へ行けば人生観が変わる。そう考える者が増えています。」
首相も思わず笑った。
「良いことよ。旅行先のロマンスで妊娠。確かに人生が変わるわね」
保健大臣が静かに答えた。
「出生率は、0.79から1.01へ上昇しました。1を超えたのは二十年ぶりです」
誰もすぐには声を出せなかった。
人口減少が当たり前になっていた国で、
久しぶりに未来へ向く数字だった。
「そして、日本への出稼ぎが急増しています」
画面が切り替わった。
介護、建設、農業、飲食、製造業。
あらゆる職種で右肩上がり。
軍務大臣が腕を組んだ。
「いい話ばかりではない。鬼女の除隊希望者が増えている。
北中国軍の鬼女が日本に定着しているのが大きい。人並みの幸せ。女として生きられる場所。
待遇では止められない。すでに、軍の戦力維持に影響が出始めている」
首相の表情も真剣になる。
豊かになることと、人材が流出することは同じ現象の裏表だった。
「食生活も改善してるわ。即席ラーメンの輸入量がおかしいけど。
日本産の化学調味料とタレが味を根本から変えているのよ。
2年後には主食が白米になるわ。余った雑穀が鶏肉と玉子に。もはや革命よ」
首相は静かに頷いた。
「文化交流は?」
文化大臣が資料をめくる。
「アイドル、女優、スポーツ選手の日本進出が本格化している」
タカラ音楽学校へ五名が留学。
力士と名家令嬢との婚姻が2件。」
「日本語がコンテンツから若者に流れ込んでいます。若者の使う言葉が邪馬台語から日本語に変わりつつ、いや、もう既に変わっています。彼女たちは日本漢字を普段使いしています」
「つまり。もう後戻りはできない。」
誰も否定しなかった。
画面が切り替わる。
教育改革案
「国語教育を日本語へ統合し、理系教育も全面改訂する。二年後を目標に実施。」
反対の声も上がった。
「早すぎる。文化を失う」
「日本依存がすぎる」
教育大臣は静かに答える。
「逆です。言語が近いという優位がある今しかありません」
「他国も外国語教育は日本語が中心になりつつある。日本コンテンツ目当てに、日本語を学ぶ若者は我が国と同じく多い」
「だが、国語を日本と統合出来るのは我が国だけです」
首相は目を閉じた。
苦しい決断だった。
だが止めれば置いていかれる。
「承認する」
短い一言だった。
会議が終わりかけた、その時だった。
経済担当補佐官が、小さく手を挙げた。
「……一つ、疑問があります」
「邪馬台国女性の日本流入は、この一年で過去最大です。
日本ほど優秀な官僚組織が、自国の男女比が変化する可能性に気づいていないとは思えません」
部屋が静まる。
「気づいているはずです。それでも止めない。なぜ恐れないのでしょう」
誰も答えられなかった。
人口。
労働力。
出生率。
安全保障。
どれを考えても、普通の国家なら慎重になる。
それなのに、日本はむしろ交流を促進している。
首相は窓の外へ目を向けた。
夕日に染まる首都。
活気づく街並み。
豊かになっていく国。
その一方で、日本という国だけは、まるで何手も先を読んでいるように見えた。
「……何かあるわ。我々が、まだ気づいていない何かが」




