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ナビの示す先は異世界でした  作者: フツカ
ゲリラライブでお金持ちに!? 歌で異世界を圧倒する私、聖樹の力でさらなるチート能力に目覚める

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爆買いの締めくくりはやたら長い呪文ドリンク!? 最高の思い出を胸に、いざ人狼の里へ帰還します!

 買い出しも大詰め。スポーツ用品店でトレーニングウェアを選んでいた時のことだ。


「ジークにはこれ! 黒のウェア、絶対似合うよ!」

「そうか……? やけに身体に密着する服だな……」

「動きやすいんだよ。薫にはこっちが似合いそうだなあ」


 ふと、夢の中に何度も出てくる二人――アルトとリアーネの姿が頭をよぎった。前世の記憶なのだろうか。

 二人にも、こういう服を着せてあげたかったな……   


 ――ピコン。ピコン。


 ポケットの中のスマホが鳴った。


「……え?」


 画面を見ると、差出人不明の通知が

二つ浮かび上がっている。


『すぐ会いに伺います』

『もう少しお待ち下さいね!』


 思わず息をのんだ。


 差出人の名前は表示されていない。

 なのに――分かる。


(アルト……? リアーネ……?)


 買い出しの喧騒がふっと遠のく。


 その瞬間、スマホの画面から淡い光の粒子がこぼれ落ちた。

 それは私の目の前でゆっくりと形を作り、二人の姿を編み上げていく。


(あ……アルト……リアーネ……)


 出会ったことのないはずの二人。

 それなのに、胸がぎゅっと締めつけられる。

 懐かしい。会いたい。

 どうしてこんなに――


 アルトとリアーネが、私を見て微笑んでいる。

 その笑顔を見ているだけで、胸の奥から何かがこみ上げてきた。

 ただ、どうしようもなく愛おしかった。


 神改造されたスマホが、遠く離れた世界から飛んできた二人の強い「想い」を拾ったのだろうか。


 それとも――

 私が二人を思い浮かべたから、届いたのだろうか。


 ほんの数秒で、幻影は淡い光となって消えていった。

 途端に、買い物客の話し声や店内放送が一気に戻ってくる。


「……ミュウ? どうした、顔色が悪いぞ?」

「大丈夫……! 不思議なことがあったの。後でゆっくり話すね」

「……ああ、わかった」


 私はもう一度、スマホの画面を見る。

 そこには、いつものホーム画面しか映っていなかった。


 でも――

 あれは、今の二人だった。

 私に会いたいと願う、アルトとリアーネ。


 時空を越えて届いた二人の想い。

 そしてきっと。


 ……私も、二人に会いたいと願っていたんだ。



「ふぅ、なんとか間に合ったね」


 制限時間まで、残り二十分。

 私たちはモール最上階のテラスカフェにいた。


「はい、ジークの分! 『ヘーゼルナッツバニラキャラメルエクストラホイップフラペチーノ』だよ! 美味しいから飲んでみて!」

「ミュウ……これはどこの国の破壊呪文だ?」

「呪文じゃないよ!」


 ジークはおそるおそるストローを吸う。

「…………甘いが、うまいな」

「でしょ?」

 思わず二人で笑った。


 その笑い声が、夜のテラスに小さく響く。


 私はカップを片手に、街を見下ろした。

 目の前に広がるのは、見慣れたようでいて、もうどこか懐かしい街並み

。

 きらきらと輝くネオン。行き交う車。建物から漏れる明かり。遠くから聞こえる、人々の話し声。

 

 ほんの少し前まで、私が当たり前に暮らしていた世界と同じ風家。

 大学へ行って。コンビニに寄って。欲しいものがあれば、お店で買って。


 そんな、ごく普通の日常。

 なのに今は、そのすべてが眩しく見えた。


「そろそろ、帰らなくちゃ」

 口にした途端、胸の奥がきゅっと痛くなる。


 三時間。たった三時間だったのに。

 コンビニで驚いて、モールを走り回って、買い物袋を山ほど抱えて。

 ジークの常識を何度も吹き飛ばして。笑って、楽しくて。

 まるで夢みたいだった。


 ――本当に、夢だったみたい。

 でも、もう終わる。

 

 この夜景を、次に見られるのはいつだろう。

 もしかしたら、もう二度と見られないかもしれない。

 そう思ったら、目の前の光が急に愛おしくなった。

 ネオンも。車のライトも。遠くに見えるビルの明かりも。


 全部、忘れたくない。


 私はその景色を、心の一番深いところに刻みつけるように、じっと見つめた。


「……ミュウ」


 不意に呼ばれて振り返ると、ジークが今まで見たこともないほど真剣で、どこか寂しそうな瞳で私を見つめていた。


「お前は……この世界が、恋しいか?」


「え……?」


「俺たちの世界は、これほど眩しくはない。魔物が這い、理不尽がまかり通る薄暗い世界だ。……お前をあんなむさ苦しい場所へ連れ戻すのが、酷に思えてな」

 自嘲気味に笑うジーク。


「そんなことないよ!」

 私はぶんぶんと首を振った。


「私、ジークたちに会えて本当によかったって思ってるもん。人狼の里のみんなも大好きだし、マリアのことも助けたい」


 私は、胸元のチケットをぎゅっと握った。


「……私、ちゃんと戻るよ。ジークたちのいる世界へ」


 まっすぐ彼を見つめると、ジークは目を見張り、それから柔らかく目を細めた。

 現代の買い出し袋を片手で愛おしそうに引き寄せ、いつもの頼もしい笑みを浮かべる。


「そうか」


 短い言葉だった。

 けれど、その声にはどこか安心したような響きがあった。


「……ならば戻ろう、俺たちの世界へ。ミュウが俺の行く先を歌で照らしてくれるなら、俺はどんな闇からでも、身を盾にしてお前を守り抜くと誓おう」


 ……ズルい。そんなの、かっこよすぎる。

 

 そんなこと、真顔で言うなんて。

 推しを眺めているような、軽い気持ちとは違う。

 真っ直ぐで、熱くて、あたたかい。

 この人は、本当にそうするんだろうな。

 そう思えてしまう、不思議な安心感があった。


 胸の奥がじんわり熱くなる。

「……ありがとう」


 小さく呟いてから、私はチケットを見る。

 残り時間は、あとわずか。


「……ジーク、そろそろだよ。……手、繋いでていい? 離れないように」

「……ああ。絶対に離さん」


大きな手のひらが、私の手をぎゅっと包み込む。力強くて、あたたかい。


 その温度を感じた瞬間――

 

 日本で見た夜景と。こちらで出会った人たちの笑顔と。今日一日、ジークと笑った時間が。

 全部ひとつにつながった気がした。


 帰りたくない。

 ――でも、帰りたい。


 私には、帰りを待ってくれている人たちがいる。助けたい人がいる。

 そして、まだ見つけていないものがある。


 だから――帰ろう。

 今は、私のいるべき世界へ。


 最後にもう一度だけ、きらめく街を見つめる。


「……また、いつか」

 小さく呟いた。


 その瞬間、視界が眩い光で満たされる。

 塔の上にある世界の夜景が、光の向こうへ溶けていく。


 ジークの手を握る。絶対に離さないように。


 そして私たちは――

 三時間の夢を胸に抱えたまま、元の世界へと帰っていった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

塔の上にある世界の最後は少し切なくて温かいものをイメージして書きました。


次回は【10/18 19:00】に更新予定です。

人狼の里へ戻り、聖樹へ向かいます。

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