異世界崩壊の危機(!?)限界突破の爆買いツアー、 魔法の粉(ホットケーキミックス)と百均グッズを爆買いする私に、元騎士が愕然としています
ジークはお茶、私はフレーバーウォーターのペットボトルを手に、巨大なショッピングモールを目指して歩いていた。
転移してから、まだ三十分も経っていない。制限時間二時間半。一秒たりとも無駄にはできない。
「随分と巨大で横長な建物だな……」
「色んなお店がぎっしり入ってるからね。あ、ジーク止まって!」
私が立ち止まると、ジークも足を止めた。
目の前の信号は赤。
すると、ジークが突然、警戒するように身構えた。
「……ミュウ、地面に白い魔法陣が描かれているぞ」
「え?」
ジークは横断歩道を指差した。
「この縞模様を踏んではいけない気がする。何かの封印結界か?」
「歩行者が安全に道路を渡るための目印だよ。信号が青になったら、ここを渡るの」
「しかし、あの巨大な鉄の箱が走り回っているぞ……」
「車ね。だから信号を守るの」
信号待ちの間に、スマホで薫へメッセージを送る。
『今、現代日本みたいな世界に来ていてモールの近くにいるの! 爽音の分も欲しいものリスト送って!』
すぐに返信が来た。
『驚いたな……私と爽音にはスキンケア用品を頼めるか』
手慣れたリストに感謝しつつ、『バッチリ買っていくからね!』と返信する。
「ほら、青になったから渡るよ」
「……白を踏んだら呪われそうだが……」
「だから横断歩道だってば!」
ジークは恐る恐る一歩を踏み出した。
そして――
最後まで、白い部分を極力避けていた。
「ジーク、そこまで警戒しなくても……」
「いや。あれは何かの罠かもしれん」
「横断歩道に罠はないよ……」
そんなやり取りをしながら、私たちはモールへ向かった。
館内へ一歩足を踏み入れた瞬間、ジークは呆然と立ち尽くした。
遥か高くに輝く吹き抜けの天窓。自分の顔が映りそうなほど磨き上げられた床。どこからともなく流れる軽やかなBGM。
「ミュウ……光の神の神殿か……? それとも天界の市場か? 音楽まで流れているぞ……!」
「ただのショッピングモールだよ。迷子にならないでついてきてね」
「俺は子供ではないぞ」
「じゃあ、はぐれないでね」
「分かった」
――そして事件は、私がカートを取りに少し離れた隙に起きた。
「ねえねえお兄さん超カッコよくない!? モデルさん?」
「メッセージアプリ教えてよ〜! どこ住み〜?」
現代全開のギャル風女子高生たちに囲まれ、鋼の肉体を持つ元王宮騎士が、置物のようにガチガチに固まっていた。
「……っ、俺は……その……ミ、ミュウ! 助けてくれ……!!」
荒野の魔獣すら一刀両断する男が、泣きそうな顔で助けを求めてくる。
「はいはいごめんね〜! うちのお兄さん急いでるから!」
おばちゃんのような素早さで割り込み、ジークの腕を引っ張って救出する。
「えー! 彼女さん?」
「違います!仲間です!」
私は即答した。
ジークを引きずるように、その場を離れる。
「た、助かった……言葉は通じるのに、あの者たちの放つ『謎の威圧感』は魔族より恐ろしい……」
「ナンパだよ、ナンパ。ジーク目立つからね」
「……あれがナンパ……」
ジークは、しばらく遠い目をしていた。
ふと見ると、隣でジークが再びフリーズしていた。
視線の先では、柱の影でカップルが人目も憚らず抱き合い、仲良くイチャついている。
「……なっ……!? こ、公衆の面前で……なんと破廉恥な……っ!!」
厳格な騎士の家系で育ったジークにとって、現代のオープンな恋愛文化は、魔導爆弾級の衝撃だったらしい。
顔を爆発しそうなくらい真っ赤にしてブルブル震えている。
「この世界の騎士道精神はどうなっている……! あの男、乙女をなんだと思っているんだ……っ!」
「あれは仲良しなだけ! 気にしないで買い物行くよ!」
純情すぎるジークの服を引っ張り、食品売り場へ突撃した。
味噌、醤油、みりん! 向こうにはない調味料をカゴへ叩き込む。お肉用の焼肉のタレ、缶詰、ホットケーキミックス、スープ、族長夫妻へのお酒。
ジークも興味深そうに眺めている。
「次はドラッグストア!」
「まだあるのか……」
「もちろん!」
棚を見た瞬間、私は目を輝かせた。
「目薬!」
「目薬?」
「うん。目が疲れたときに使うの」
私が手に取った瞬間、ジークが目を見開いた。
「一滴で目の疲れが消える薬だと……!? しかも、これほどの種類の『ポーション』がなぜ安価に野ざらしで売られているんだ!? ……治癒師たちが全員失業してしまうぞ……!」
「そこまでじゃないよ!」
私は笑いながら目薬をカゴへ入れた。
上の階に移動しようと、エスカレーター近くまで来た。
「ミュウ、あの階段はなんだ……!? 動いているぞ!!?」
……やっぱりやめて、エレベーターにしよう。
「この箱はいつまで俺を閉じ込めるつもりだ? ……むっ、揺れたぞ!? まさか、空間の歪みに飲み込まれて――」
「大丈夫だよ、ジーク。これは違う階に移動するためのものだから」
ジークは壁の手すりを騎士の剣のように強く握りしめている。
チーンという音が鳴り、扉が開いた。その瞬間、ジークは戦慄した。
「無詠唱の空間転移か……!」
「ほら、ジーク。着いたしここから出るよ」
「……この世界は恐ろしいな」
「便利なんだよ!」
続いて百円ショップ。
「この精巧な品々が……すべて銅貨数枚だと?」
「そうだよ」
「この店の店主は慈善事業でもしているのか……?」
ジークは真剣な顔で店内を見渡した。
「ではここは『賢者の石』を生産している極秘施設なのか?」
「なんでそうなるの!?」
私はとうとう吹き出した。
「なぜこんなに安い……」
「大量生産とか、いろいろあるの!」
「……この世界の商売は奥が深い」
ジークは完全に遠い目になっていた。
私はそんな彼を横目に、爪切りを手に取る。
「これ、ジークに買おう」
「俺に?」
「うん。今使ってるやつ、ちょっと切りにくそうだったから」
「…………」
ジークは爪切りをじっと見つめた。
「小さいのに……よくできている」
「でしょ?」
さらに発熱・速乾素材の下着なども購入。
私たちは屋上駐車場へ戻った。
コヨリ様の神改造によって小さくなっていたミニチュアカーを元の大きさへ戻す。山のような買い出し袋をギッシリと積み込んだ。
「ふぅー! 買い込んだ買い込んだ!」
「ミュウのバイタリティには、ドラゴンすら道を譲るだろうな……」
ジークは呆れつつも、大切そうに私が買った『爪切り』のパッケージを撫でていた。機能美に満ちた小物が相当お気に召したらしい。
「ふふっ」
「……なんだ?」
「ううん。ジークも現代文明、ちょっと好きになってきたんじゃない?」
「…………」
ジークは爪切りを見つめる。
そして、ほんの少しだけ口元を緩めた。
「……便利なのは認める」
「でしょ?」
こうして――怒涛の爆買いツアーは、無事終了。
……のはずだった。
「あれ?まだ時間あるじゃん! もう一軒くらい、行けるかも」
「…………」
ジークは、ゆっくりと天を仰いだ。
――最強剣士ジークの常識崩壊ツアーは、まだ終わらない。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
怒涛の爆買いツアーでした。
ショッピングモールでは更に大変そうなジーク。しかし、ギャルとカップルのシーンはお気に入りです(笑)
次回は【10/11 19:00】に更新予定です。
美優とジークは更にもう一軒回ったあと、ひと休憩をします。




