人狼の里の次は……日本!? コンビニで大爆買い! 異世界の金貨をブチ込んだら、現代のレジ袋がパンク寸前です
人狼たちの賑やかな歓声と宴の熱気が響く中、私は膝の上に置いた紙切れをじっと見つめていた。
創生の女神が住むと言われる、雲上の塔の上の名前――『クゼ・クゼ・トツォ・ザトラ』。
ここにいけば、私がこの世界に来た理由や、元の世界へ帰る方法がわかるのかもしれない。
「ミュウ、もう歌わないの? すっごく楽しかったのに!」
アンが元気いっぱいに駆け寄ってきた。
「うん、もうちょっとしたらまた踊ろうかな。あ、そうだ。アン、これあげる」
私は背負っていたリュックの外ポケットから、カラフルなゴムの球を取り出した。
昔、ゲーセンの景品でもらったスーパーボールだ。
「わぁっ! なにこれ、きれい!」
「投げるとすごーく跳ねるんだよ。みんなで遊んでね」
「ほんと!?」
アンは目を輝かせると、さっそく地面に叩きつけた。
「わああっ! すごーい! まだ跳ねるー!」
跳ね回るスーパーボールを追いかけるアンを見て、私は思わず笑った。
「その紙切れ……やっぱり気になるのか?」
焚き火の炎に照らされたジークが、真剣な面持ちで覗き込んできた。
裏面には何も書かれていない。
表面には塔の名前と点線のキリトリ線があるだけだ。
「うん。もしかしたら女神様に会えるかも……」
言いかけた、その時だった。
「うわー! ごめーん!!」
弾ませたボールを追いかけたアンが、盛大に私の背中に激突した。
ピリッ。
「ああっ……!?」
手に持っていた紙切れが、キリトリ線から綺麗に二つに裂けた。
次の瞬間、紙から溢れ出した眩い閃光が視界を埋め尽くす!
「なっ……!?」
「ミュウッ!」
咄嗟にジークが私の腕を強引に引き寄せ、ガっしりと抱え込むように保護してくれた。
次の瞬間――
身体がふわりと浮いた。
「きゃあああっ!!」
足元が消え、ぐるりと世界が回る。
ジークの腕だけが、しっかりと私を支えていた。
――そして。
浮遊感が収まり、恐る恐る目を開ける。
「…………」
「…………」
目の前には、ジークの顔。
ものすごく近い。
というか、近すぎる。
「おわっ……!?」
私が飛び退くと、ジークも慌てて手を離した。
「す、すまない! 離れたら別の場所に飛ばされると思って、強く握りすぎてしまった!」
「う、ううん、大丈夫! ガッチリガードしてくれて助かったよ!」
変な声が出たけれど、私は気を取り直して周囲を見回した。
目の前には、頑丈なスチール製の巨大なゲート。
そこには見慣れないような、でもどこか見覚えのある文字が刻まれていた。
『クゼ・クゼ・トツォ・ザトラへようこそ』
私は呆然とゲートを見上げた。
「……本当に、来ちゃった」
女神の塔。
その上の世界。
ここが、そうなのだろうか。
ふと手元を見ると、二つに裂けた紙切れに、いつの間にか数字が浮かび上がっていた。
【02:57:32】
「ジーク、これ! 数字が減ってる!」
「落ち着け。爆発物ではなさそうだ」
「爆発するとは言ってないよ!」
「……そうか」
ジークは周囲を警戒しながら、ゲートの向こうを見つめた。
「まずは周囲を確認するぞ」
「う、うん……」
私たちは恐る恐るゲートをくぐった。
そして――
「…………え?」
私は、その場で固まった。
広いアスファルトの道路。
行き交う自動車。
立ち並ぶ高層ビル。
明るい看板。
遠くから聞こえるクラクション。
鼻をくすぐる、少し懐かしい都会の匂い。
「な、なんだこの街は……!?」
ジークが目を見開く。
「ミュウの乗っていた『クルマ』が、あんなに走っているぞ!?」
「……私の元いた世界にそっくり」
私は一歩、前へ出た。
「ううん……」
目の前にある看板を見上げる。
「……そっくりどころか、そのまんまだよ!!」
「コ、コンビニ……!」
思わず声が裏返った。
「知っているのか?」
「知ってるも何も、コンビニだよ! 日本にいっぱいあるやつ!」
「……コンビニ?」
「説明はあと!」
私は駆け出した。
「すみませーん!」
店の外でゴミ箱を掃除していた黒髪メガネの店員さんが、こちらを振り返る。
「あのっ! これ、破れたらここに飛ばされちゃったんですけど!」
私は二つに裂けた紙を見せた。
店員さんは紙を見るなり、目を丸くした。
「ああ……これは久しぶりに見ましたね」
「知ってるんですか!?」
「ええ。転移チケットです」
「転移チケット!?」
「半券が切れたことで、自動発動したのでしょう。そちらの数字は滞在可能時間です」
店員さんは至極当然のように教えてくれた。魔術と現代テクノロジーがフツーに融合しているらしい。
「じゃあ、ゼロになったら……?」
「元の場所へ戻されます」
「よかった……!」
思わず胸を撫で下ろす。
「残り時間は三時間……!」
私はコンビニの店内を見た。
飲み物。おにぎり。お菓子。ホットスナック。パン。スイーツ。
――三時間。
私の中で、何かがカチリと切り替わった。
「店員さん!」
「はい?」
「ここ、お買い物できますか!?」
「もちろんですよ」
「下の世界の金貨は!?」
「使えますよ。ちょうど今日は、おにぎりとホットスナックがセール中です」
「ジーク! 時間がないの! 全力で買い物に付き合って!」
「あ、ああ……無事に帰れるなら構わないが……」
「向かいに大型ショッピングモールもある! まずはこのコンビニの物資を買い尽くすよ!」
「ミュウ! 扉が勝手に開いたぞ!? 敵の魔術か!?」
自動ドアが開いた瞬間、剣の柄に手をかけたジークを全力で止める。
「センサーだよ! 前に言った『仕組み』! 剣を抜かないで!」
「くッ……これが仕組み……!」
恐る恐る店内に入ったジークは、眩しい照明とピカピカの床に圧倒されていた。
私は彼に大きな買い物カゴを二つ持たせる。
「ジーク、これ持ってついてきて! まずは飲料コーナー!」
ペットボトルの緑茶、マリアが好きそうな紅茶全種類、新商品のフレーバーウォーターをカゴへ放り込む。
「この巨大な箱、冷えているぞ!?」
「冷蔵庫だよ! あっ、ジークが好きだったビールもある! おつまみの缶詰も買っておこう!」
「おおっ! あの美味い酒か! この黄色い缶だな!?」
ジークの目が一瞬で輝いた。
そこからは怒涛の爆買いだ。カップ麺各種、ポテトチップス、チョコ菓子、おにぎり、サンドイッチ、新作スイーツ。カゴはあっという間に山盛りになった。
レジで店員さんが手際よくスキャンし、金貨を受け取って専用の計算機へ投入していく。
「見たこともない機械に金貨が吸い込まれていくな……」
「大丈夫だよ。ちゃんとお釣りも出てくるから」
「お釣りまで……」
ジークの顔が、少し遠い目になっている。
私は買った大量の袋を、コヨリ様の神改造によって小さくなっている車――ミニチュアカーの拡大版へ積み込んだ。
「よし!」
時計を見る。
残り時間は、あと二時間半ほど。
「……うん、トイレ休憩しよう」
ふと思い立った。これから爆買いツアーだ。トイレ休憩は必須!
「すみません、この人にお手洗いの使い方を教えてあげてもらえませんか? 下とは構造が違ってて」
「いいですよ、こちらへどうぞ」
「おいミュウ、俺だって用を足すくらい――」
店員さんに連れて行かれるジークを見送り、私も女子トイレへ。
個室に入っていると、隣の男子トイレから凄まじい叫び声が聞こえてきた。
『なっ……意図を持った機械か!? 待ち伏せか!?』
『大丈夫ですよ、自動でフタが開くだけですから』
店員さんの冷静なフォロー。そして一分後。
『……ッ!!? 追い打ちか!? 水の魔導弾……いや、温かい!? なんという正確な射撃……!!』
ウォシュレットの直撃を受けたらしい。さらに。
『風の精霊まで飼い慣らしているというのか、この国は……!!』
乾燥機能までフルコースで体験したようだ。
私が洗面所で手を洗って待っていると、扉から魂の抜けたような顔のジークが出てきた。琥珀色の瞳はどこか遠くを見つめ、普段のワイルドな余裕は微塵も感じられない。
「ジーク、大丈夫? スッキリした?」
「……ミュウ、俺は己の無知を恥じる……」
「えっ、急にどうしたの」
「あの中には……『神』がいた。
「神」
「冷えた身体を温めるぬくもり、汚れを撃ち抜く清らかな水、そして南国のそよ風……」
「ウォシュレットだよ」
「ナニヴァルの王宮すら、あのような極楽は存在しない……」
「あはは……気ににいったんだね……」
「あの椅子を魔王城に寄贈すれば、魔王とて骨抜きになり戦意を喪失するはずだ……」
「ウォシュレットを戦略兵器みたいに言わないでよ!」
私は笑いながら、ジークの背中を軽く叩いた。
「ほら、次行くよ!」
「……まだ行くのか?」
「もちろん!」
私は店の外を指差した。
道路の向こうには――巨大なショッピングモール。
「次はあっち!」
「……あれも店なのか?」
「うん!」
「大きすぎないか?」
「大丈夫! 時間はまだある!」
私はニヤリと笑った。
残り時間、あと二時間半。
私たちの爆買いツアーは――まだ始まったばかりだ!
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
人狼の里から塔の上の世界へ転移しました。
ジークは大変そうですが、コンビニは書いていてとても楽しい部分でした。
次回は【10/4(日)19:00】に更新予定です。
怒涛の2時間半の爆買いツアーになります。




