『肉より肉の味がするぞ!?』人狼族を唸らせたガーリックステーキライス!
門番が呼び止めたのは、クリーム色の毛並みにタレ目、ゆるい三つ編みがよく似合う女の子だった。手には薬草らしきものを抱えている。
人狼族の年齢はよくわからないけれど、私と同い年くらいに見える。
「案内、よろしくね」
「はい、こちらですよ。私はミラと言います」
ふわりと花が咲くように笑うミラは、まさに“癒やし系の人狼”だ。
歩くたびに三つ編みがゆらゆらと揺れて可愛らしい。
案内された人狼の里は、ナニヴァルのような石造りの街とは全く違い、巨大な岩壁をくり抜いた空間と太い原木で構成された、野生の力強さと温もりが同居する集落だった。
窓や入り口には獲物の毛皮や、幾何学模様が刺繍された厚手の布が下げられている。
「お仲間のために『月下独酌』を取りに来たのですね」
「うん。族長さんへの贈り物も持ってきたんだけど……門番さんに半分飲まれちゃって」
「あはは、あの二人なら仕方ないですよ。族長もお酒が大好きだから大丈夫です」
ミラの柔らかな雰囲気に心が和む。
「……ところで、ここから聖樹まではどれくらいかかるの?」
「歩いたら半日近くかかりますよ。『月下独酌』は夜に咲くので、明日の昼頃に出発された方が……」
「あ、私たちが乗ってきた『車』……乗り物で行くから大丈夫! 徒歩で半日なら、すぐ着いちゃうと思う」
「まあ、そんな不思議な乗り物が……今夜でも間に合うなら、聖樹までご案内できますよ」
「わぁ、ありがとう!」
中央の広場に差し掛かると、大きな焚き火を囲んでお肉を焼く香ばしい匂いと、遠吠えのような賑やかな笑い声が聞こえてきた。
「うまそうな匂いがするな」
「お腹空いてきちゃったね!」
アンのお腹がゴゴゴ……とすごい音をして鳴った。
「今は夜だから、そこが里の社交場になのですよ」
「へえ……賑やかで楽しそうだね」
「お――い! ミラ――ッ!!」
その時、イエローベージュの毛並みの少年が、猛烈な砂塵を巻き上げて爆走してきた。
「ルプス! そんなに飛ばしたら危ないわよ」
「人間!? すっげー珍しい! クンクン……嫌な匂いが全然しないね!」
ルプスと呼ばれた男の子は、私たちの周りを残像が見えるほどの速度でぐるぐる回りながら匂いを嗅ぎ、ふさふさの尻尾をプロペラみたいにブンブン振っている。元気爆発な子だ。
「この人たちは族長様に森の立ち入り許可をもらいに来たの」
「へえー! お酒のお土産もあるんだ!兄さんならお酒を見せたら一発で許可出すよ!」
「……えっ、ルプスは族長さんの弟なの?」
「うん! 僕たち二人兄弟! 兄さんは普段だらだらしてるけど、めっちゃ強くて頼りになるんだよ!」
明るく笑うルプスに案内され、私たちは里の一番奥にあるひときわ巨大な岩山の館へと向かった。
「兄さーん! お客さん連れてきたよー!」
ルプスが中に声をかけ、ミラと共に見送ってくれた。
ちょっとドキドキしながら、幾何学模様の厚手布をかき分けて館の中へ足を踏み入れる。
「夜分遅くにすみません……森への立ち入り許可をお願いしに来ました……」
「おー、入って入って〜」
奥から聞こえたのは、拍子抜けするほどゆるい男の人の声。
そこにいたのは━━赤茶色の毛並みに、眠そうな半眼。片耳が少し垂れた若い族長だった。
巨大なモフモフのクッション(人狼をダメにするクッション?)にだらしなく埋もれて横たわっている。
「……気を抜いているように見えて、全く隙がないな」
「うん……すごく強いのがわかるよ……」
ジークとアンが低く呟く。
やっぱり族長・レグルスさんはタダ者ではないらしい。
「酒を持ってきたんだって? 見せてみろよ」
「あ、はい。これなんですけど……」
「すげぇ綺麗な瓶! ……でもなんで半分しかねぇの? 人間ってこんな感じだっけ?」
「あ、それは……門番さん達が毒見として飲んでしまって……」
「あいつらぁぁ! 毒味なんてキャラじゃねぇだろ! ……まあ、門番が飲んだんなら仕方ねぇか。あいつらも仕事だからな。でも俺の分が減ってるのは納得いかねぇ! おい人間、埋め合わせしろ!」
「そんなぁ! 私たちが飲んだんじゃないです!」
「勝手に飲まれたんだよ!」
不満そうに唸る族長だったが、しばらく考えるとニヤリと悪戯っぽく笑い、鼻を鳴らした。
「じゃあさ、これから俺の誕生祭があるから、そこで歌でも歌って盛り上げてくれたら許可出してやるよ!」
三人でコソコソ相談する。
(「どうしよう……歌なら私が歌うけど、アン、光の魔法で演出できる?」)
(「任せて! ミュウの歌ならみんなイチコロだよ!」)
(「そうだな、頼むぞミュウ……!」)
「わかりました! 精一杯歌わせていただきます!」
「よっしゃ、決まりだな!」
話がまとまった、ちょうどその時――
「ただいまー! 今日もどっさりお魚が捕れたわよ〜……あら? お客さん?」
両手に沢山の大きな魚を抱えた女性が入ってきた。
ピンクゴールドの綺麗な毛並みに、宝石の耳飾り。長髪をなびかせた、自信に満ちあふれた美人の人狼だ。
「おうステラ! 見てくれよ、俺の奥さん! めちゃくちゃ可愛いだろ!」
「ふふ! 私は今日も明日も世界一かわいいわよ!」
「とてもかわいらしい方ですね」
「やっぱりー? ありがとう!」
彼女の自信満々な眩しい笑顔に、思わずこちらまで笑顔になってしまう。
「ステラ、この人間たちがすごい酒を持ってきてさぁ……」
「えっ! いいなぁ! 私のは無いの?」
「えっ……あ、いや、ステラ、半分こ……」
「やだぁ。私は私のがいいの!」
……なんだか雲行きが怪しくなってきたぞ……
族長がサササッと私たちの近くに寄ってきて、焦った小声で言った。
「おい人間! なんか他にねぇのか!? ステラが怒ると本気で怖いんだよ!」
「えっと、予備の小さいお酒なら……」
「それでいい!早く!」
私は車から持ってきた小瓶の青いおしゃれな女子向けフレーバー酒をステラさんに手渡した。
「わぁ~っ! なにこれ、すっごく綺麗な青い瓶!」
「果実のような甘酸っぱさと、シュワッとした爽やかさが特徴なのですよ」
「気に入ったわ! 私専用の宝物にするわね! ありがとう!」
機嫌を取り戻してキラキラした笑顔を見せるステラさんに、族長もホッと胸を撫で下ろしていた。
これで用は済んだかな。あ、そういえば。
「ところで、族長さん」
「ん?」
「私たちも夕食を作ろうと思うんですけど……広場の隅を借りてもいいですか?」
「夕食?」
族長の半眼が、ほんの少しだけ開いた。
「別にそれくらい、いいぜ。好きに使え」
こっちは簡単に許可が下りたようだ。
「俺もついていこうかな。人間が何食ってるか気になるし」
「そんなに珍しいものじゃないと思いますけど……」
私たちは夕食を作るために広場の隅をお借りすることにした。
興味津々の族長もついてくる。
ポケットから出したミニチュアの車を一瞬で大きくすると、周囲の人狼たちが「おおっ!?」とざわめいた。
「乗り物が大きくなったり小さくなったり……最近の人間はすごい術を使うんだな」
「ふふ、現代の技術です。人狼族のみなさんは普段どんなご飯を食べているんですか?」
「基本は狩りで獲った荒野の巨大トカゲや走鳥の肉だな。塩と辛い香草をすり込んで火で炙る! 主食は肉で、穀物はめったに食べねぇな」
「なるほど……スタミナ満点ですね!」
今夜作るメニューは決まりだ。お肉の匂いに触発されてどうしても食べたくなった、『ガーリックステーキライス』!
厚手のフライパンを火にかけ、たっぷり牛脂を溶かして刻みニンニクを投入する。
パチパチパチ……ッ!
ニンニクをフライパンに入れた瞬間、風向きが変わった。
さっきまで肉を焼いていた人狼たちが、一斉に鼻をひくつかせる。
「……なんだ、この匂い……」
「肉じゃねぇ……もっと腹に響く匂いだ……」
「おい、誰だ!? 何を焼いてる!?」
一人、また一人とこちらへ顔を向ける。
サイコロ状に切った極上肉を強火で一気に炒め、表面にこんがり焼き色がついたところで、温めたパックご飯を豪快に投入!
「おいおい、そんな白い粒を入れたら味が薄まっちまうぞ!?」
「ふふっ、ここからが本番ですよ」
仕上げに特製ステーキ醤油タレを鍋肌から回しかけた――次の瞬間!
ジュワワワワァァァッッ!!!!
香ばしい醤油とニンニク、そして肉汁が混ざり合った至高の蒸気が爆ぜ、広場全体へと広がっていく。
「「うおおおおおっ!!」」
広場中の人狼たちが一斉に立ち上がり、ワラワラと集まってきた。
「な、なんだこの暴力的に美味そうな匂いはーっ!?」
「俺の肉もやるから、そのタレで炒めてくれーっ!」
大騒ぎになりつつも追加の肉を焼き上げ、みんなで器に盛って「いただきます!」。
族長がスプーンで豪快に口へ運ぶ。
「……ッ!!? う、うめぇぇぇっ!! なんだこの白い粒は!? 肉汁の旨味を全部吸い込んでて、肉より肉の味がするぞ!?」
「でしょー! ミュウのご飯は世界一なんだから!」
アンが誇らしげに胸を張る。
「……肉の旨味が何倍にも膨れ上がって、口の中で暴れているな。これは戦の前に食べたい味だ……」
ジークも大満足で頷いている。
賑やかな笑い声と香ばしい匂いに包まれながら、人狼の里の夜は楽しく更けていくのだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
人狼の里での新たな出会いと大騒ぎな夕食会でした。
彼らも好きなキャラなので、やっと出せてうれしいです。
次回は【9/20(日)19:00】に更新予定です。
族長の誕生祭で美優が歌って踊ります。そして意外にもここで元の世界への手がかりが……?




