『鎧の中がサラサラだ…!』吸汗速乾Tシャツとエアコンの効いた神改造車で死の荒野を爆走します!
宿屋までリサが馬車で送ってくれた。
お礼を言って別れると、すぐに出発準備に取りかかった。
「マリアを助けるために急いで準備しなきゃね。水は私が魔術で出すし、食料もまだあるから大丈夫だよ」
「助かるな。鎧は磨いたが、インナーは洗濯中だ……」
「私のローブも乾かないよ〜。魔術で乾かせばよかった!」
「それなら、また車から服を出してくるよ」
従姉妹たちの忘れ物――本当に最後の“現代文明の遺産”だ。
人目がないのを確認して車を大きくし、荷台から二人に合いそうな服を選び出して手渡した。
「助かるな。有難い」
「ミュウってなんでも持ってるね!」
「ふふ、もう本当にコレで最後だよ」
準備を整え、宿屋の前で集合する。
「おまたせ!」
「それじゃ、行こうか」
ジークは鎧の下に黒の吸汗速乾のTシャツを着込んでいる。汗をかいても乾きやすく、長時間の旅にはぴったりだ。
「これは……鎧の中が全く蒸れず、常にサラサラだ。実に清々しい!」
ジークが本気で感動している。
「そんなに気に入った?」
「ああ。これなら荒野を歩いても不快にならなそうだ」
アンはオーバーサイズのスウェットパーカーにレギンス。
「ミュウ、これ重いローブよりずっと動きやすいね!肌触りも最高!」
「でしょ?」
私は淡いブルーのUVカットパーカーと長時間座ってても楽なジョガーパンツ。
荒野の強い日差しと長距離ドライブにはこれが最適だ。
ちなみに、お店で買った高級ローブは固くて肩がバキバキになるので、今や膝掛けへと格降している。
あの時はジークに褒められて調子に乗って買っちゃったけど……やっぱり私には、着慣れた現代の服が一番落ち着く。
魔力を通すと温度を一定に保つので、膝掛けとしては最高だ。
杖も、詠唱は安定するけど両手が塞がるのが不安で、今は車に置いてある。
店長さん、本当にごめんなさい……
「よし、出発!」
東エリアの門を抜け、人通りのない荒野の入口へ向かう。
「そういえば、オスカーさんとカトリンさんはどうするんだろうね?」
「さあな……ついてくるんじゃないか」
「ええ〜……無理だよ……」
護衛の二人の姿を思い浮かべる。
車の速度についてこられるはずがない。エレオノーレに怒られてしまうかな……?
門を出たところで、私は車を大きくする。
神改造された車体がみるみるうちに元の大きさへ戻っていく。
「乗って乗って!」
扉をパタンと閉める。
「シートベルトは締めた?」
「問題ない」
「ばっちりだよー!」
もう完全に慣れたものだな。
『目的地、人狼の里。ルート検索を完了しました。自動運転モードを開始します』
ナビの澄んだ音声とともに車体がふわりと浮き上がり、音もなく滑るように加速していく。
「……また浮いたな」
「うん。最近は私も慣れてきたよ」
「ミュウ、どれくらいかかるの?」
「うーん……ナビによると、今日の夜には着くみたい」
「徒歩なら三日はかかる道だぞ」
ジークが窓の外を見ながら呟く。
「えっ、三日?」
「ああ。馬車でも二日はかかる。しかも、この先は『死の荒野』だ」
「それを……今日中?」
「うん」
私はハンドルを握りながら、改めて車の凄さを実感した。
徒歩なら数日。
馬車でも何日もかかる荒野を、この車なら数時間。
しかも――
「エアコンって最高……」
「本当に快適だね~!」
「……これを乗り物と呼んでいいのか、もはや分からんな」
ジークが遠い目をした。
「でも夜に着くならちょうどいいね。『月下独酌』は夜しか咲かない青い花だから」
「見ればわかる?」
「うん、闇夜の中で青く発光する、すごく特徴的な花だからすぐわかるよ!」
赤茶けた荒野を、車は風のように駆けていく。
エアコンの効いた快適な車内から見外を眺めると、地平線まで続く広大な大地と、慌てふためく魔物たちの姿が見えた。
スマホのマップで調べると、巨岩の迷宮もあるらしい。
「あの魔物は何?」
「デザートランナーだよ。足が速いけど……ミュウの『クルマ』には敵わないね」
「他には?」
「地中から飛び出すサンドワームとか巨大なトカゲ型の魔物もいるよ」
「へえ~……」
その時だった。
「あっ!」
進行方向に、数メートルはありそうな巨大トカゲが立ちはだかった。
その瞬間――
『前方に障害物を検知。回避跳躍を行います』
「え?」
ふわっ。
車体が浮き上がった。
「うわああああ!?」
巨大トカゲの頭上を、車が軽々と飛び越えていく。
「……」
「……」
「……」
車内が静まり返る。
「……なんでもありだねー!」
アンが大喜びで窓の外を見る。
「私、車ってこんなに飛ぶものだと思ってなかったよ!?」
「ミュウ、もっと飛ばしてもいいよ!」
「あはは、自動運転だから速度は決まってるんだよ」
「風の精霊を百体詰め込んだような凄まじい走りだな……」
ジークは剣に伸ばした手を、ゆっくりと戻した。
呆然と見送る魔物たちを置き去りにし、車は豪快に砂塵を巻き上げて進む。
奇岩が立ち並ぶ迷宮地帯に入る頃には、空は息をのむほど美しい茜色の夕焼けに染まっていた。
ピコン。
ピコン。
ダッシュボードに置いていたスマホに、立て続けに通知が入った。
『ファンクラブの人達に等身大パネルを作られそうだ……』
『見てほしい、このヒラヒラとした服の山を! 一体どこで着ろというんだ!』
『我は爽音! 昨日はほとんどお話できなかったけど、次に会う時が楽しみにゃん! 我が内に眠る深淵の闇魔術を披露するにゃん!』
薫と爽音からのメッセージだった。
……薫が言っていた通りだ。
いや、想像していたよりずっとすごい。
送られてきた写真には、エレオノーレが買い与えたという瀟洒で豪華な新居と、溢れんばかりの王子様風衣装。
ファンクラブの暴走っぷりに、思わず車内で吹き出してしまう。
『今はマリアの薬探しで人狼の里に向かってるよ』
『そんな大変なことになっていたのか。無事を祈る、頑張ってくれ』
『帰ったらみんなで会おうね。爽音と話すのも楽しみにしてる!』
返信を終える頃には、夕闇が深く落ち、空には満点の星空と青白い月が浮かんでいた。
『目的地まで、残り三十分です』
「……もうすぐだね」
「うん」
マリアを救うための旅は、もうすぐ次の舞台へ踏み込もうとしていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
準備と出発でした。
次回は【9/6】に更新予定です。
人狼の里に到着します。




