ライブの後は大混乱! ファンクラブ結成と、純白の天使の劇的乱入!
ゲリラライブが終わったあと、胸の奥にじんわりとした達成感が広がっていた。
ふと薫を探すと――とんでもない光景が目に入った。
薫が、女の子たちに完全に囲まれている。
「こんなにかっこいいお方、見たことないわ!」
「ねえ!名前はなんておっしゃるの?」
「これからお茶をしない? 素敵なお店を知っているのよ」
「私も小太刀を習いたいわ!」
「『聖域』の騎士様かしら! 素敵……」
薫は完全に押され気味だ。
「皆様、静粛に!」
凛とした声が広場を切り裂いた。
一瞬でざわめきが止む。
人混みを割って現れたのは、美しい扇を優雅に構えた金髪縦ロールの美少女━━圧倒的な存在感。
その隣には、黒髪を丁寧に結い上げた、これまた気品あふれる美少女が控えている。
一目でわかる。身分が高い。
しかも“本物”だ。
二人は物怖じしない優雅な足取りで、呆然とする薫の前へと進み出た。
「貴女様の剣舞……まさしく穢れなき『聖域』の輝きでございますわ」
「魂を揺さぶられました」
張り詰めた空気の中、縦ロールの令嬢が厳かに、かつ熱を帯びた声で宣言する。
「よって、ここに貴女様をお守りし、お慕いする会の発足を宣言いたします!実行・運営はこのわたくし、エレオノーレが務めさせていただきますわ!」
「わたくし、イザベルが副会長を務めさせていただきます」
一瞬の静寂の後、広場からわああっとどよめきと賛同の拍手が巻き起こる。
……えぇ……薫のファンクラブが結成されちゃった……?
唖然とする私を置いてきぼりに、瞬く間に裕福そうな子たちで、役員や幹部のような立場まで決まり始めていた。
恐ろしい行動力だ。
エレオノーレが薫に聞く。
「『聖域』の麗しき騎士様、貴女のお名前を伺ってもよろしいかしら?」
ああ……薫が“聖域の騎士”扱いされてる……
「薫……」
「響きまでなんてお美しい……お好きな食べ物は何かしら?」
「甘いものかな……」
あのクールな薫が圧に負けて素直に答えてしまっている。
「薫様と仰るのね。ナニヴァルの宝である『聖域の騎士』様、『聖域の巫女』様を守るのがわたくしたちの役目」
「貴女様方に今後一切、不自由な思いはさせませんわ」
……すごいことになってきた。
エレオノーレが深い敬意を込めた瞳で私の方を振り返った。
「『聖域の巫女』様である『月下の歌姫』、貴女のお名前を伺っても?」
「美優、といいます……」
「まあ、美優様。なんて清らかな響きのお名前でしょう。魂を極限まで震わせる素晴らしい歌声でしたわ」
「ありがとう……」
「これから祝賀会を開くのだけれど、美優様もいかが?」
「あ、ありがたいお誘いなんだけど、今日は色々あって休みたいから……」
「そう……残念ですわ。でも近いうちに我が家へお越しくださいませ」
そして━━
「宿屋などという騒がしい場所にいてはなりません。
ナニヴァルの一等地に最高級の“隠れ家”をご用意いたします。活動のすべてをご支援いたしますわ」
「ええっ……私は宿がいいんだけど……」
「では皆様、薫様とともに移動いたしましょうか」
あっ……私の意見はスルー……そして薫は行くんだ……
エレオノーレたちが薫を連れて行こうとした、その時。
「……薫っ……!」
人混みをかき分けて、金髪の綺麗な女の子が飛び出してきた。
少しボロボロになった白いマーメイドラインの衣装。
背中には――羽根。
……羽根!?
一瞬、本当に天使が舞い降りたのかと思った。
ざわめきが広がる。
「……伝説の女神……?」
「純白の天使が……!」
「……薫様のお知り合い……?」
「爽音……!?」
薫が目を見開き、その子に駆け寄った。
「連絡がつかなくて心配していた……その服……何があった……?」
「薫……私……すごく怖い目にあったの……やっと逃げてきて……」
彼女が爽音。
爽音はボロボロと泣き出した。
薫と私のように、事件に巻き込まれたのだろうか。
「……爽音、もう大丈夫。私がついている。
誰も指一本触れさせやしない」
「薫……!」
薫は爽音を抱きしめ、背中を優しく撫でた。
広場は静まり返る。
あまりの光景に、私も動けなかった。
「……あれが真の騎士……」
「薫様の慈愛に満ちた表情……」
「天使様を守る姿……なんて美しい……」
「どなたか絵に描ける方はいらっしゃらないの……?」
令嬢たちのざわめきが広がる中、エレオノーレとイザベルが私の前に来た。
「美優様……薫様の隣に相応しいのは、あの清廉なる天使様しかいらっしゃいませんわ。
どうか、お認めくださいませ……!」
「よろしくお願いいたしますわ、美優様……なんて美しく尊い絵図なのでしょう……」
二人は高級そうなハンカチで涙を拭っている。
「……えっ、私に言われても……」
急展開すぎてついていけない。
「ええと……うん、いいんじゃないかな……」
「ありがとうございます……! 美優様はお二人を結びつけてくださった慈愛の女神様ですわ……!」
「良かった……わたくしたちの『聖域』が……ありがとうございます、美優様……」
エレオノーレが顔を上げた。瞳に強い意志。
「皆様! これより薫様と天使様の聖域をお守りする会に改名いたします!」
広場が割れんばかりの拍手に包まれた。
「どうか、お二人が幸せでありますように……」
「ああ、なんと美しく神聖な光景かしら……」
「まるで神話の一幕のようですわ……」
「わたくしたちは離れたところから見守りましょう……」
……更にすごいことに……
そんな熱気が渦巻く中、薫と爽音がこちらへ来た。
「薫……すごいことになってるね……」
「ああ、ファンクラブには驚いたが……それよりも、この子を紹介したい。彼女は爽音。前に話していたもう一人の『転移者』だ」
「……やっぱりそうなんだ……はじめまして……!」
胸が高鳴る。
現代を共有できる仲間が、目の前にいる。
少し落ち着いたらしい爽音がペコリと頭を下げる。
「よろしくにゃん……」
前に聞いていた通り、語尾が猫みたいだ。
「よろしくね、私は美優。仲良くしたいな」
「うん……今度話したいにゃん……」
今日は無理でも、ゆっくり話してみたい。
「薫たちはこれからどうするの?」
「……どうやら祝賀会に出なければならないようだが……本当は帰って泥のように寝たい……」
「そうだよね。脱出と逃走で疲れてるもんね……」
「よし、私がエレオノーレたちを説得するよ」
「……できるのか? それならお願いしたいが……」
「任せておいて」
私は泣いているファンクラブの中心へ向かい、リーダーのエレオノーレに話しかけた。
「エレオノーレ」
「美優様?何か……?」
「あのね、薫と爽音のことだけど」
「お二人は、これから祝賀会の正賓としておもてなしをさせていただきます」
「今の二人には、祝賀会よりも大切な儀式があるの」
「……儀式、ですの?」
私は大真面目な顔で頷き、実家の神社で培った厳かなトーンで語りかける。
「ええ。邪悪な場所から帰還したばかりのお二人には、今すぐ静かな場所で『魂の浄化』が必要だよ。
無理をさせれば、あの神聖なご縁も乱れてしまうかもしれない」
「そっ……それは一大事ですわ!」
「世界の損失です!」
一気にうろたえる令嬢たちに、私は極上の提案を微笑みながら投げかけた。
「それでね、提案なんだけど――二人は静養させてあげて、主役不在のまま、二人の素晴らしさを徹夜で語り合う、『第一回・聖域を愛でる決起集会』っていうのはどう?」
「……! なんて素晴らしいお考えでしょう!」
「主役不在だからこそ、気兼ねなく愛を叫べますわね! 皆様、すぐに場所の移動を!」
「美優様、わたくしたちはこれで失礼いたしますわ」
「うん、頑張ってね」
エレオノーレたちは私に深く感謝の礼を尽くし、薫と爽音にも丁寧に挨拶をして広場を去っていった。
「ふぅ、なんとかなったね」
「美優、ありがとう。その交渉術には恐れ入るな……」
薫もほっとしたように息をついた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
薫にファンクラブが発足されてしまいました。
お気に入りの爽音も登場させることが出来てうれしいです。
次回は【8/5(水)19:00】に更新予定です。
ジークの過去が少し出てくるのと、大金の精算をします。銀行の人も出てきます。




