月下のステージ『月読』開幕! 三味線とダンスでゲリラライブ!
夕方の光が街を茜色に染める頃、警備隊の詰所を出た。
薫はバイト先へ事情を伝えに行くため、一度別れることになった。
戻ってきたら広場で合流して歌う予定だ。
ジークとアンが左右にぴったり張り付く。
「今日は目を離さないからね!」
「……ああ。さすがに肝が冷えた。もう一人でふらふら出歩くなよ」
「うぅ……ごめんなさい……」
ゆっくり歩いて目的の広場へ向かう。
三味線の音合わせをしていると、日が落ちて魔力灯が淡く灯り始めた。
「ミュウの歌、楽しみだね!」
「とても聴き応えがあった。良かったぞ」
機嫌を直してもらうため、アンには車に隠していたちょっと高級な果実ジュースを、ジークには度数の高い上質なお酒をお詫びとして手渡す。
二人とも嬉しそうに受け取ってくれたので、ひとまず一安心だ。
「美優、待たせた!」
「あっ薫!」
薫が走ってきた。
「どうだった?」
「バイト先の人達に伝えてきた。
詳細は後でと言ったけど、かなり怒られたな……」
「やっぱりそうなんだね……」
「ただ、爽音が魔石に反応しない……絵の依頼に行くと言っていたから、それで出られないのだろうか……魔石の通信圏外に出ているのかもしれない」
「うーん、気になるね……時間を置いて、かけてみる?」
「そうだな……歌い終わったらまたしてみようか」
私は気合を入れなおし、スマホで曲の確認をしながら、マイクスタンドをセットする。
三味線を持つと手が塞がるので、マイクは必須だ。
「あ! あなた、前にここで歌ってた……!」
「やっぱりそうだ! 『月下の歌姫』ね!」
「また歌ってくれるの!?私、あの時からずっと楽しみにしてたのよ!」
三人の女の子達が話しかけてきた。
ひえぇ……本当に『月下の歌姫』って呼ばれている!
恥ずかしいけれど、私の歌を覚えていてくれたことはもの凄く嬉しい。
「ねぇ、私達にできることはある?」
「なんでも言って! 手伝うわよ!」
「目一杯、盛り上げるから!」
熱心に言ってくれる彼女たちを見て、私は良いことを思いついた。
「それなら、ちょうどお願いしたいことがあるの。
これを貸すから、曲のリズムに合わせて自由に振ってほしいな。ほら、綺麗に光るんだよ」
私はバッグからペンライトを取り出し、使い方を説明して彼女たちに手渡した。
「わあ……! なんて綺麗な光……!」
「この魔導具、全然重くないわ……!」
「任せて! ガンガン振って盛り上げるから!」
アンも光の玉を飛ばしてくれるらしい。これで最高の準備は整った。
「じゃあ薫、始める?」
「ああ、いつでも。今夜は月がよく見えそうだ。
即興だけど、『ステージ:月読』と名づけよう」
薫もノリノリだ!
薫は、『Style:鴉』。
黒の羽織は裏地が深紅のショート丈。動くたびに“鴉の羽”のように揺れる。
黒のタートルネック、スキニーパンツ、静かな動きに適したショートブーツ。
片側だけの鴉の羽の髪飾り、黒ネイル。
小太刀の鞘には赤い紐。指なし手袋と細い帯紐。
黒を基調にした“影の舞い手”。
私は、『Style:桜』。
藤色のショート丈着物ジャケット。
袖は広めで、舞うと桜の花びらのように揺れる。
裏地は淡い桜色。
黒いビスチェ風トップスに細いコルセットベルト。
ピンクの和風プリーツスカート、黒の編み上げブーツ。
薄い桜色のネイル、片側だけの桜の髪飾り。
薫と並ぶと「桜と鴉」の対比が舞台映えする。
時々、何が始まるのかと人が集まり始める。
さあ、ステージ:月読の幕開けだ。
夜の闇に溶ける黒の薫。
藤紫の衣を翻す私。
魔法灯の光が現代素材を照らし、異世界の絹とは違う不思議な光沢を放ってきらめいた。
最初の曲は、超高速の和風ロック。
バチを握る。
一音目。
――ジャジャーン!!
どこか懐かしく、けれど激しく胸を焦がすようなメロディ。
華やかながらも切なく、桜吹雪を切り裂いて駆け抜けるような疾走感。
バチを握る手に力を込める。
三味線の弦が、鋭く空気を震わせた。
高速の変則リズム。すさまじい音の圧力。
冒頭の、あのあまりにも有名な高速リフをかき鳴らした瞬間――広場の空気が、文字通り一瞬で弾けた。
藤色の袖が大きく揺れ、薫の黒羽織が翻る。
“桜と鴉”が音の嵐に合わせて舞う。
現代の洗練された旋律、女の子たちが振るペンライトの鮮やかな光、そしてアンが飛ばしてくれた光の魔力が共鳴し合う。
広場がひとつの生き物のように脈動し始めた。
歌い終える頃には、広場を埋め尽くした群衆が拳を突き上げ、地鳴りのような歓声を上げていた。
「もう一曲!!」
観客が叫んでいる。
「まだまだ行くよ――!!」
私は大声で答えた。
ステージの上で薫と視線を交わす。
昨日の辛かったことが、この熱狂の中に溶けていく。
「……美優! これ、想像以上にいけるぞ!」
薫の興奮した叫びに、私は最高の笑顔で応えた。
ふとジークを見ると、腕を組んだまま口元を緩めていた。
(またやっている)
そんな顔だった。
次の曲は、さらにきらびやかで、息つく暇もないほどの疾走感。
まるで夜の街を鮮やかに駆け抜けるような、激しい戦闘シーンを思わせる、派手でテンポの速い曲だ。
私の少しハスキーな高音が、夜空の果てまで突き抜けるように響き渡る。
息を吸う暇もない。
言葉を重ねるほど、熱が上がっていく。
それに合わせ、アンが遠くから仕掛けてくれた光の魔術が、まるで色彩豊かな花火のように広場全体で弾けた。
どんどん加速していくメロディ。
薫が火花の魔法演出の中で、影のように鋭くしなやかに舞う。
サビの最高音を響かせた瞬間、夜のナニヴァルが、お祭りのような熱狂の渦に完全に呑み込まれた。
興奮が冷めやらぬまま、息を整えてラストの三曲目へ。
今度は、凛と張り詰めた空気。
そこへ鋭いリズムが重なる。
麻痺がすっかり抜けた薫の本領発揮だ。
キレッキレの動きで小太刀をバトンのように回し、黒い和装を翻してステップを踏む。
サビと同時に、薫が流れるような動作で小太刀を抜いた。
光のパーティクルを、薫の刃が鮮やかに斬り裂く。
物理的な演舞と魔法の光が交差し、まるで散り急ぐ花びらのように光の粒が飛び散った。
「キャ――ッ! 黒い服の子、カッコいい!!」
ナニヴァルの女性たちから、黄色い悲鳴のような声援が響き渡る。
最後の音をかき鳴らし、曲が終わった。やりきった……!
鳴りやまない拍手と大歓声の中、薫と顔を見合わせる。
「ライブは大成功だな!」
「うん!」
前に置いたエコバッグには、大量の金貨が放り込まれていく。
一瞬でお財布のピンチが解決しそうだ。
「今日のライブ、前よりさらに最高だったわ!ありがとう!」
「今日のステージは一生忘れられないわ!」
ペンライトを貸してあげた女の子たちが目を輝かせて戻ってきて、熱烈な握手を交わす。
気付けば、興奮したたくさんの人たちが私たちを取り囲んで声をかけてきた。
「おい、魂が震えたぞ! めちゃくちゃ良かった!次はいつやるんだ!?」
「聞いたこともない不思議な旋律なのに、どうしてこんなに胸が熱くなるんだ……!」
「ねえ、これにサインして!」
「私とも握手して!」
「今度、うちの娘の誕生日パーティーで歌ってくれないか!? 報酬は弾む!」
「お嬢様が、あなたたちを専属の楽士として雇いたいと仰っております!」
「へいお待ち! 歌を聴きながら食べる焼きたてパンはいかがですか〜!」
「冷えた美味しい飲み物、ここで売ってるよ!」
「そこの凄いお嬢さん方! 稼いだお金の預け入れは、ぜひ当銀行へどうぞ!!」
あまりの人だかりに、便乗した物売りや、なんと銀行の人まで乱入してきている。
異世界の夜のゲリラライブ。
それはナニヴァルの歴史に残るほどの大盛況となったのだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
今回は待望のゲリラライブでした。好きな曲を聴きながら書くのはとても楽しかったです。
個人的には最後の銀行の人が気に入ってます(笑)
次回は【8/2(日)19:00】に更新予定です。
ゲリラライブが終わってもファンたちで賑やかなナニヴァル広場です。そして、あの人物も乱入してきます。




