一文無しからの大逆転! 三味線とダンスでゲリラライブ計画&私が『伝説の聖域の住人』と勘違いされていた件
私が魔術で出した水をみんなに配り、一息ついたところで、私はずっと言えずにいた本題を切り出した。
「あのね……相談があるの……私のお金、袋ごと全部盗られちゃったみたいで……今、一枚の銅貨も無いの」
「なにっ!? もしかして私も……っ」
薫が顔を青くして車に戻り、自分の荷物を確認する。
数秒後、絶望した顔で戻ってきた。
「……無い。お金だけが綺麗に盗られている……」
「やっぱり。薫もなんだね……」
「ううむ……即日払いで、お前たち二人がすぐに安全に稼げるような実入りのいいギルドの依頼は、今のナニヴァルには少ないからな……」
「世の中、金のことはワシでもどうにもならんからのぅ」
ジークとコヨリ様が、腕を組んでうーんと悩み始めてしまった。
「それでね、私、考えたんだけど」
薫の方を向く。
「ねえ、私と一緒に街の広場で歌って稼がない?」
「……え?」
薫が綺麗な目を丸くする。
「前にナニヴァルの広場で歌った時、街のみんな、すごく盛り上がってくれたんだよ! お金が無いなら、もうなんでもやってやろうと思って。私たちの世界の歌をナニヴァルに響かせよう!」
「歌は得意じゃない……でも、ダンスなら」
「あ、動画上げてたんだよね! それいい! 薫が踊って、私が歌う!」
「……面白いかもな。やってみるか」
「いいかもしれないな。俺も賛成だ。
あの歌なら、人は集まる」
「おっ、楽しそうじゃのぅ! 街に行く前に、ワシにも一番前で聴かせるのじゃ!」
ジークとコヨリ様からも、大絶賛で背中を押してもらう。
「実はね、キャンプの夜にみんなで弾こうと思って、『三味線』を忍ばせてたんだ」
「おお、三味線か! 渋いな、でも美優の雰囲気に似合うと思う」
「動画を見ながら自己流で弾いてるだけなんだけどね。あと、それから……」
姉が「着映えするから」と積んでいた、現代の和洋折衷のデザイン服を取り出してみる。
「こういう衣装もあるんだよ。これ着たら、雰囲気出てよくない?」
「すごいな……そんなものまで……私は……こっちの、黒を基調にしたものがいい」
「うん、薫には絶対それが似合う! ちなみに、どんなアーティストの曲が踊れる?」
スマホの画面を二人で覗き込み、お互いに知っている現代のヒット曲を照らし合わせる。
なんと薫は、私が歌えるお気に入りのテクノポップ曲やダンスナンバーのほとんどをカバーできるようだった。
「じゃあ、最初にこのアップテンポな曲を持ってきて……」
「こっちの、和風でキレのある曲をメインに据えたら、異世界の住人にはインパクトがあるんじゃないか?」
現代人二人の、ライブプロデュースの打ち合わせはどんどん進む。
せっかくなので、祠の前で試しに一度合わせてみることにした。
私が三味線を構えて小気味よいリズムを刻みながら歌い、それに合わせて薫が衣装に着替えて踊る。
足さばきは鋭いのに、指先は驚くほどしなやかだった。
「ほぅほぅ、これは良い!」
とコヨリ様が小さな手で手拍子を叩き、ジークは言葉を忘れたように、じっくりと私たちを見つめて聴き入ってくれている。
(うんうん、初めての即席ユニットにしては、めちゃくちゃいい感じ!)
心地よい汗をかいたところで一区切りがついた。
ナニヴァルの広場へ向かう前に、昨日からの寝不足とパニックを解消するために少しだけ身体を休めたい。
「ねえ、薫。街に行く前に、ちょっとだけ仮眠取らない?」
「うん、そうだな。もう少し休んでおきたい」
「ジークは? ずっと馬を飛ばしてきて疲れてるでしょ?」
「問題ない。お前たちの側で見張りをさせてもらう」
コヨリ様の結界に守られた場所を少しだけお借りして、車から出してきたシュラフを広げる。
横になって目を閉じる前に、どうしても気になっていたことをジークに聞いてみた。
「ねえ、ジーク。なんで私がここにいるって分かったの?」
「アンの探査魔術だ。お前が宿に残していった持ち物を媒介にして、必死に追跡したんだ。アンは今も宿屋に残って、この対になる通信魔導具でやり取りをしている。ミュウが無事だと伝えたら、泣いて喜んでいた」
「そんなことまで……本当に、ありがとう。ジークも、アンも。戻ったらちゃんとお礼言わなきゃ」
「ああ。だが、お前がエンドリーリアにいると分かって、次の瞬間には凄まじい速度でこのナニヴァル方面へ大移動を始めた時は、さすがに心臓が止まるかと思ったぞ」
「早く逃げようと夢中だったから、真っ先にコヨリ様の祠の場所が浮かんだの」
「……あ、あとね、ジーク。それと……『聖域』って、何なの?」
犯人の悪党たちが言っていた言葉が、ずっと引っかかっていた。
「『聖域』、か……実在はするが、我ら人間にとっては一生に一度拝めるかどうかの、伝承に謳われる伝説の地だ。世界に選ばれた純潔な者しか入れない隠れ里のような場所で、そこには巨大な霊樹や聖なる泉があり、世界を癒やす清浄な力が溢れていると言われている。それがどうかしたのか?」
「……犯人たちがね、私たちの衣装や肌を見て、『あいつらは聖域の出じゃないか』って言ってたの」
「そう思うのも無理はないな。俺も最初、コブ山でお前と出会った時、同じことを思った」
「ええ? なんで?」
あの時の私、お化け対策のために頭にキャップライトをつけて、右手に除菌スプレーを構えていたのに。
「生活感が一切無い、この世の物とは思えない美しさがあったからだ。聖域の清らかな水で育ち、聖域の住人にしか織れない未知の絹を着ているような……そんな伝承通りの巫女の姿だった」
「ふぅん……私はそんなすごい人じゃないよ。ただの、どこにでもいる普通の学生だよ」
「……いや」
ジークは静かに言葉を区切り、私の言葉を遮るように身を乗り出した。
「お前は普通じゃない。少なくとも、俺にとっては――初めて会ったあの瞬間から、世界の誰よりも特別だ」
「えぇ?」
「お前が『聖域の歌巫女』だと言われても、俺は少しも驚かない」
嘘偽りのない、ひどく真剣な琥珀色の目。
ジークはその目で、まっすぐ私を見つめてくる。
「……ジーク、もしかして朝からカレーを食べて、スパイスで酔ってる?」
「酔ってなどいない。俺は、お前を……」
ジークの唇が、何かを紡ごうとして小さく動く。
彼の大きな手が、私の頬にそっと伸びてきた。
――でも、その指先が私の肌に触れる寸前で、ぴたりと止まる。
「ん? 何? 小さくてよく聞こえなかったよ?」
首を傾げる私を見て、ジークは苦笑するようにふっと息を漏らした。
伸ばした手をそのまま私の頭にぽん、と乗せて、優しく撫でる。
「……なんでもない。ほら、少しでも寝ておけ」
「うん……おやすみ」
ジークの言葉と、言いかけた最後のフレーズが胸に引っかかったまま、私はシュラフに包まれて、心地よい朝の微睡みへと沈んでいった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
今回は無一文の絶望から一転、異世界ゲリラライブ計画回でした。
後半は、悪党たちが口にしていた「聖域」について。
お金なし、だけど元気に道を切り拓く美優たちの2章の活躍をどうぞよろしくお願いいたします。
次回、47話は7/26(日)の19時頃更新予定です。




