魔術が効かないボスを現代の防犯グッズでハメ技攻略! 催涙スプレーと大音量ブザー、仕上げは高温カイロ!?
牢屋の部屋を出て、薫が聞いた道順をたどる。
薫は足音一つ立てずに進む。
壁に手を添え、私を先導してくれる。
その時━━
カチャリ。
ガサッ。
「しまっ━━」
とっさに薫が私の口を塞ぎ、そのまま壁へ押しつけた。
「……静かに」
至近距離で目が合う。
(ごめん……薫……)
「あそこだな」
「見張りがいるね……」
魔術灯の横に、大柄な男が立っていた。
「まず、私が『フラッシュ』を唱えるよ」
「了解」
「その後『グリース』ね」
「倒れたら仕留める」
薫が頷いたので、呪文を唱える。
「光よ、刹那を灼け━━フラッシュ」
視界を奪うほどの純白の閃光。
「わっ!? なんだっ……!」
男が目を抑えている。
「地に潜む油よ、足元を掬え━━グリース」
「うわーーっ!?」
男は鏡のようにツルツルになった床に足を取られてて、派手にすっ転んだ。
「転んだ!」
「了解」
薫が音もなく近づき、みぞおちへ正確な一撃を食らわした。
ゴボォッ!
「カハァッ……!」
男は息を詰まらせて、糸が切れた人形のように気絶した。
「薫!うまくいったよ!」
「よし」
ギイィィィ……
錆びた嫌な音がした。
急いで扉を開けると、中は真っ暗だった。
『ライト』を唱えて入る。
わけのわからないものが積んである。
「あっ、あれ……!」
薫の小太刀と私のリュックが無造作に置いてあった。
リュックを開けた瞬間━━
湿った地下の空気を切り裂いて、使い慣れたお気に入りの柔軟剤の香りが、ふわりと広がった。
一瞬だけ、大学へ向かう朝の空気まで思い出した。
「……あ……」
(そうだ……私はまだ二十歳で……大学行って、歌って、バイトして……普通に生きてたんだ……)
腹の底から「絶対に生き残ってやる」という強い力が湧き上がってきた。
薫も自分の荷物を見つめている。
「中身、大丈夫?」
「ああ、無事だ。
……この催涙スプレーと防犯ブザー、使えないか?」
「使える!私の持ってるこれもいけるよ!」
「最高だな。じゃあ、これとこれで」
「うん!」
「行こう。
全部終わったら、美味しいものでも食べよう」
薫は口布を直し、音もなく立ち上がった。
瞳にはもう濁りがない。
防犯グッズを握りしめ、私たちは再び暗い廊下へ踏み出した。
「あっ!いたぞ!」
「逃がすな!」
「顔は狙うんじゃねぇぞ!」
暗闇から無数の足音が響いてきた。
「グリース!」
床が鏡みたいにツルツルになる。
「うわああぁぁ!?」
「ぎゃあああ!!」
突っ込んできた男たちが、コントみたいに折り重なって転倒した。
「これでもくらえ!」
薫が超強力催涙スプレーを噴射させる。
「ぎゃあああ!!目が!目がーー!!」
「毒霧だぁぁ!!」
「鼻がーっ!痛いいぃーー!!」
(よし、効いてる!)
「薫、今のうちに!」
「ああ!」
階段を駆け上がると、月明かりがさし込む窓。
覗くと、一階のようだった。
「ここから出られないかな?」
「これで叩き割る」
バリン!
薫が伸縮式警棒で窓を割った。
「よし、出よう!」
「うん!」
「警報音が鳴り響いて来てみたら……脱走か。
これ以上ないような商品を逃がさん」
その声に振り向くと、ゴテゴテした鎧と盾の男が悠然と歩いてくる。
「『紫の目』がいるからこれを持ってきて正解だったな。
俺に魔術は通じんぞ」
魔術が使えないなら。
薫が防犯ブザーのピンを引く。
ピリリリリ!!
100デシベルの大音量が鳴り響く。
「うわーっ!?なんだ!?」
男に向かって投げつける。
「や、やめろーー!!」
私はタクティカルライトを照射する。
ストロボ機能を点滅させ、催涙スプレーも噴射。
「ぐわあああ!!眩しい!目がーっ!鼻がーー!!」
暗闇に慣れた目には相当眩しいだろう。鼻にもよく効いている。
「く、くそっ……逃がすか……!」
男が目を抑えながら、雷魔術の詠唱を始める。バリバリと嫌な電気が弾けた。
(初歩の雷……雷魔術の正体が電気なら、現代日本の化学が作ったこれが特効薬でしょ!)
「スパーク!」
呪文の発動と同時に、私のリュックから取り出した『静電気防止スプレー』を思い切り噴射する。
白い霧が雷を包む。
バチッと弾けるはずだった光が、小さく散った。
「な、なに!?俺の魔術が……消された……!!?」
「美優!防犯ブザーを!」
「うん!」
薫は小太刀の柄に防犯ブザーを押し当てる。
鳴り響くブザーをテープで素早く固定した。
「あの盾は魔力で硬度を維持しているなら、高周波の振動で結合をバラバラにできる」
キイィィィン!!
鼓膜を突き刺すような100デシベルの爆音が刀身を高速振動し、唸りを上げる。
それはまるで、現代の『超音波カッター』のようだった。
「……これなら、お前のヘンテコな魔導具も紙同然だ」
薫が踏み込む。
一直線に放たれた一撃。
激しい高周波の唸りを上げる小太刀は、盾をバターみたいに滑らかに切り裂いた。
「っ!?俺の盾が!!」
薫は体術と合わせて警棒で武器を弾き、急所を正確に突く。
「ぐっ……!」
よろめくボスに、すかさず薫が足払いをかける。
「う、うわーーっ!?」
男が派手に滑って転ぶ。
その隙を見逃さず、私はリュックからマジックハンドを取り出す。
「ついでにこれも!日本のお土産だよ!」
伸縮式マジックハンドの先端で、アツアツに発熱した『高温カイロ』を、男の鎧の隙間に容赦なくねじ込む!
「ぎゃああぁぁ!!熱っ!!腹が焼けるぅぅ!!」
男は鎧の中で暴れまわる熱源に悶絶している。
「行こう!今のうちに!」
「うん!」
夜風が一気に吹き込み、肺いっぱいに冷たい空気を吸い込む。
「美優の魔法、助かった……!」
私たちは走り出した。
読んで下さり、ありがとうございます。
第42話は美優と薫の、現代品フル活用したバトルでした。
異世界お菓子の時とはまた違う、「日本の便利な防犯・生活グッズ」が異世界で武器になる爽快感を、楽しんでいただけたら嬉しいです。
次からは週2回(水曜日と土曜)に変更していきたいと思います。
というわけで、次回43話は7/15(水)の19時頃更新予定です。




