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ナビの示す先は異世界でした  作者: フツカ
転移先は異世界!?出会いと学院生活、そして放課後の罠

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神改造カー発進!夜の山道を自動運転で逃げろ!声だけ届くゴスロリ少女と絶望の空っぽ財布

 後ろを振り返ると、そこはボロボロの城だった。


(……あれが王城?)


「美優、どうするつもりだ?」

「ちょっと待ってね……」


 私はコヨリ様が神改造したミニチュア車を取り出し、地面に置く。


 キーを長押しする。 



 ボンッ。 



 手のひらサイズだったミニチュアが、一瞬で私たちが乗れる本物の車のサイズへと膨らんだ。


「……は?空間拡張の魔導具……?

いや、それ以前に何で車がここに……!?」


 薫がクールな仮面を完全に剥ぎ取って固まる。


「説明は後!追手が来るから乗って!」

「あ、ああ」



「待てーー!!」

「逃がすなーーっ!」 


 背後から怒号が迫る。

 足音が石畳を震わせる。


(まずい、追いつかれる!)


「美優!」

「大丈夫!」



 それなら、最大の光球を!

 イメージするのは、さっき使ったタクティカルライトの激しいストロボ光。



「闇を照らす一粒の光を━━ライト!」 



 手加減なしの『ライト』の呪文が炸裂し、男たちが悲鳴を上げた。


「うわああぁ!」

「眩しいぃぃ!」



「今のうちに!」 

「……分かった!」


 車に飛び乗り、勢いよくドアを閉める。


 

 行き先は……コヨリ様の祠で!


「目的地、コヨリの祠。ルート案内を開始します」 


 車内に響く、聞き慣れた現代のナビ音声。


 車体がふわりと宙に浮き、自動運転モードへと切り替わる。

 タイヤの駆動音すらなく、静かに滑るように動き出した。

 


 城がみるみる遠ざかり、胸の奥の緊張がほどけていく。


「やったな……」

「うん……!」 


 薫と顔を見合わせてハイタッチをする。

 一瞬戸惑ったあと、小さく手を合わせてくれた。


「もう、どうなるかと思ったよー!薫がいて本当に良かった……!ありがとう!」

「お礼を言うのはこちらだ。私一人では無理だった」

「まだドキドキしてる……あ、お水飲む?」

「ああ、ありがとう」 


 ペットボトルの水を一口飲む。冷たい水が火照った喉に染みた。

 ようやく呼吸が整う。



「ところで……この車、どこに向かっているんだ?

それに、いきなり大きくなったが……」

「ああ、それはね……」 


 山で出会った、もふもふの小さな神様━━コヨリ様のこと。

 そして、転移してきた車を“神改造”してもらった話を説明する。


「神様と知り合いなんてすごいな……」

「食いしん坊でかわいい神様なんだよ」


(コヨリ様、祠にいるかな……ちょっとだけ久しぶりな気がする)


 


 車はふわりと浮いたまま、夜の空気を切り裂くように滑っていく。

 エンジン音もロードノイズも一切ない。


 舗装されていないデコボコの山道に入ると、船のように車体が少しだけゆったりと上下に揺れた。

 窓の外には、月明かりに照らされた深い木々の影が、流れるように後ろへ飛んでいく。



「美優、ちょっと通話してもいいか?」

「うん。電話?」

「いや、スマホは使えない。

魔石で連絡を取るんだ。連絡したい子がいて」

「そっか。そういうものがあるんだね。

すぐかけてあげて」

「ありがとう。

寝てるかもしれないが……」 


 薫は通信用の魔導具を取り出す。

 スマホより少し小さい、黒い石板のような形。


 お互いの魔力を登録し、軽く叩くようだ。

━━少し高い女の子の声が響いた。



「薫!?ずっと連絡ないから心配してた……!

大丈夫なの……!?」 


 薫の声が、少しだけ柔らかくなる。


「爽音。こんな時間に悪い。私は大丈夫だ。

 事件に巻き込まれて、今はエンドリーリア近くにいる。

 もう解決した。昼までには帰れる」

「事件!? 怪我してないの!?」

「どこも怪我していない。安心しろ」

「安心できるわけない……!

 早く顔見たいけど……無理しないでね……

薫、本当に大丈夫……?」

「ああ。帰ったら、いつものところで会おう。

 爽音、今日はバイト休みだろう?」

「うん……絵の依頼はあるけど……」

「なら、ゆっくり寝て。

起こして悪かった」 


 通話はそこで終わった。

 魔導具はハンズフリーの小型スピーカーのように見える。



「連絡が取れて良かったね、薫」


(……私の方はどうだろう。

 ジークとアン、絶対心配してるよね……) 

   

 「すぐ戻る」って笑顔で約束したのに、約束を破る形になっちゃった。

 今頃ジークは、怒って、それ以上に私のことを血眼になって捜してくれているかもしれない。

 

 胸がきゅっと痛む。

 宿に戻ったら、ちゃんとお詫びをしなきゃ。 

 私も次からは、二人に連絡が取れるように魔導具を用意しておこう……



「帰ったら美優と会わせたい。

 彼女も『転移者』なんだ」

「えっ……!」


(元の世界を知る人……!

 ここにもいたんだ……!)


「会って話がしたいよ……!

どんな子なの?何が好き?」

「爽音は私たちより一つ下の十九歳。ゴスロリと絵が好きだ」

「へえ〜」

「普段は中二病全開で、語尾に『にゃん』がつく」


(……えっ。ゴスロリ、絵師、中二病、さらに猫耳属性(語尾)付き……!? 属性のメガ盛りじゃん!

リアル生きててそんな可愛い野生の素材が存在するの!?)


「それは……かなりキャラが濃いね……!

でも、会うのがめちゃくちゃ楽しみ!」


 二人でしばらく爽音の話をした。


 

 車は一定のリズムで揺れ、心地よい振動が続く。


 薫はまぶたが重そうだ。


「薫、寝てていいよ。三時間くらいかかるし」

「でも美優に悪いし……」

「自動運転だから平気だよ。私はずっと眠らされてたから眠くないし」

「……ありがとう。それじゃ」 

 


 薫はシートに深く身体を預け、目を閉じるとすぐに規則正しい寝息を立て始めた。    

 

 さっきまであれだけ凛々しく、超音波カッターでボスを圧倒していた薫。


 だけど、こうして無防備に眠っている横顔は少し幼く、年相応の綺麗な女の子に見えた。

 本当に疲れてたんだな……


 (日が昇る頃には着くかな……)



 私はリュックを開けた。


(中身、無事で良かった……ん?) 


 ポーチ、飲み物、お菓子、魔導書……現代のグッズは全部無事。

だけど━━


「……ない……嘘でしょ……!?」



 大金の入った袋だけがきれいに消えていた。


(うそ……やられた……!) 


 銀行口座を作るのを後回しにしていた自分を呪う。


「あああああ~~~……っ!!」


 自動運転で静かに走る神改造カーの中に、私の悲痛な絶叫が虚しくこだました。

第1章『転移先は異世界!?出会いと学園生活、そして放課後の罠』を最後まで読んで下さり、本当にありがとうございました!


第43話は、誘拐組織からの大脱出&1章の完結回でした。

そして車内では、薫の通信魔導具を通じて、新キャラクター「爽音」の声が初登場!

彼女も好きなキャラなので登場させることができてうれしいです。


ですが……最後の最後で発覚した、美優の「全財産紛失」事件。

命とスマホは無事だったけれど、お財布はすっかり空っぽ。まさに天国から地獄、2章はまさかの極貧生活スタートに……!?


次回からは、いよいよ第2章が始まります。

更新ペースは週2回(時々番外編や外伝)となりますが、さらにパワーアップした異世界生活をお届けしますので、ぜひ2章からもお付き合いいただけると嬉しいです。


1章完結の記念に、ブクマや評価などをしていって下されば私が大喜びするのでよろしくお願いします。


次回は7/19(日)の19時頃更新予定です。

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