黒髪の忍(?)と放課後の約束。怪しげな魔導具店で出されたお茶の味
カサンドラ先生の魔術レッスンは、相変わらず厳しかったけれど、なんとか及第点をもらって無事に終了。
へとへとになりながら教室を出た。
魔術学園の中庭にあるベンチで、一休みすることにした。
風が髪を揺らしていく。
今日の私はパステルカラーのウィンドブレーカー。ジョガーパンツと厚底スニーカー。
春先にちょうどいいと思ったけど、少しだけ寒いかな……
バサッ。
足元に紙が落ちてきた。
「ん?」
拾い上げると、魔導具専門店のセールチラシ。
ちょっと気になる。
「悪い、それ私の」
顔を上げると、同い年くらいの綺麗な女の子が立っていた。
黒一色の戦闘服。
ラッシュガードに鎖帷子。部分的なレザーアーマーに手甲。タクティカルパンツにブーツ。小太刀。無造作に束ねた黒髪。口布とネイルも黒。
(わ、わああ……!すごくかっこいい、二次元から飛び出してきたみたい……!)
目の保養すぎる美人さんに内心で拝みながら、慌ててチラシを手渡す。
「はい、どうぞ」
「ありがとう。……『紫の目』。あなた、転移者?」
「うん。姿が変わって。あなたも?」
「ああ。少し前に来た。今はバイトしながらギルド依頼もこなしてる」
「へぇ、すごい」
「私は薫。二十歳。大学生だった」
「同い年だ!
その格好、めちゃくちゃ似合ってる。忍っぽい!」
「ふふ。そう言われると嬉しい。
元々こういう服が好きでな。
鎖帷子は黒染め、レザーは消音加工してある」
「こだわりすごい!レイヤーさん?」
「動画で踊ったりはしてた」
「見たい!」
しばらく元いた世界の話をしてから、チラシの話に移った。
「ところで、そのチラシ……魔導具店の?」
「ああ。さっき配っててな。
客が来ないからサービスするって」
「気になるなぁ」
「ただ……場所が北エリアと西エリアの境で」
「あー……」
北エリアは、今私たちがいる学校が多い場所、西エリアはジークたちに行ってはいけないと言われていた場所だ。
魔導汚染が残ったり、犯罪組織があったりで危険な場所らしい。
ジークの厳しい顔が頭をよぎる。
いつもなら絶対に断る。
だけど、今朝見た夢の衝撃のせいで頭が少しフワフワしていたし、
何より、こんなに頼もしくてカッコいい『転移者の先輩』が一緒なら大丈夫なんじゃないか、と、つい気が大きくなってしまったのだ。
「遠くから覗くだけなら、と思ってる」
「私も行こうかな」
「でも、危険かもしれない」
「大丈夫。魔術をちょっと使えるし」
「ふっ、頼もしいな。
なら、私もしっかり剣であなたを護衛する。行くか」
「行こう!」
学院の門を出ると、アンとジークが待っていた。
「二人とも、迎えに来てくれたんだ!」
私は二人に駆け寄った。
「こちら、『転移者』の先輩の薫さん。
薫、こちらはジークとアン。
『転移』したての私を助けてくれた仲間だよ」
「はじめまして。薫です」
薫が軽く頭を下げると、ジークの琥珀色の目が一瞬で鋭くなった。
彼女が腰に帯びた小太刀と、ただ者ではない身のこなしを、一瞬で『警戒対象』として見定めたのだ。
でも、私が嬉しそうにしているのを見て、わずかに張り詰めた空気を緩める。
「ちょっと魔導具店に寄ってくるね。セールなんだって!」
「昨日の件もある。俺たちも行く」
するとアンが、
「も〜ジーク!女の子同士の話があるの!男の人はお留守番!
……でも暗くなる前には帰ってきてね!」
「すぐ戻るよ。
本当にすぐだから、宿で待っててね」
「……分かった。絶対に無茶はするな。気をつけて行けよ」
「うん、いってきます!」
ジークとしっかり約束を交わし、見送られ、私と薫は西エリアへ向かった。
お喋りしているうちに、西エリアへ着いた。
チラシの地図に従って路地へ入る。
大通りの喧騒が一気に遠のいた。
足音だけがやけに響く。
道幅はどんどん狭くなり、湿った石畳が靴に張りつく。
頭上には洗濯物と建物がせり出し、空が細く切り取られていた。
(……古都の裏道みたい)
寂れた店がぽつぽつと並び、どこからか下品な笑い声。
なのに人影はない。
色褪せた魔導具のネオンがチカチカと点滅し、奥から視線だけが刺さってくる。
「なんか……異様だね」
「ああ。寂れた歓楽街って感じだ」
「あ、あそこじゃない?」
突き当たりに白い平屋の店。
周囲と比べて不自然なほど小綺麗だ。
「意外と綺麗だな」
「うん……入ってみよ」
薫がドアを押す。
ギイ、と古い音。
「おや、いらっしゃい。綺麗なお嬢さんたち」
六十代くらいの男性が一人。
にこやかだが、どこか影があるような……
「うれしいねぇ。こんなところに開店してしまったから、中々お客さんが来てくれなくて。
さあさあ、入っとくれ」
中は雰囲気の良いアンティークショップのようだった。店内は異様に静かだ。
「何を買いに来たんだい?」
「チラシを見て来ました」
「そうかい。まずはお茶でも。お客さんもいないし、ゆっくりしてくれ」
「あ、いえ……」
制止する間もなく、店主は奥へ。
(……なんか強引。 ジークなら「帰るぞ」って言いそう)
陳列棚を見るが、何が何だか分からない。商品には全く埃が積もっていなかった。
「ちょっといい茶葉なんだよ。カミさんに内緒で買ってね」
店主はあっという間にお茶を持ってきて、目だけ細めて笑った。
「はい、どうぞ」
「いただきます」
口に含むと、ほんのり甘い。
でも奥にピリッとした違和感。
(まずくはないけど……おいしくもない)
薫を見ると、同じ顔。
おかしな場所だし、すぐにでも吐き出すべきだった。
なのに、お茶から立ち上る妙に甘い香りのせいで頭がボーッとしてしまい、まともな警戒心が働かなくなっていく。
甘い香りが鼻に抜ける。頭の奥がふわりと軽くなって、 「警戒しなきゃ」という考えだけが霞んでいく。
せっかくのいいお茶みたいだし……
「一気飲みしようか」
「そうだな」
二人で一気に飲み干す。
「変わった味ですね……」
「お菓子もあるよ。ほらほら」
口直しにクッキーらしきものを口に入れる。
(……パサパサして苦っ)
「ごちそうさまでした……」
「おや、もういいのかい?まだまだあるよ」
「あ、あはは……そろそろ魔導具の━━」
言い切る前に、視界がぐにゃりと歪んだ。
(え……貧血……?)
椅子に座っていられず、床へ崩れ落ちる。
指先一つすら、もう動かない。
「な……んだ……これは……」
薫の声が、ひどく遠い。
「よく効いてきたね。魔法薬をたっぷり入れといたからねぇ……」
私のリュックからペットボトルが虚しく転がる。
━━カラカラ、と軽い音。
それを最後に、私の意識は深い闇に沈んだ。
読んで下さり、ありがとうございます。
第40話は、こちらもお気に入りの新キャラクターにして「転移者の先輩」である黒髪のクールな忍系美女・薫の登場、そしてまさかの大ピンチ回でした。
41話も同時に更新しています。よろしければ、合わせてお楽しみ下さい。




