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ナビの示す先は異世界でした  作者: フツカ
転移先は異世界!?出会いと学院生活、そして放課後の罠

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39/43

夢の中の粘着執事と、再現されたマヨネーズ。現代お菓子の包装が異世界で家宝になる!?

 宿に着き、ジークにおやすみを言って別れた。


 胸の奥がまだじんわり温かい。

 甘い余韻に浸りながら寝支度をして、ベッドに潜り込む。


(……ジーク……) 


 その名前を思い浮かべながら、私は眠りに落ちる。



夢をみた。



 

 静かな月光が射し込む、どこかのお屋敷。

 重厚なカーテン、磨かれた床、静寂。



「カティア様、お茶が入りました」   


 黒髪に眼鏡の執事。

 いつも背後に控え、影のように寄り添う男。

 差し出されるハーブティーの香りが、胸の奥をくすぐる。


「アルト、ありがとう」



「お師匠さま、もっとお話をして下さい」

 サラリとしたボブカットの少女、リアーネがこちらを見上げる。

 無表情なのに袖だけきゅっと握っている。


「もう子供は寝る時間よ、リアーネ。お茶を飲んだら寝なさい」

「……はい」


 その声は素直で、でもどこか寂しげだった。




 場面が変わる。 

 

 執務室。

 私は疲れ果てて椅子でうたた寝をしている。 



 眼鏡を外したアルトが、音もなく近づいてくる。


 迷いのない指先が、私の頬をそっと撫でた。


 指先は驚くほど熱を帯びている。

 私の髪を愛おしげに耳にかけ、首筋に彼の熱い吐息が吹きかけられた。

 逃げることを許さないような、低く甘い、呪縛のような囁きが鼓膜を揺らす。

 

「カティア様……私はすべて貴女のもの。

 そして……貴女は私のものです」


 その声は、執事のものとは思えないほど熱を含んでいた。

 

 


 再び場面が変わる。 

 歩き疲れてベッドに腰掛け、足を投げ出している私。


 そこへアルトが膝をつき、丁寧にブーツを脱がせる。


「アルト、いいわ、自分で━━」 

 

 止める間もなく、彼は私の足の甲に、恭しく、しかし情熱的に唇を落とした。


 絹の長靴下越しでもわかる、執拗なほどの熱。


「っ……!」 

 息が詰まる。


「……私には、これくらいしか許されておりませんので」 


 眼鏡の奥の瞳が潤み、

 まるで祈るように私を見上げていた。


 私は何か言おうとして━━

世界が白く滲んだ。




━━そこで、目が覚めた。




「ギャアアアアアーー!!」


 叫んで飛び起きた。



 (なに、今のは!?)



 色も匂いも温度も、やけに生々しい夢だった。胸がドキドキしている。

 


(ジークのことを考えて寝たのに……なんで……

アルト……リアーネって誰……?)



 しばらくベッドの上で、呆然としたまま固まってしまった。




 着替えて階下へ降りると、ジークとアンが座っていた。


「おはよう」 


 隣に座ると、ジークがこちらを見た。

「ミュウ、今朝はどうしたんだ?

 いつもより元気がない。寒くて風邪でもひいたのではないか?」 



 そう言うジークの視線が、一瞬だけ私の肩や唇に泳いで、弾かれたように顔を赤くしてポトフの器へと戻った。



(……っ、ジークも、昨日の夜のことを意識してる……!)



 普段は冷静沈着な推しが見せるその隙だらけの態度に、私の心臓がまた大きく跳ね上がる。


 

「ううん、なんでもないよ。ありがとう。

 ちょっと……変な夢みちゃって」

「夢?」

「なんか……お屋敷にいて、ちょっと偉い人みたいで……」

「へぇ〜前世だったりして!

そういうの、聞いたことあるよ!」

 

「ぜ、前世ぇ!?」 

 

 アンの言葉に声が裏返った。



(あれが……前世……!?

 あんな濃厚な執事……?)



「ねえそれならさ、ミュウが学校から帰ってきたら、前世占いに行かない?

 今流行ってるんだよ!」

「へぇ、そんなのがあるんだ」

「普通の占いもやってくれるんだけどね」

「面白そう!」

「女は占いが好きだな。まあ、それで気晴らしになるならいい」

「うん、楽しみ」 



 そんな話をしているうちに朝食が運ばれてきた。


 オムレツは濃厚な卵に採れたばかりのハーブを使っている。

 黒パンは外がカリッとしていて少し酸味のある本格派だ。どちらもおいしい。


 アンは私と同じオムレツ、ジークは塩漬け肉のポトフを食べている。

 根菜がじっくり煮込まれているようで、おいしそう。


 ジークの横顔を見ているうちに、やっと今に帰ってきた気がした。




 講義室に着くと、リサがもう来ていた。

 今日は眠そうでもないし、普通に間に合ったみたいだ。

 周りは編み物をする女性がいたり、騒ぐ男の子たちがいたりと、初日と変わらない。



「おはよう、リサ」

「おはよう、美優。今日はお互い元気で良かったわね」


 おかしそうに笑う。


「今日は美優の“さんどいっち”を再現したのよ!

 うちの料理人が寝ずに頑張ったの!」

「わあ、ありがとう!それは楽しみ!」



 今日の私はお弁当を作る気になれなくて、昨日と同じくレストランにするつもりでいる。


「今日はレストランで食べるつもりで来たんだ」

「そうなの。

昨日のお粥は美味しかったものね」

「うん、お菓子は持ってきてるよ。一緒に食べよう」

「まあ、異世界のお菓子ね!楽しみだわ」



 話しているうちにエーリヒ先生が来て、講義が始まった。


「昨日のおさらいをしてから、今日は魔力の流れと魔力干渉についてをやっていきます」


 ……昨日はすみませんでした……!

 心の中で先生に謝った。



「生物の魔力は温かい流れ、魔物の魔力は冷たい流れ、魔導具の魔力は均一で無機質です」



 必死に書き留めているうちに、講義は終わった。


 「魔力干渉の術に嵌まると、自分の魔力の温かい流れが断たれて一瞬で意識を失うこともある。

気をつけなさい」

 というエーリヒ先生の講義を頭の隅で思い出しながら、私は教科書をリュックに詰めた。

 



 先生が出ていき、講義室が一気にうるさくなる。


「レストランに行きましょう」

「うん。リサのサンドイッチ、楽しみ!」


 

 席につくなり、私はスープだけ注文した。


「これなのよ」 

 リサがうれしそうに豪華なお弁当箱を開ける。


「わぁっ……!」 


 ぎっしり詰まった白いふわふわパン。


「小麦粉を何度もふるって、不純物を全部取ったんですって。

ミルクとバターも贅沢に」

「再現度すご……!」

「『まよねーず』も、前に聞いたレシピで作ってもらったのよ。

さ、召し上がって」

「ありがとう、いただきます!」



 白いふわふわパンに、塩漬け肉とシャキシャキ野菜。

  マヨネーズの酸味が全部をまとめてくれる。


(ちゃんとサンドイッチになってる……!)


「高級って感じ!

めちゃくちゃおいしい!」

「良かったわ。料理人に伝えておくわね」

「うん、是非!」



「それにしても……美優の持つ瓶、本当にすごいわね」 


 リサはペットボトルを宝石みたいに眺めている。


「今日の飲み物は?」

「ミルクティーだよ。砂糖入り」

「まあ!濁りがなくて、こんなに美しい色の紅茶……!

砂糖まで入ってるなんて贅沢だわ!」

「砂糖ってそんなに?」

「蜂蜜は使うけど、砂糖は高級品よ」


「仲間に冷気の魔術で冷やしてもらったんだ」

「魔術の使い方が贅沢すぎるわ……!

こちらも参考にさせていただくわね」


 リサの働きかけで飲み物も変わっていくといいなあ。



「お菓子もあるよ。はい」

「まあ!一個ずつ包装されてるなんて……!」

「チョコチップクッキーだよ」

「冷めてるのに中がしっとり……!魔術で時間止めてるの?」

「いや、ただの市販品……」

「なんて技術力なの……!」


「こういうのもあるよ」

「紫の包装は高貴ね……噛んだ瞬間に消えたわ!?

薄い層を重ねる技術、ドワーフでも無理よこんなの!」


 こちらの世界では相当すごいものなんだなあ。



「美優、この包み……紙より薄いのに水を弾くの!?

この素材で防風マントを作ったら、我が商会は国一番になれるわ!」

「ただの消耗品だし、ゴミだよ」

「ゴミ!?国宝級の防水素材を!?

捨てるの!?」 


 リサの声がレストラン中に響いた。


 周りの学生たちが一斉にこちらを見た。

「どうした?」

「珍しい魔導具か?」



「買い取らせていただくわ!」

「いや、ゴミにお金出す人はいないよ……」

「こんなに素晴らしいものを……!」


 リサは渋っていたけれど、捨てる予定のものだから無理やりタダにした。



「これほど軽くて丈夫な瓶と包装、一生ものの家宝にするわ!

以前の紙も、開発部に回して、残りは額縁に入れてあるの」


(ひえ〜!ただのルーズリーフが額縁に!)


「そんなに大事にしてくれてありがとう……」

「こちらこそよ。再現できたら商会がひっくり返るわ」



 そんなこんなで、昼休みはあっという間に終わった。

 読んで下さり、ありがとうございます。

 

 今回、39話の前半はジークのことを考えながら眠ったはずが美優がみた夢は……

 私のお気に入りの新キャラクターの登場でした。


 後半は豪商の娘リサとの楽しいランチタイム。

 彼女とのやりとりは書いていてとても楽しかったです。


 次の話の調整のために、今回はこの39話のみの更新になります。


 40話もまた違うお気に入りのキャラクターが登場し、新たな展開が……

 次回は7/5(日)19時頃の更新予定です。

 

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