ホットケーキミックスで厨房騒然!? ショートパンツを止められて、反省コーデで酒場へ
学院の門を出ると、アンとジークが待っていてくれた。
「二人とも、来てくれてありがとう」
「あれ?ミュウ、なんだか元気になったみたい」
「実はね……」
私は解毒の呪文を習ったと話した。
「ほぅ、もうそんな術が出来るようになったか。よくやったな」
「すごいじゃん、ミュウ!気持ち悪いのが治って良かったね!」
「えへへ……」
褒められて胸を張る。
……ちょっと誇らしい。
「じゃあ、ミュウの具合が良くなったし、昨日の話をするね!
酒場の真ん中に躍り出た時のことから話そうか!まずはね……」
アンの目がきらきらしている。
「え……それは忘れてほしいんだけど……!」
あああ……恥ずかしい……!
楽しそうなアンの暴露を聞きながら、帰り道を歩いた。
宿屋に着いた。
今日は寄り道をしなかった。
昨日の醜態を晒してしまった酒場に持っていく、“お詫びのお菓子”を作るつもりだ。
「じゃあ、出来上がったら声をかけてね!」
「一人で行くなよ」
「うん、わかった。
二人とも、味見をよろしくね」
また厨房を借りて、お菓子を作りを始める。
ホットケーキミックスで作る小さな丸いコロコロドーナツ。
甘いものは貴重だから、喜ばれると思う。
「今回は何かしら?」
「また変わったものを作るのか?」
「楽しみだな」
「期待してるぞ」
女将さんと料理人さんたちが、前回のサンドイッチ以来すっかり私のファンになってしまったらしい。
「そんなすごいものじゃないですよ……」
卵を割って牛乳を入れただけで「おおお!」と歓声が上がり、
泡立て器を使えば「魔法の杖か!?」と驚かれ、
ゴムベラを使えば「魔力を一点に集める道具か!?」と騒がれる。
(……いや、ただのキッチン用品なんだけど……)
「これを揚げていきます」
「おい、そんなに油を使うのか?!」
「贅沢だな……」
どうやら、油もかなり貴重らしい。
きつね色に揚がったドーナツを見て、厨房がざわつく。
「おい、ただの粉と卵のはずなのに勝手に膨らんだぞ……!
この白い粉、もしや成長の精霊でも閉じ込められているのか……!?」
「いや、妖精じゃないか?」
「だから膨らむのか……」
「かいだことのない、いい香りだな……」
湯せんで溶かしたチョコペンでみんなの顔を描いていく。
酒場の人はわからないので、酒場の名前を書くことにする。
「緻密な魔導紋章を描く儀式のようだ……!」
(ただの百均のチョコペンなんだけどな……)
どうやらこの世界では“飲む贅沢品”らしく、固形で絵を描くのは衝撃だったようだ。
「おまたせしました。みなさん、どうぞ!」
「食べるのがもったいないわね……」
「自分たちのためにこんな手の込んだ作業を……」
「この菓子には加護がありそうだな」
「食べずに取っておくか……?」
みんな中々食べなかったけれど、
「まあ、とても甘くておいしいわ……!」
「外がサクサクで中がしっとりして実にうまい!」
「それは良かったです」
おいしく食べてくれたようで良かった。
厨房から出るとバニラの香りが広がっていて、お客さんたちが
「何が出てくるんだ!?」と期待していた。
(……ごめんなさい、売り物じゃないの……)
大量に作ったドーナツを紙箱に詰め、酒場へ持っていく分を分ける。
二階に戻り、アンとジークに試食をしてもらう。
「わ、ミュウの異世界スイーツ!
私の顔だ!かわいい!」
「いい匂いがする……こんなに細かいものをよく描けるな」
見た目は気にいってもらえたようだ。
「お味はどう?」
「おいしいよ〜!甘くてふわふわ!」 「この菓子も実にうまいな。外が香ばしくて中がふわっとしている」
持って行っても大丈夫みたい。良かった。
「あげるのはなんかもったいないね。私たちで食べちゃわない?」
アンの目が真剣だった。
大浴場でさっぱりしてから、早めに出発するためにジークの部屋へ声をかけた。
「ジーク、準備できたよ」
すぐに扉が開いた。
「ああ、出発する…………」
ジークの言葉が止まった。
「……」
数秒の沈黙。
「……なんだ、その格好は!?」
ジークは一瞬、私の生足に視線を落としたかと思うと、顔を赤くして弾かれたようにガッと天井を仰いだ。
「え?何か変……?似合ってない?」
私は、オーバーサイズの黒パーカーにダメージ加工のデニムショートパンツ。
足は黒い靴下に白のスニーカー。ロゴ入りのキャップ。
「に、似合っていないわけではない……
ただ……その、足!足が出すぎている……」
「え?これくらい足を出した子はいたよ?」
「……それは小さい子供だろう。
年頃の女性が、人目につく場所でそんな格好をするものじゃない。
無防備すぎる……!」
ジークは視線を逸らし、耳が少し赤い。
「どんな視線にさらされているか、もう少し考えた方がいい。
その……もし、おかしな術でもかけられたら……」
そこで言葉を飲み込んだ。
「うーん……着替えた方がいい?」
「ああ。そんな格好で酒場に行くなど、考えられない」
(……怒ってる?いや、違う……心配してくれてるんだ……)
着替えてから、アンの部屋へ。
「ミュウ、準備出来たんだ。
かわいいじゃん!
ジークに言われて着替えたんだってね。どんな格好してたの?」
「ショートパンツが良くなかったみたい……足が出すぎているんだって」
「あー、ジークならそう言うね」
「これなら大丈夫?」
「うんうん、問題無し!ジークもかわいいって思うよ!」
「ありがとうね。アンの服もかわいいよ」
「ふっふ〜ありがとう!」
今日のアンは、ネイビーのカットソーにチェックのスカート。
ソールの厚いストラップシューズ。
アクセサリーは控えめで、いつもより落ち着いた雰囲気。
声をかけると、ジークが出てきた。
私を見て目を細める。
「……さっきと随分雰囲気が違うな……よく似合っている」
「ありがとう……」
私はライトブルーのロングワンピースに、アイボリーの薄手カーディガン。
髪はローポニーテール。アクセサリーは無し。
(……昨日のお詫びも含めて『反省してます』をアピールする全身メッセージのつもりだけど……
うん、こっちの方がジーク受けが良いみたい。
推しの好みの服装、清楚系を把握できたと思えば、着替えた甲斐もあるよね!)
「……安心した」
「ん?ジーク、なに?」
「いや、なんでもない……」
気のせいかな?何か言った気がしたけど……?
「ジークは今日もかっこいいね……」
「ああ、ありがとう……」
ジークはカーキのワークシャツを腕まくりし、黒の細身パンツ。
編み込みレザーのブレスレットに、歩きやすい黒の革靴。
(今日も推しの新規絵ゲット……ツイてる……)
気分も上がってきたところで、私たちは宿を出発した。
(……さて。 昨日の酒場のみんな、怒ってないといいな……
いや、むしろ大騒ぎになってなきゃいいんだけど……)
読んで下さり、ありがとうございます。
第35話は、美優の日常&やらかしリカバリー回でした。
次回、36話も同時に更新しています。よろしければ、一緒にお楽しみ下さい。




