弟子入りに作詞の指導!?二日酔いの頭を抱えて、今日も推しが眩しすぎる
「おーい、ミュウ、そろそろ起きた方がいいんじゃないの?」
「んん……アン……?」
アンがこちらをのぞき込んでいる。
……あれ……ここは……
……宿だ!?
酒場の光景がフラッシュバックする。
歓声。楽しそうな笑い声。
そして、誰かが「歌姫だ」と叫んだ声。
私……どうしちゃったの……?がばっと起き上がる。
頭がガンガンする。
ズキズキと脈打つみたいに痛い。
「いったぁい……!」
……頭の中で工事をしてるみたい。割れそうだ……
声はガサガサ、体が鉛みたい……
(お酒のせいだけじゃない。これ、初日にエーリヒ先生が言っていた『魔力酔い』の症状にもそっくりだ……
初めての本格的なレッスンだったから、知らずにかなり魔力を使ってたんだな……)
「アン、私……昨日、何があったの?」
「やっぱり覚えてないんだね。
ミュウ、すごかったんだよ!いい歌ばかりだった!」
歌っていたのは記憶があるけど……
「最初の曲で、酒場の空気が一瞬で変わったの。
ミュウが歌い出した瞬間、 みんな“えっ?”って顔して、手を止めて、目を丸くして……」
「……そんなに……?」
「うん。
最初の曲でみんなざわついて、二曲目で立ち上がって踊りだして、三曲目で全員がしーんと黙っちゃったんだよ。最後に拍手が爆発した!」
「……わ、私……そんな……」
「ほんとに“歌姫”って呼ばれてたよ。
すごい人気者だった」
顔が熱い。今、すごい顔をしていると思う……
「それでね、酒場の人たちが大騒ぎになって━━
“もう一曲!”ってみんな叫んでた!」
「それから、弟子ができたよ」
「ええええええ!?」
で、弟子!?なにそれ……
「……どういうこと……?」
「前で変な歌を歌ってた人だよ!ルカって言ったかな?
ミュウの歌に惚れ込んだんだってさ」
「そ、そんな……」
「ミュウもノリノリで『いいよ〜!』って言ってたよ!」
「……やめて……言わないで……」
「それよりミュウ、そろそろ学校に行く時間じゃないの?」
「はっ!そうだ!」
スマホを見ると、急がなくてはいけない時間だった。
アンが起こしてくれて良かった……あっ!お弁当作ってる時間ない!どこかで食べるしかないか……
「あの、それからね、」
ここが一番大事だ。
「ジークはどうしてる……?私、変なことしなかった?」
「ジークは最初の曲で固まってたよ」
「固まってた……?」
どういうことだろう?
「うん。
最初は驚きすぎて動けてなかった。
それから、ミュウが笑って歌うのを見て、なんか胸のあたりを握ってた」
「胸……?」
「そう!こう、ぎゅーって押さえてた!」
「……」
「でね、三曲目の時は完全に撃ち抜かれてたよ!」
「撃ち抜かれ……?」
「光に濡れたみたいな目で、ずっとミュウを見てた。
息を呑んで、歌に合わせるみたいに呼吸して……
何度も見ては逸らしてた。
最後なんて、泣きそうだったよ」
私は息を呑む。
……ジーク…… そんな……
「で、ミュウ、途中で寝ちゃったでしょ」
「……えっ……寝たの……?」
「うん。歌い終わって、“もう飲めない〜”って言って、そのままテーブルに突っ伏して寝たよ」
「うそ……」
「ジークがね、“ミュウを部屋まで運ぶ”って言って、おんぶして帰ったの」
「お、おんぶ……!?」
「うん。 ミュウを落とさないように、
ずっと優しく背中を支えてたよ。
歩きながら何度もミュウの名前を呼んでた」
「…………」
胸がぎゅっとなった。
(……恥ずかしくてもう瀕死……)
「それでね、カギは私が魔術で開け締めしたよ」
「そう……ごめんね、ありがとう……」
「それから、今日の夕方に酒場に行って作詞の指導をすることになってるよ」
「ええ〜……」
……なんてこった。こんなよれよれボロボロでやることはいっぱいだなあ……私が悪いんだけど……
「じゃ、ミュウが準備したら出ようか!ジークも待ってるよ!」
「え?今日も二人はついてきてくれるの?悪いからいいよ……道はわかるし」
「ダメダメ!そんな状態で行くなんて心配だよ!
ジークも同じことを言うと思う」
「そうかなあ……」
「ミュウ、ほんとに大丈夫?顔色わるいよ」
「うん、まあなんとか……」
とりあえず急いで着替えをして、持ち物を確認する。よし、大丈夫。
「じゃ、出ようか」
「うん」
部屋から外に出たら、なんとジークが立っていた。
「ジーク……おはよう、昨日はおんぶしてくれたんだってね。ごめんね、ありがとう……」
「おはよう。大したことじゃない。それより……二日酔いは大丈夫なのか?」
「う〜ん……でも昼間だし、学校に行くだけだから大丈夫だよ」
「やっぱり良くないようだな。一人で行かせるなど絶対に無理だ。
……歩けるか?駄目そうならまた背負ってやるが……」
そう言ったジークの耳の端が、ほんのり赤い気がする。
「ううん!大丈夫だよ!」
そんな、推しにおんぶ(二回目)とか……とんでもない!
「……昨日の歌、忘れられない。……お前が遠くへ行ってしまうような気がした」
「えっ……?」
「いや……なんでもない」
なんか、ジークがすごいことを言った気がする……
「よし、出発!」
アンの元気な掛け声が頭に響く。
私はジークとアンのあとから、ゆっくりと歩き出した。
読んで下さり、ありがとうございます。
お騒がせのナイトライフから一夜明け、第32話は羞恥心と頭痛の嵐からスタートです。
前夜、ナニヴァルの猛者たちを熱狂させ、酒場ごと『浄化』してしまった美優ですが、代償はまさかの二日酔い&魔力酔い。
しかも、お酒の勢いで謎のクジャク系イケメン・ルカに「弟子入り」を許可し、「作詞指導」の約束まで取りつけられていたという絶望の事実が発覚!
酔った時のノリって本当に恐ろしいですね(笑)
次回、第33話は6/7(日)の19時頃に更新予定です。




