酒場の歌姫、降臨!?酔った勢いで異世界の夜を『浄化』しちゃいました
段々、賑やかな音楽と笑い声が聞こえてくる。
沢山の飲食店が立ち並ぶ場所にやってきた。アンの言う通り、光る看板が沢山ある。
夜はこれからという感じで、歩く人たちも楽しそう。
目当ての店が近づいてきた。
「あっここだよ!」
アンが指を差した大きな店を見る。
「へぇ〜ここがその串揚げの店なんだ」
「そうそう」
ジークとアンに続いて店に入る。
店内は木造りで、天井から魔法のランタンがぶら下がっている。
それに、絵が書かれたメニューが壁にぶら下がってある。
字が読めない人向けらしい。店員さんが今日何があるのか、メニューの説明をしているのを見た。
床に木屑がいっぱい落ちてて踏んだらサクサクいう。砂浜みたい。
聞くと、お客さんが持ち込む泥、こぼれたお酒や食べカスを落としたりするから汚れを吸収させて、掃除をしやすくするためらしい。
天然の掃除フィルターってとこかな。室内キャンプ場と思えば問題ない……かなあ……
席についたらそこにはメニュー表があったのでそれを見る。
「え〜と、なになに……マンドラゴラの幼体串……
えっ!マンドラゴラって、引っこ抜く時の悲鳴を聞いたらダメなやつだよね!?」
「ああ、それは単なるホクホクした小芋だよ。揚げたてはヒイッて音がするから」
「そうなんだ……じゃあ、火トカゲの尻尾揚げは?」
「それは辛口のチョリソーだな。魔法のスパイスがかかっている」
アンとジークが答えてくれる。
他にも強そうな名前があるけど、みんなそんな感じかな?
「ねぇ、これはどんなお酒?」
「それはリンゴ酒だな。魔法で凍った葡萄が数粒乗っている」
「それにしようかな。
あっ、こっちは?魔法の夕焼けエールって名前がいいね」
「それは軽い黄金色のエールの底に赤いベリーのシロップを沈めたものだ。かき混ぜるとグラスの中で色が昼から夕焼けに変わる魔法の演出があってな。
甘酸っぱくて苦味がないからいいと思うぞ」
「それも楽しそう!」
ジークはよく知ってるなあ。色々飲んだのかな?
お酒も食べ物もいくつか注文する。もちろんアンはジュースだ。
「「「乾杯!」」」
乾杯をしてみんなで飲み、食べる。
『黄金の太陽トマト』 はミニトマトの串揚げだった。
噛んだ瞬間に熱々の果汁が弾ける様子を太陽の爆発に見立てたものらしい。
『魔導ナスのギミック揚げ』は口の中でパチパチ弾ける魔力の粉がかかった、不思議な食感の揚げナス。
噛むたびに楽しくて、うん、どれもおいしい!
ふと前の方を見ると、派手な男の人が歌っている。さっきから聞こえている妙な歌はこの人かな?
銀髪の線の細いイケメンで、声もメロディも綺麗だけど歌詞に問題ある。
「♪俺〜かっこいい〜ドラゴン倒す〜イェーイ!!」
……これは、ひどい。
「こういう歌がこちらでは流行りなの?」私が聞くと、
「まさかぁ。あんなひどいの中々いないよ」
「声はいいが、歌詞がな……」
「そうなんだ……」
もったいないなあ。歌詞以外は全部いいのに。
あっ、服装も変かも。鮮やかなターコイズブルーの長い丈のジャケットは肩口に黄金の刺繍がされている。それにダマスク柄のジャガードパンツ。動くたびに光の粒子が舞い上がっている。
なんというか、クジャクかな?
よく見てると、ギターに似ている弦楽器は弦を弾くたびに魔法陣が浮かび上がり、周囲の音を増幅させている。
音を大きくするより、ボキャブラリーを増やすことの方が先決じゃないかなあ……
まあいいか……あ、このお酒もおいしい!
「すみません、このお酒おかわりお願いします!」
木製のテーブル。魔法灯の薄明かり。お酒の匂い。 冒険者たちの笑い声。誰かがカードゲームをしている。
厨房から肉を焼く匂い。
飲むうちに、なんだか顔が熱くなってきた。
あれ……音が気持ちいい……
歌いたい……歌いたい……歌っちゃおう……!
「……なんか、ちょっと歌ってみようかな……」
「おっ、いいね!ミュウの歌、好き!」
「……そうだな、俺も聴きたい」
ジークがグラスを持つ手を止めて、こちらを見ていた。
その目がいつもより柔らかい気がした。
それなら、何を歌おう……
思いつくままに歌ってみることにした。
緊迫感とダークな世界観。激しく爪立てるような、飢えた獣を思わせるリフレイン。
胸のなかでうなる低音。影を切り裂くようなビート。自分の中の獣を解き放つような歌声。
クールで中毒性の高いエレクトロサウンド。足を踏み鳴らしたくなるような重低音。
強い意志と葛藤。
大切な人を守るために強くなるという歌詞。
最初の低音を落とした瞬間、 酒場の空気がビリッと震えた。
ざわめきがすっと遠のいた。
まるで、世界が息を止めたみたいに。
ジークが息を呑む気配がした。
……あれ……静かになった……?
空気が変わったように思う。……なんか視線を感じるけど……
視界の端でお客さんたちの反応が見える。
さっきまで大声で笑っていた冒険者が口を閉じる。カウンターの店主が手を止める。子どもが椅子の上に立って見ている。
誰かが「なんだこの声……」と呟いている。隣の席で酒を飲んでいた男の人がグラスを落としそうになっている。
……みんな、どうしたんだろう……?
ふわふわ気持ちがいいし……あまり深く考えられないな……
ま、いいか……
一曲歌い終わった。
「なんだこの子……!」
「……声がすげぇ……」
「鳥肌が立ったわ……!」
何か言ってる声がする。なんだろう?
テンションが上がって、そのまま明るい曲に突入する。
力強く疾走感のあるロックサウンドが背中を押してくれる弾けるようなポップス。
止まっていた心が走り出すかのような。
今度は自分が誰かのヒーローになるんだと、弱気な背中を強引にハグして連れ出すような、誰もが主人公になれる最高に無敵な応援歌。
歌い始めると、周りの反応が変わった気がする。
さっきまで黙っていた冒険者たちが、 今度は机を叩いてリズムを取り始める。
誰かが笑って、 誰かが肩を組み、 知らない客同士が一緒に歌い始めていた。
手拍子が起きている。足でリズムを取る人が出る。子どもが踊り出している。誰かが「いいぞー!」と叫ぶ。
アンがメガネを光らせながら、
「何これ最高に元気出るー!」と机を叩いて大喜びしている。
「……なんか……楽しい…… みんな……笑ってる……」
その空気に自然と乗っていく。
全員巻き込んで大合唱になった。
気がつけば店の真ん中に私は立ち、現代のステップで踊っていた。
アンの派手なメガネが、私の動きに合わせて虹色にカチカチと点滅している。……気持ちいいなあ……
そのまま三曲目を歌う。
少しだけ静かになって、フレーズを指でテーブルにトントンしながら歌い始める。
文学的で、どこかノスタルジック。
晴れ渡る空のような爽快感のなかに、切なさと大切な人へ言葉を届けるという祈りが混ざる曲。
吹き抜ける青空のように、どこまでも、どこまでも伸びていく透明な歌声。
雨上がりの空を見上げて、遠く離れた大切な人に『私は元気だよ』と風に乗せて言葉を贈るような、切なくも美しい歌。
帰れない世界。
もう届かないかもしれない人たち。
それでも、 “私はちゃんと生きてるよ”
そう空へ歌いたくなった。
ここで空気が変わった。
紫の魔力が歌声と混ざり合い、酒場全体の淀んだ空気が一瞬でカラッと晴れ渡るような奇跡が起きる。
淀んでいた空気が、 雨上がりみたいに澄んでいく。
酒と油と熱気に満ちていた酒場が、 一瞬だけ、 神殿の朝みたいな静けさに包まれた。
酒場は静まり返り、最後の一声で拍手が爆発した。
「歌姫だ……」
「……すげぇ……」
「もう一曲たのむわ!!」
私は照れながら歌った。
ジークが息を呑んでどこか真剣な目で見つめていた気がする。
彼は何かを言いかけて、やめた。
その後ろにいた年老いた魔術師が、 青ざめた顔で呟く。
「……浄化の歌姫……?」
━━━私が覚えているのはそのあたりまでだった。
読んで下さり、ありがとうございます!
今回は、ついに美優の「歌姫」としての本領が爆発する回となりました。
ナニヴァルの賑やかな酒場で、お酒の勢いも歌い出した美優。
1曲目のダークで激しい獣のような曲で一瞬にして猛者たちの度肝を抜き、
2曲目の無敵の応援歌では、アンの虹色メガネと共に酒場全体を大合唱の渦へ!
そして3曲目、どこかノスタルジックな青空を思わせる曲……。
実家の神社のこと、元の世界のこと。
「私はここで生きてるよ」という美優の切なる祈りが、彼女の持つ「紫の魔力」と混ざり合い、酒場全体の淀んだ空気を神殿の朝のようにカラリと『浄化』してしまいました。
圧倒的な光を放つ美優を、ただ一人、どこか真剣な目で見つめていたジーク。
そしてラスト、老魔術師が呟いた「浄化の歌姫」という言葉。
楽しい夜遊びの裏側で、美優の運命が大きく動き出す予感がします。
次回、第32話。
翌朝、とんでもない二日酔いで目を覚ます美優を待っているのは……?
32話も同時に更新しています。よろしければ、一緒にお楽しみ下さい。




