空飛ぶグミと魔法の保温茶。二人きりで歩く、異世界の特別な放課後
学校を出ると、ジークが学院の外壁にもたれて待っていた。
「……お疲れ、ミュウ」
「ジーク!……来てくれたんだね、ありがとう」
「初日だろう。ひとりで帰らせる気にはならなかった」
朝言っていた通りに、迎えに来てくれてうれしい。ホッとする。
(……ジークと歩く帰り道、なんだか特別に感じる……)
帰り道、お店の話をしながら二人でぶらぶらと歩く。
朝はよく見る暇がなかったけど、魔術の街らしい色々な店があるなあ。
「気になる店があったら、入ってみるといい」
「うん」
表通りに面した、古書と喫茶の店に入ることにした。
古い建物で、蔵書を保護するためか少し薄暗い。
「入って右側の方が喫茶になっているんだ」
「へぇ……ジークは本を読む方?」
「あまり読まないが、ここは面白い本があるぞ。喫茶は何回か利用したことがある」
「そうなんだ」
どれどれ、どんな本があるんだろう?
『魔物の解体大全〜美味なる部位と調理法〜』
魔物って食べられるのかな?パラパラめくると、図解入りでしっかり書いてある。
冒険者にはためになるだろう。私もこういう本を持っていた方がいいのかなあ。
『古代言語の魔術書』
読んでいたら、時々勝手にページがめくれる。お茶目な本のようだ。
『異世界の空と街並み』
絵本のようだった。私の元いた世界に似た風景が描いてある。アスファルトの道や電柱。
……誰が描いたのだろうか。胸がざわざわして切なくなった。
(……帰りたい、って少し思ってしまった)
「……ミュウ、無理はするな」
ジークがさりげなく私の肩に手を添えた。
「……うん、ありがとう……」
喫茶はテイクアウト式になっている。
「朝見た、煙が出るお茶はちょっと怖いな……」
「普通のもある。ミュウにはこの辺りがいいだろう」
ジークおすすめのお茶を注文して飲んでみた。魔導の焼き物に入っている。
温かくてほのかにフルーティーな香りがする。
「ジーク、これおいしいよ」
「口に合ったなら良かった」
「これ、飲み終わったら入れ物はどうするの?」
「近くの回収する箱に入れればいい。魔術で洗浄されるようだ」
「へぇ……流石は魔術都市だね」
現代の自動食洗機みたい。
「あれ……底に何か書いてある……」
「それは魔導の刻印で、これでしばらく保温されるんだ」
「色々すごいんだね……」
飲み終わり、気になる本も見たので店を出た。
次は路地裏の駄菓子屋さんに行くことにした。
「ミュウならこういうのが好きかと思ってな」
「うん、好き!流石ジーク、わかってるね!」
扉を開けると、
「いらっしゃい」しわがれた声がする。
奥に店主らしい年配の女性がいた。
姿は想像する魔女そのまま、黒いローブにとんがり帽子。鍋をかき混ぜているのが似合いそうだ。
床はギシギシと鳴る木造りで、ところ狭しと様々なものが置いてある。
何が入っているかわからない瓶詰めにカラフルな飴やグミ……宝箱のような場所みたい。
「ジークも小さい頃は、こういう店に来たりしていたの?」
「家は厳しかったから頻繁には無理だったが……時々こっそり抜け出して、弟や友人と買いに来ていた。
実は今の方がよく来たりするな」
ジークは少しだけ懐かしそうに笑った。そういえば姿勢もいいし、品もあるから騎士とかの家なのかな?
「そうなんだ。ねえ、ジークのおすすめを教えて」
「ああ。俺はこの辺が好きだ」
ジークの小さい頃、気になるなあ。いつか聞けるといいな。
ジークはおすすめのものを説明してくれた。
「これは『空飛ぶひよこグミ』食べたらほんの少しの時間だけ体が浮く。
あとこれは『影がのびるグミ』一時的に影が二倍になる」
面白いものが沢山あるなあ。気になるものをどんどん買うことにした。
夜、アンに見せてみよう。
「ありがとう。またおいで」
私は店主さんに頭を下げて、店を後にした。
学校での話をしながらゆっくり歩く。
「紫の魔力って言われたんだよ。色んな色があるみたいだね」
「……やっぱりな」
「えっ?」
「前から思っていた。初めて会った時から、ミュウからは清らかな気配を感じていた。お前の魔力は……綺麗だ」
「あ……ありがとう……」
……なんだか、照れるな……
「魔力テストで、普通は芽が出る程度なのに花が咲いちゃって……ロビーに飾られることになったの」
「それは誇っていい。お前の力だ」
「……うん」
「『フラッシュ』の呪文でね、先生の肩こりまで治しちゃったんだ」
「……治癒の素質まであるのか。それはすごいな……俺の肩も、いつか頼む」
ジークが面白そうに笑った。
「うん、任せて!」
褒めてくれてうれしい。
くすぐったい気持ちのまま、宿に着いた。
読んで下さり、ありがとうございます。
魔術学院の初日を終え、待っていたのはジークの出迎えでした。
異世界の不思議な古書喫茶や、ちょっと怪しげで魅力的な駄菓子屋さん。二人で歩くナニヴァルの路地裏は、まるでデートのような、けれどどこか切ない時間となりました。
ふと見つけた「元の世界」に似た風景の絵本。
異世界での生活に馴染み始めていても、ふとした瞬間に襲ってくる望郷の念。
そして後半は、学院での武勇伝をジークに報告。
「肩こりを治すフラッシュ」の話に笑ったり。
次回、宿に戻った一行を待つのは、賑やかな夜の時間。
30話も一緒に更新しているので、よろしければ合わせてお楽しみ下さい。




