その光は肩こりまで治す!? 個人レッスンで開いた新たな才能
次は個人レッスンだ。ニ階の端にある教室に向かう。
やっぱり上昇の魔法陣は怖いから、階段で向かった。
「失礼します……」
そこは個人レッスンをするにしては広い教室だった。
端に机と椅子が二組あるけれど、それ以外は何も無い。
「はじめまして、カサンドラよ。この学院が初めての生徒さんね。今日はよろしくね」
「美優と申します、よろしくお願いします」
カサンドラ先生は六十代くらいの女性の先生だ。
澄んだ青い目に、灰色の髪を後ろで束ね、ゆったりとしたローブを着ている。
「女性には特に、防犯の魔術を最初に教えているのだけど、まずはあなたの魔力を測っていこうかしら」
そう言って先生は魔力の測定機を出してきた。
アンティークっぽい土台の上に、真鍮製の精密なパーツが組み合わさった、横幅四十〜五十センチほどの卓上装置だ。
「その右側に手を置いてね」
「はい」
蓮の花のように開いた銀の台座の中央に、手のひらサイズの魔石が据えられている。
私はそこに、そっと手を置いた。
中央の銅線パイプが、かすかに高音を鳴らしながら振動する。
「やっぱり、紫になったわね……それにしても、紫色の魔力なんて何十年ぶりかしら。
しかも鈴のような澄んだ音を発している……これは“浄化系”の素質ね」
「普通は何色が多いのですか?」
「普通の人は淡い青が多いわね。強い人は赤や金よ。あなたは更に強い」
「そうなのですか……」
(……やっぱり、私の魔力ってちょっと変わっているんだな)
魔力を循環させるテストでは、カサンドラ先生が感心したように言った。
「あなた、精神統一がとても上手ね。 まるで修行を積んだ巫女のようね。
普通はゴツゴツした波形なのに、美優は水のように滑らかで均一だわ」
「ありがとうございます……」
「あなた、面白いわね。こちらもさせてみたくなったわ」
カサンドラ先生が植木鉢を持ってきた。
「ここには魔力の種が植えられているの。あなたの魔力を注ぐのよ。
普通なら芽が出る程度だけれど、美優なら花が咲きそうね。楽しみだわ」
先生には期待されているけれど、うまくできるかな?
私は植木鉢に手をかざし、芽が出るイメージをしながら魔力を注いだ。
「芽が出たわね……あら……見たこともないような神々しい蕾が……?」
まるで時間が早送りになったみたいに、芽が伸びていく。そして白い蓮のような花が咲いた。
「まあ、なんて美しい花なのかしら……こんなのは見たことがないわ!これは、ロビーに飾るべきね!」
「ええっ……」
なんと、目立つところに飾られることになってしまった。
「では、あなたがどれくらいできるのか見ていこうかしら。
ここは魔術防壁加工がされているから大丈夫よ」
おお、それなら安心だ。
「『ライト』、『フレイムアロー』、『クリアウォーター』が使えます」
「初歩的なものは使えるのね。じゃあ『ライト』からね」
「はい」
私は足を肩幅に開いて深呼吸をした。プロに見てもらうのはドキドキするけど、その後も練習しているからうまく出来るはず。
魔力をゆっくり循環させ、指先へと慎重に誘導した。
いつものように、キャンプで使うランタンの光をイメージする。
「闇を照らす一粒の光を」
「ライト」
私の指先にポゥ、と明るい柔らかな光の玉が出現した。
「きちんと出来ているわ。基礎が丁寧ね。あなたに教えた人が良かったのね」
うれしい、アンのことも褒められた。
「先生、こうやってゆっくりならいいのですが、魔物に遭遇してすごい光球を放ってしまったことがあるのです。いきなり飛び出してきたから焦ってしまって……」
「それは仕方ないわね。大丈夫、基礎が出来ているから繰り返せば慣れるわよ。
反復して頭と体に覚えこませるのね」
「わかりました」
なるほど。引き続き頑張ろう!
「次は『クリアウォーター』ね」
「はい」
こちらもいつものように、空気中の水を集めるイメージから始めた。
手に伝わる冷たさと透明な輝き。
(それからおいしい天然水のイメージ……)
「満ちよ清き水よ、渇きを癒し万物を清める雫となれ」
「クリアウォーター」
何回もやってるし、制御できたのでコップ1杯くらいの水を出せた。
「こちらもちゃんとできてるわね。綺麗な水だわ」
……えへへ、良かった。
「じゃあ次は『フレイムアロー』ね」
「はい……」
……これが一番大変だ。
揺れる、赤。そして炎を思い描く。
細く、鋭い矢の形。
「来たれ赤き炎よ、我が指先に集いて鋭き矢となれ」
「フレイムアロー」
青い炎の矢が出現し、前へ飛んでいく。特訓のおかげで一本なのは良かったけど……
「あらまあ!炎が青いわ!今まで見たことがないわね」
「……先生、これが問題なのです……頑張っても炎が青くなるのです……」
「あなたの最初のイメージが青だったのね。初歩なのになんでかしら?
でも超高温で強力なのだから、自信を持ちなさい。これも反復することね」
「……そうですか……」
……褒められて終わってしまった。ガスのイメージがついて回るし、これはここぞという時だけにするかな……
ふと思いついて先生に聞く。
「魔術が変なのは、私が『転移者』だからでしょうか?」
「いいえ、これはあなたの魂が徳を積んでいる証拠よ。胸を張っていいわよ」
「はい……」
やっぱり巫女をしていたからだろうか。先生が言うなら、そうなのかな。
「それでは、実戦で生き延びるための防犯魔術を二つ、教えていくわね。最小の魔力で最大の隙をつくるの。
これを覚えるまで、今日は帰さないわよ!」
ひええ、急に先生が燃えている……
「まずは『フラッシュ』。『ライト』を一点に集中させて、一瞬だけ爆発的に光らせるの。『ライト』ができてるのだから、これもできるわ」
「はい」
「呪文はこうよ、時の流れを切り裂く閃光よ、弾けろ、刹那を灼け。フラッシュ!はい、繰り返して!」
邪気を払うイメージ。
(光は優しく、でも確かに闇を払うもの……)
「時の流れを切り裂く閃光よ、弾けろ、刹那を灼け」
「フラッシュ!」
視界を奪うほどの純白の閃光。
そしてで全てを蒸発させるかのような静寂。
あっ、先生がいつの間にかアイマスクのようなものをつけている……いつの間に……
「すごい光ね……あら、私の肩こりが消えたわ……?これは『閃光』ではなくて『浄化の光』に近いわね。
方向性はとてもいいけれど、強力すぎるわ。味方まで巻き込んでしまうわよ。
魔力を最小でというのを、常に意識するようにね」
「わかりました」
「鼻から吸って、魔力を体内に集め、口から細く吐く瞬間に指先へ光を全……いいえ、あなたは小、でいいわね、小エネルギーで送り出すイメージで。それじゃ、何回も繰り返すわよ!」
「はい」
何回か繰り返すうちに少しずつ、感覚がつかめるようになってきた。
網膜に焼き付いて、消えない白い残像のイメージ。
カメラのストロボ。
「時の流れを切り裂く閃光よ、弾けろ、刹那を灼け」
「フラッシュ!」
一瞬だけ、眩く光った。
やった!
「よく出来たわね。その感覚を忘れないようにね」
「はい」
「じゃあ、次行くわよ!」
あっ、休憩無しなんだ……
「次は『グリース』よ。相手の足元だけ地面をツルツルにするの。
派手な落雷もいいけれど、転ばす方が確実よ。
重装備の男ほど、一度転べばすぐには起き上がれないもの」
なんだかピンポイントだなぁ。先生が編み出したのかな?
先生が少しボロボロの木の人形を持ってきて、魔術で動かす。
「この木の人形で試すわよ。呪文はこう、地に潜む油よ、足元を掬え、グリース!はい、繰り返して!」
「地に潜む油よ、足元を掬え」
「グリース!」
実家の神社の、毎日磨き上げられた廊下をイメージする。
人形はツツーと滑り、教室の端に激突した。
「最初からよくできたわ。
普通は油をまくようなドロっとしたイメージなんだけど……美優のグリースは、まるで氷の上か、完璧に磨かれた大理石みたいね。これじゃあ誰も立っていられないわよ」
先生はとても満足そうだった。
こちらも何回か繰り返す。
「そうそう、実にいいわね!
特に、体重が乗った『その瞬間』を狙いなさい。
魔力を最小でというのを、忘れないようにね」
「はい!」
「よくできたわね。今日のレッスンは合格よ。これで初心者なんて信じられないわ……弟子にしたいくらいね」
「ありがとうございます。
先生、またレッスンの予約をお願いしてもいいですか?」
「もちろんよ。うれしいわね。いつにする?」
「明日がいいです。今日と同じぐらいの時間は空いてますか?」
「たしか空いていたと思うわ……」
そう言って、先生は懐から羊皮紙とペンを取り出した。
「大丈夫よ、空いているわ。じゃあ、今日と同じ時間にね。
おさらいから始めるわ」
ただの羊皮紙ではなく、字が動いている。魔法のスケジュール帳かな?
先生はサラサラと書き込んでいく。
おお、インクのいらない魔法のペンもすごい。私も欲しい!
「ではよろしくお願いします。今日はありがとうございました」
私は頭を下げ、教室を後にした。
疲れて頭がぽーっとする。
でも、楽しかった。
……ジークに話したら、ちょっと驚くかな?
読んで下さり、ありがとうございます。
ついに始まったカサンドラ先生の個人レッスン。
美優の魔力は、ただ強いだけでなく「浄化」の質を帯びた特別なものでした。
本人は戸惑っていますが、先生は大絶賛!
相手を転ばせるだけでなく、ついでに床まで綺麗にしてしまいそうな美優の魔法、最強かもしれません(笑)。
そして、先生の肩こりまで治してしまった「フラッシュ」。
もはや攻撃補助魔法なのか癒やし魔法なのかわかりませんが……(笑)
次回、第29話。
学院からの帰り道、ジークと合流した美優を待っているのは……?
次回の更新は5/24(日)19時頃の予定です。




