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魔術の街の寄り道案内。騒がしさの後に訪れた、二人だけの時間

 翌朝。

 スマホのアラームより少し早くに目が覚めた。

 窓から外を見ると、気持ちのいい朝だ。

 実家の境内の掃除を思い出して、自然と背筋が伸びた。

 朝の空気に向かって、小さく息を整える。いつもやっていた“お清め”の癖だ。



 着替えて部屋の外に出る。

 アンもジークもまだ起きていないようなので、先に降りることにした。

 


 1階に降りたら、食堂にはちらほら人がいる。

 女将さんが声を掛けてくれる。

「おはよう。よく眠れた?」


「はい、お布団が気持ち良かったから、グッスリと眠れました」

「それは良かったわ。何か食べる?」


 あ、あれなんていい感じ。

 具沢山の雑炊を注文する。


 お昼はサンドイッチの予定だし、ちょうどいいかも。


 熱いうちに食べることにした。

「いただきます」

 押し麦と豆をお肉とハーブの出汁でとろとろに煮込んだものだ。

 腹持ちが良くてオススメと言われてただけある。



 食べ終わってから、厨房を借りれないか聞いてみる。

「いいわよ。そのかわり、どんなのか見せてちょうだい!」

 交換条件つきでサンドイッチを見せることになってしまった。



「すみません、お邪魔します」


 材料を広げると、料理人さんたちがざわつき始める。


「その白いものは……?」

「パンですよ」

 こちらのパンは黒いみたいだけど……


「そんな超高級品を!?」

「まさか、どこぞの貴族では……」

「その黄金色のソースはなんだ……?」

「別々に食べるんじゃないのか!?」


 ……サンドイッチって、そんなに衝撃なんだ……


「ええとですね……」

 説明しているうちに、ちょっとした騒ぎになってしまった。



 味見用も含めて大量に作り、100均パックを出した瞬間もまた騒ぎに。


「光魔法で成形したのか?」

「なんて美しい箱……!」

「……高度な物理魔法の仕掛けか……?」


 ……ただの100均なのになあ。



 女将さんも加えて試食会をする。

「ちょっと……このパン、ふわふわで柔らかいわ!」

「ソースもうまいな……!このコクとまろやかさ……是非作り方を教えてくれ!」

 また説明で時間がかかってしまった。



 厨房から出たら、アンがシチューを食べていた。


「おはよー……」ちょっと眠そうだ。

「おはよう。お弁当を作ったよ」

「やった!友達に見せびらかすよ!」

 アンとても嬉しそうに笑う。



 アンが食べ終わるのを待って、ニ階に上がる。

「ジーク、起きてる……?」

 ノックをすると、しばらくしてからジークが出てきた。


「……ああ。どうした?」

 ジークは寝起きで髪が少し乱れている。……ちょっとだけ、見惚れてしまった。


「これ……サンドイッチ作ったから……

 良かったら食べてね」

「……俺の分も?」

「うん。いつも守ってくれてるから……その、お礼」

「……ミュウ」

 

 名前を呼ばれて顔を上げると、まっすぐに見つめられていた。

 ジークが一歩、距離を詰める。


「……ありがとう。大事に食べる」

「だ、大事に……?」

「……ミュウが作ったものだからな……」


 それだけ言って、ジークは少しだけ視線を逸らした。


「そ、そう……」

 今までもご飯は作っていたけど、お礼はあってもそんなことを言われたりすることはなかった。

 ……このドキドキはなんだろう?別に深い意味じゃないのに……



「私はミュウを送って行ったら、友達に会いに行くよ!」

 アンの友達は創立記念日で学校がお休みらしい。

 

 そうしたらなんと、

「……俺も行く」


「……ジーク、今日も来てくれるの?」

「当然だ」

 小さく息を吐いてから、ぼそりと続ける。

「……そばにいる」

「……ありがとう」


 一緒に歩けてうれしいし、安心する。

 なんか隣でアンがニヤニヤしてるけど……その視線が、妙に意味ありげで落ち着かない。



 私は部屋へ戻った。リュックの中身を確認する。


 教科書よし、筆記用具よし、飲み物とお弁当よし。


「忘れ物はないか?」

 まるで何度も確認するように、ジークが言う。

「うん、大丈夫」

「それじゃ、行こう!」


 アンとジークと共に、私は宿屋を出た。




 大通りに出て、北にある学校の方へ

向かって歩く。


「そこの路地裏の駄菓子屋は安くて美味しいしオススメ。

面白いものがあるよ。音がする飴や食べる場所によって味が違うグミとか。弱い光を放つ石も子供に人気だよ」


 アンが歩きながら説明してくれる。なるほどと頭の中でメモをする。

 駄菓子屋さんは面白そうだし帰りにゆっくり寄ろう。



 気になる店がいくつも開いていて、思わず足が止まる。

 アンが説明をしてくれた。

「ここ、魔石のお店だよ。色ごとに魔力の性質が違うの。

お菓子みたいに見えるけど、触るとピリッとするよ」

「わぁ……綺麗……!」


「ミュウ、あまり近づくな。魔力が強い石も混ざっている」

 ジークが注意してくれる。

「えっ、そうなの?……ありがとう……」


 実家にも、近づいちゃいけない場所があったから、なんとなく分かる気がする……



 古書と喫茶の店の前を通ると、煙の出る飲み物を飲む魔術師がいる。


「……あの飲み物、煙が……?」

「魔力を活性化させる茶だ。魔術師はよく飲む」

「でも苦いんだよねー」

「そ、そうなんだ……」

 うーん、ちょっと気になるなぁ。



 火花が散る店先を見て、私は驚いた。


「わっ……火花が……!」


「杖の修理だよ。魔力の通り道を調整してるの」

「ミュウの杖も、いずれ調整が必要になる。……その時は俺が連れてくる」

「……ありがとう」

 当たり前に言ってくれて、なんだかうれしかった。


 それにしても、流石は魔術の街。どこも楽しそう。



 学校が見えてきたところで、横の道から三人の女の子が出てきた。どの子もカラフルな髪色をしている。


「アン!」

「みんな!」

 どうやらアンの友達らしい。わっと寄ってくる。


「あっ、一緒に冒険してる人達?」

「冒険から帰ってきてたんだね!」

 

「うん、例の場所、行くよね?

すごいものを持ってきたんだよ。こっちのミュウにもらって」

 アンが私を紹介してくれる。

 秘密基地みたいなところに行くのかな?楽しそうだ。

 アンは普段しっかり者だけど、友達の前では年相応に戻るみたい。


「はじめまして!」

「お姉ちゃん、ありがとう!」

「すごい『紫の目』!きれいね!」

「ねえねえ、魔法見せてよ!ドラゴンも倒せそうなやつ!」

「ちょっと、街中では無理でしょ!」

「どんな魔導具持ってる?」


 ひえー……若いパワーがすごい……私が返事をできないまま、会話がどんどん進んでいく。


「みんなと遊ぶなら、私の案内はいいよ。ジークがいてくれるし、もうそこに学校は見えてるし」

 私がアンにそう言うと、


「そう?ジークがいるなら大丈夫かな」 

「平気だよ。送ってくれて、ありがとうね」

「うん。それじゃあ、また夜に!」

 アンは手を振りながら、友達と走っていった。


 

 アンたちの賑やかさが去った後、急に静かになった。


 「アン、すごく友達に好かれてるんだね」

「……ああ。アンは良い子だ。……お前も、すぐに好かれる」

「えっ、私……?」

「さっきも皆、お前を見て嬉しそうだった」

「……それなら、うれしいな……」



「ねえジーク……『紫の目』って、そんなに珍しいのかな」

「……珍しい。だが……お前のは、綺麗だ」

「……そ、そう……ありがとう……」

 ジークはじっと私の目を見つめて、一瞬だけ視線を逸らした。



 ……もう少し、このままでいたいな……


 

 学院に着いた。

「ここまでで大丈夫だよ。ジーク、送ってくれてありがとう」


「……いや」

 少しだけ間を置いてから、続けた。

「……お前が中に入るまで、ここにいる」

「えっ……」

「……帰りは迎えに来るからな」

「……うん、ありがとう」

「行ってこい、ミュウ」


 当たり前のように迎えに来ると言ってくれた。一人で帰らなくていいんだ、という安堵感。

 緊張がほぐれていくのを感じた。


 私は一度振り返った。

 ジークはその場に立ったまま、こちらを見ていた。

読んで下さり、ありがとうございます。

登校前の厨房では、現代の「食パン(白パン)」と「サンドイッチ」が貴族級の衝撃を与えてしまいました。

私たちには当たり前のものが、異世界ではとんでもないオーパーツや高級品に見えてしまうギャップ、やっぱり面白いと思います。

そして、アンたちを見送った後の、二人きりの登校路を経て、

次回、いよいよ講義室に入ります。


26話も同時に更新しているので、続けてお楽しみいただければ嬉しいです。


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