500円のピアスが対呪用!?新しい装備と隠せない動悸
冒険者ギルドの次は、ジーク達オススメの店へ移動する。
従姉妹一家の忘れ物、ピアス類を売ってお金にするためだ。おばさんごめんねと、また手を合わせる。
「すごい面白いことになりそう〜楽しみ!」
アンはワクワクしているようだけど、これからの生活がかかってる私はドキドキしている。
運河沿いの道に差し掛かる。どうやらナニヴァルでもおしゃれなエリアらしい。高級な感じの店も立ち並ぶ。
「ちょっと……そんな高級なところ、大丈夫なの?」
私が心配になってそう言うと、
「前にどこに売ればいいかギルドで相談した時に、その店の名が挙がったんだ」とジークが言う。
「店主のマダムは昔、冒険者だったらしく親切でした」
マリアも笑って言った。
(それなら意外と大丈夫かな?)
「ここだよ!」
アンが指差した店を見ると、看板に『星の雫』と書いてある。
テラスがあり、周りのおしゃれな雰囲気にうまく溶け込んでいる。
ガラス越しに、青や金の宝石が小さな星のようにきらめいていた。店内の灯りを受けて、壁も床も淡く光って見える。
総ガラスのドアを開けると、
「いらっしゃいませ━━あら、今日は面白い風が吹いてきたわね」という声がした。
カウンターの後ろから、女性が出てくる。
50代ぐらいだろうか。ツイードのセットアップのような黒い服装に、金の装飾品をじゃらじゃらと大量につけていてとても派手だ。香水の香りもする。
店内は静かで、外の喧騒が嘘のようだった。香水と磨かれた木の香りが混ざり合っていた。
「お久しぶり。そちらの子ははじめましてね。
随分と滑らかな素晴らしい服を着ているわね。魔法の生地かしら?あなた、異世界人?」
普通にキャンプ用の動きやすい服だけど、相当珍しいのかな?
「はい、そうです。故郷の服なんです」
マダムはやっぱりと頷く。
「今日は色々持ってきました。よろしくお願いします」
「すごいものがあるんだよ!」
アンがヒヒヒ……と笑う。
「女のものはよくわからないが、これは珍しいと思うぞ」ジークも笑って言う。
「あらあら、早速見せてちょうだい!」
マダムの目が楽しそうに細められる。
「これなんですけど……」
背負っていたリュックから、サージカルステンレスのピアス、ムーンストーンのペンダント、和装の髪飾り、鏡を出していく。
「まあ、これは……とても珍しいものばかりね!よく見ていかないとね!」
「私はこのピアスがおすすめだと思うよ。かわいいし」アンの言葉にマダムは頷く。
「ええ、そうね。このピアス、リボンの形をしてるなんて画期的なデザインだわ!鎖の下で揺れている玉も美しい。
それなのに滑らかで……傷一つないわね……硬すぎて細工した跡も見えない。それに、魔力を流しても一切変質しないわ……
……ちょっと待って、これ本当に人間が作ったの? 下手をしたら貴族同士で争いになるわよ!」
「へえ、そうなんだ。すごいね!魔力を流してみたりはしなかったな」
私もアンと同じだ。ということは、高く売れるかな?
「こちらのリングが組み合わさったピアスもそうね……この不変の銀、どんな魔術士が錬成したのかしら……
王宮の彫金師が見たら腰を抜かすわよ」
「そんなにすごいものですか……」
不変の銀とか言われている。かっこいい。高見えピアスは好印象のようだ。
マダムはペンダントを手に取った。
「ペンダントの細工も素晴らしいけど、この石は見たこともないわね……月の光のように幻想的で美しいわ……胸元で優しく輝きそうね」
「恋愛成就のお守りとしても人気なのですよ」と私が言うと、
「それは素敵ね!こちらも貴族の女性に売れそうだわ」と言って嬉しそうに笑った。
次は髪飾りを手に取った。
「私はこちらをおすすめしたいです」
マリアがそう言った。髪飾りをかなり褒めていたもんね。
マダムは頷きながらつまみ細工を見て、
「そうね。この髪飾りも素晴らしいわ……華やかながらも品がある。
これを全部手作業で布を折ってるとは、なんて気が遠くなるような仕事なのかしら……貴族が放っておかないわ!」
こちらも高く売れそうかな?
最後は鏡だ。
「細工も美しいけど、これは鏡というレベルじゃないわ……鏡の中に別世界がある……!私のまつ毛一本一本まで見えるじゃない……!毛穴まで……!
これ、王妃様がお使いになったら手放さないわよ!」と驚愕している。
髪をきちんと分けた男性鑑定士の人も加わる。
小さな虫眼鏡のような魔導具を目に嵌めて、眉間に皺を寄せ何度も角度を変え、小さな虫眼鏡のようなものを目に嵌めて、石を覗き込んでいる。
何をしているのか聞いたら、魔導具で魔力を流しながら、石の内部構造を確かめているらしい。
「普通、この世界の金属は魔力を通すと熱を持ったり、色が馴染んだりするのに……」という独り言が聞こえる。
彼は一通り見終わった。
「私はこのピアスが素晴らしいと思いますね……魔力を通さないし、対呪用装備として使えると思います」
ひえ〜……対呪用とか!
「えっそうなの?いいな〜かわいいし私もほしい!」アンが身を乗り出して見ている。
「まだ持っているからあげようか?」
「いいの?本当にいいの!?魔力を通さない金属なんて、一流の魔導師が喉から手が出るほど欲しがる防具なんだよ!
普通に買ったらすごい高いよ!」
「ふーん、そうなんだ」
すごいことになったなあ。
普段使い用ならまだ持っているので、アンにあげることにした。
……私にとってはたった500円のものだけど、この世界では違う。
この価値観の違いに、いつか足元を掬われるのだろうか。
鑑定している間、店の中を見て回る。
勝手に動く羽根ペンとか面白いものがあった。羊皮紙に何やら書き込まれている。在庫チェックかな?
しばらく後に、マダムから声がかかった。
どうなっているだろう?胸がドキドキして、手のひらが汗ばんだ。
「終わったわよ。鑑定金額なんだけどこうなったわ」
マダムが袋を机の上に置いた瞬間、鈍い金属音がした。
その音だけで、ただ事ではないとわかった。
見ると金貨がいくつも並ぶ。
「わぁ~すごいじゃん、ミュウ!」
「これはすごいな……」
「ミュウ、良かったですね」
ええー……そんなにするの?!……気が遠くなってきた。
「……そんなに高いんですか?……あの、これ大丈夫ですか?壊れてませんでしたか……?」
心配になってそう言うと、
「謙遜しすぎよ!」と突っ込まれた。
差し出された金貨が入った袋を受け取るとずっしりと重い。
いつもはカードやスマホで払っているから現代のお金とは違って、一枚一枚が価値の塊なんだと肌で感じられた。
袋を持つ腕が少し震えた。こんな重さの“価値”を持ったことがなかった。
ジャラリ、と袋の中で金貨が鳴る。スマホの画面上の数字ではなく、掌に伝わる感覚は冷たくて重く、生々しい。私はそれを、落とさないようにぎゅっと抱きしめた。
これ、牛丼が何杯食べられるんだろう?しばらく宿代もご飯も大丈夫!生き延びられる!
……でもこの世界に牛丼は無いんだったな……
「また珍しいものがあったら、是非持ってきて頂戴ね!」
戸口でマダムが手を振って見送ってくれる。
これだけ大金を持ってると不安だ。
……強盗にでも遭ったりしないかな……
早く使ってあとは冒険者ギルドの口座に入れておくのがいいな。
近くにある、装備品の店にも足を運ぶ。
表通りから少し入ったところにある、レンガ造りにツタが絡まったお店だ。ここもジークたちオススメの店らしい。
重いドアを開けると、
「いらっしゃいませ。お久しぶりですね」と恰幅のいい、背の低い年配の男性が迎えてくれる。
「今日はこの子の装備品を買いに来たんだ」
ジークが紹介してくれる。
「これはまた、かわいらしいお嬢さんですね。
はじめまして。どのようなものがご入用ですか?」
動きやすいローブが欲しいと言うと、置いてある場所まで案内してくれた。
「このあたりからこのあたりまでが女性ものです」
「私はね、これなんて合うと思うよ!」
アンが早速1着を差し出した。
それは膝上の軽いミニ丈だった。風の旅人ローブと言うらしい。
裾がふわっと広がるAライン。白×淡いブルーの爽やか配色。フードは小さめで丸い。
「わぁ、かわいい!動きやすそう!」
いきなりいいものが見つかった。
ジークはほんの一瞬、私の脚を見て慌てて視線を上げた。
「……足が出すぎる。魔物に掴まれやすいし危険だ」
「うーん、そう?」
「単にミュウの足が出てるのが嫌なんじゃないの?」
なんかアンがニヤニヤしてるけど……
「……違う」
「じゃあ、ジークはどんなのがいいと思う?」
「そうだな……これなんかが安全だし、……髪の色に合うと思ったんだ」
ジークのおすすめを見てみると、それは星詠みのローブというらしい。
それはくるぶしまでのロング丈、 裾に星の刺繍、深い紺色で大人っぽい。
フードは大きく、影が落ちて神秘的だ。
……ジークはこういうのが好みなんだ……この服を似合うと言ってくれるのが、なんだか胸の奥でくすぐったかった。
でも……
「なんだか、魔術師です!って感じで照れるよ……」
「ミュウなら着こなせるだろう」
……そんな真顔で言われたら、胸の奥がふわりと熱くなる……
「では間を取って、これはどうでしょう?」
マリアが差し出したのを見てみたら、蒼の調律ローブというものらしかった。
それは膝下丈で、前は短め、後ろは長めのアシンメトリー。淡い青でフードは中くらいのサイズだ。
「……そうだな、それなら安心だ」
「綺麗な色だしいいんじゃない?」
「似合うと思いますよ」
みんなに好印象のようだ。ジークも納得できたみたい。
「そうですね、お嬢さんにはこちらが似合います。
動きやすくて、上品で……恋人の方も安心でしょう」
一瞬、空気が止まった気がした。
「ええっ……違います……!」
……お店の人がすごいことを言い出した。推しに対してなんてことを!恐れ多い……そんなことを思ってしまったら今後の関係が崩れるかも……
ジークはわずかに肩を揺らし、何かを言いかけてやめた。
「おや、てっきりそうだと思ったのですが」
顔が熱い。ジークはどう思っているのだろう?
こっそり見ると、髪の間からチラッと見えた耳が、夕焼けでもないのに赤かった。
「と、とりあえず、試着させてもらいますね!」
私は逃げるように鏡の前まで移動した。
……まだドキドキする。
ローブを羽織ってみた。
鏡に映る自分が、少しだけ知らない誰かみたいに見えた。
……向こうの世界では、大学生活を楽しんでいたのにな……
「ところで防御力はどうでしょう?」
「防御力、魔法耐性共に一級品です。魔力の乱れを遮断して、精神を落ち着かせる魔法糸が織り込まれております。よくお似合いですよ」
私の問に対するお店の人の言葉に続いて、皆も褒めてくれる。
「かわ……似合っている」
「うんうん、かわいい〜」
「かわいらしくてとてもお似合いですよ」
これで私もこの世界の人っぽく見えるかな。
こんな格好したことないけど、この世界だと楽しそう!
あとは、杖もオススメを聞いてみた。
大きな魔石がついてる杖を出してくれた。私の規格外の魔力を受け止めてくれる一級品。増幅、安定させてくれる。
魔石の内部で淡い光が脈打ち、私の魔力に呼応しているようだった。
掌から体温を吸い取って魔力に変換するような、ひんやりした感覚。
それに、いざという時は身を守る武器にもなる。……できれば、そんな場面は来てほしくないけれど。
「そういえば、アンって杖を使ってないね?」
「人それぞれなんだよ。集中できるものがあればいい人は使えばいいし。
杖じゃなくてサークレットにしてる人もいるよ。私は邪魔だから使わないかな。身軽さこそが、詠唱速度を上げる秘訣なんだよ」
「へぇ〜そうなんだ。なんだかすごいね」
魔術師も色々なのかな。
そこでお金を払い、着替えさせてもらった。
「ありがとうございました。またお越しください」
お店の人は戸口まで見送ってくれた。
「これからどうするの?」私の問いに、
「皆と食事をしたら、私は実家に帰らせていただきます」
マリアは腰の不安があるからしばらく療養だ。
「まずは宿代を返させてね。
ねえ、それから私にご馳走させてよ。皆のおかげでここまで来れたんだし」
そう言うと、
「やったー!お肉がいい!」
アンは大喜びだけど、
「お世話になってるのはこちらのほうですよ」
「機械の魔物も倒せたしな」
マリアとジークは遠慮している。
「皆がいなかったら山の中でどうなっていたかわからないし。お礼のつもりだよ」
そう言ってちょっと強引に、東の地区にあるグルメ街に移動することにした。
新品のブーツが石畳を叩くコツコツという音が心地よい。
ローブの裾が風に揺れるたびに、自分がこの世界の一部になったと感じた。
ふと横を見ると、ジークが何か言いたげにこちらを向いてすぐに前を向いた。
……どうしたんだろう?なんか聞けなかった。……もしかして、さっきの勘違いのこと、気にしてるのかな?
読んで下さり、ありがとうございます。
新しいローブを身にまとい、ようやく異世界の一員らしくなった美優。
ジークとの「恋人(?)疑惑」にドキドキしながらも、一行は美味しいご飯を求めて東エリアへ向かいます。
ですがその途中、賑やかな広場を通りかかったとき━━
美優がふと口ずさんだ「あるメロディ」が、その場の空気を一変させることになります。
それを聞いたジークの心の中に、一体どんな変化が起きたのか。
次回、第22話も同時に更新しています。
ナニヴァルの街に、初めて『異世界の歌声』が響き渡ります。
その静かな、けれど決定的な始まりの瞬間を、ぜひ見届けて下さい。




