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【驚愕】魔力測定器が振り切れた!? 筋肉量「小動物以下」の冒険者誕生

 まずは宿を取っておこうと、そちらに向かって歩く。


 私たちが今いるのは北のエリアだ。入り口付近はあんな風だったけれど、学術、魔術の落ち着いたところらしい。

 大通りの喧騒から少し離れると、緑が多く、急に落ち着いた雰囲気になった。

 学生らしき人たちが魔導書を抱えて歩いている。

 表通りが嘘みたいに、風の音と学生の足音だけが響いていた。

 時折、遠くから魔法の詠唱のような声も聞こえてくる。

 並木道の緑も目に優しくて、なんだかさっきまでの「タコ看板」が遠い夢のようだ。



 この北エリアを抜けて南の方にある、大噴水の広場を中心にギルドや宿、商店が並ぶところを目指す。街の中心地だ。


「西の方には絶対に行っちゃダメだよ!」

 歩きながら、アンが言う。


 旧市街、廃墟のエリアで、かつては栄えていたものの、隣接する小国が滅びてから急速に寂れていったらしい。


「捨てられた魔道具の残骸や暴走した魔導汚染も残る危険な場所だ。近づいてはならない」

「今では犯罪ギルド、違法な物品を扱う地下市場などで無法地帯となっているようです。私の生まれた国を悪く言いたくはないのですが……」

 ジークとマリアも言う。相当危険な場所なんだな……

 そちらの方を見ると、黒い煙がゆっくりと空を這うように昇っていった。



 アンとジークは宿を取るものの、マリアは実家に戻るらしい。

 最初に、機械の魔物に襲われた時にぎっくり腰になったようだ。ヒールの魔法で誤魔化していたけれど、10日間ほど安静にするとのこと。


「私の、ヒールのレベルがもっと高ければ完治したのですけれど……」


 それを機会に、皆しばらく冒険はお休みをするらしい。私もその間にバリバリ魔法を覚えるつもりだ。


「今夜はゆっくり休んでね。ねえマリア、それなら車で送って行こうか?」 

「目立つどころの話じゃないだろうが!!」

 ジークに全力で止められた。

 

 

 なんと、マリアは貴族階級らしい。

佇まいや口調でいいところのお嬢さんかなとは思っていたけれど。

 と、いうことは実家って豪邸では?


「え、マリア……実家って、もしかして門番が立ってるようなお屋敷だったりする?」

「うちはたいしたことないのですよ」

 いやいや、その謙遜が余計に「本物」っぽいんですが!?

 本物の貴族なんて見たことないからすごい。思わず背筋を伸ばしてしまう。

 皆との出会いや冒険の始まりも気になる。追々、聞いていけたらいいな。



 喋っているうちに、宿屋についた。

 大通りから1本入ったところにある、落ち着いた建物だ。

『まどろみ亭』と書いてある。

 

 ギイィ。


 真っ先にドアを開けて入っていったアンに続く。

 一階は食堂で木製のテーブルや椅子がいくつも並んでいる。古いけれど、掃除が行き届いていて、居心地が良さそうだ。

 中央には今は火が入ってないけれど、石造りの暖炉がある。

 吊り下げられたランタンがかわいらしくて素敵だ。

 そして香ばしいシチューと焼きたてのパンの香り。

 お客さん達は静かに談笑している。



「おや、おかえり!今回はどうだった?」

 四十代くらいの、髪をお団子にした感じのいい女の人が話しかけてくる。どうやら女将さんのようだ。


「ただいま〜もう大変だったよ!後で聞いて!こっちは新しいお客さんだよ」

 アンが紹介してくれる。


「しばらくお世話になります。よろしくお願いします」

「まあまあ、いらっしゃい!きちんとしてるわね。私はエルマと言うの。よろしくね。ゆっくりしていきなさいね。疲れた顔してるわよ?ちゃんと食べてる?細いわねえ。

それにしても見慣れない服装ねぇ。どこか遠くの流行りかしら?」

 私の異世界衣装を好意的に見てくれてるようだ。


「今回も隣同士の部屋でいい?」

「ああ、それで頼む」

 ジークが返事をし、鍵を受け取った。


 二階へ上がる。隣同士なら安心だ。


 ガチャリ。

 ドアを開けた。


「おお〜こんなところなんだ!」


 入って左手に小さな木製の机とイス。クッションは座り心地が良さそうだ。

 正面奥にはベッド。清潔そうなリネン。気持ちよさそうだ。

 その上に小さな窓。かわいいレースのカーテンがかけられている。柔らかな光が入ってくる。思わずベッドに飛び込みたくなるような安心感があった。

 こじんまりとしていて、外の喧騒を忘れられる空間。


 とても素敵だ。

ようやく、ひと息つける場所に辿り着いた気がした。

 ここが、しばらくの拠点になるんだと思うと、少しだけ安心した。



 アンとジークが、かさばる荷物を置いて出てきた。

 マリアは実家に戻るため、そのまま持っている。私は車に積んであるので問題無い。


 次は冒険者ギルドに行く予定だけど、宿代はジークが立て替えてくれているから気が焦る。


 早くおばさん達のピアス類を換金しないと借金生活になっちゃう。

 せっかくジークといい雰囲気になったのに、最初にお願いするのが「お金の相談」じゃ悲しすぎる!



 宿を出てしばらく歩き、冒険者ギルドに着いた。

 石造りの重厚な建物だった。

元の世界で見た、古い銀行を改装したカフェ━━あの、少し緊張するような空気を思い出す。

 ドキドキしながら入り口を見ると、老若男女、色んな人達が出入りしていた。


 ジーク達に続いて建物内に入る。

 汗と革と金属の匂いに、酒の匂いが混ざる。

 笑い声も怒鳴り声もどこか荒くて、ここが“命を張る場所”なんだと肌でわかる。独特の熱気が漂っていた。


入ってすぐのところは吹き抜けになっており、テーブルとイスが沢山置いてある。


 左右の壁一面には羊皮紙らしきものが貼られている。依頼書のようで難易度や報酬別に並んでいた。ちょっと気になるけどそれは後回しにする。

 笑い声と怒鳴り合い、武器の手入れをする音などで結構うるさい。異種族の人もいるようだ。


 奥を見てみると、カウンターになっている。

 私ならここで冒険者登録をする。他、仕事を割り振ったり、クエストの仲介をしたりするらしい。

 受付は若い美人さんが多いけど、中にすごくベテランぽい年配の人もいる。


 

 どの人のところに並ぼうかと思っていたら、



 バターン!!



 後ろのドアが勢いよく開いた。


「オーッホッホッホ!始まりの地は今日も盛況なようね!」


 高笑いと共に、大きな声が響く。

 見ると美人だけど、服装も化粧も派手な女の人がいた。  


 私と同じ『紫の目』をしている。魔力が高いのだろう。

 着ているワンピースらしきものや上着に、びっしりとキラキラ光る宝石が着いている。

 宝石の反射光が眩しくて、思わず目を細めた。


 周囲の冒険者たちが「また来たな」とでも言いたげに肩をすくめる。


 彼女は綺麗に手入れされた髪をかきあげ、更に大きな声を上げる。


「私はこの目と美貌、そして溢れる才能で結婚するの!明日から子爵夫人よ!」

 それはすごいけど、結婚式の準備で忙しくはないのだろうか。


「よっ!姉ちゃんやったな!これからも頑張れよ!」

 大きなハンマーを担いだおじさんの声に、

「ありがとうー!!」

 女の人は手を振っている。


 パチパチパチ……

 拍手をしてる人もいる。


「詳しくは自伝を出すからそれを読んでいただけるかしら!」

 宣伝に来たのかな?

 ついまじまじと見ていたら、バチッと目が合ってしまった。



 (やばっ!)



 慌てて目をそらし、目立たない方に移動しようとすると回り込まれてしまった。

「あなたもいい線いってるから、頑張ることね!

それではごきげんよう!オーッホッホッホ!」


 自慢と本の宣伝をしただけで帰ってしまった。他に用はなかったのだろうか。



 色んな人がいるなあとぼんやりしていると、背中が誰かにぶつかってしまった。

 トラブルのもとだと、慌てて振り返り謝る。


「すみません、私、ボーッとしていて……」


 見ると15才くらいの魔道士風のローブを着た女の子が、ボロボロ泣いていた。

 涙で頬が濡れていて、ローブの袖をぎゅっと握りしめていた。



 そんなに強くぶつかったかな?!



 怪我はないか聞こうとすると、

「私、こんなに『紫の目』を見たのは初めてで…田舎ではいつもからかわれてて……友達もいなくて……」

と話し始めた。

 地方では中々大変なようだ。


 リュックに入れてた、使ってないタオルハンカチを出し、そのままあげることにする。


「これ、あげるしどうぞ使って。安いから気にしないでね」

「こ、こんな綺麗なハンカチ……初めて見ました……都会ってすごい……ありがとうございます……」


 お互い頑張りましょう、と言い、その子は受付への右側の方へフラフラ歩いていった。


(私も、少し違えばああなってたのかもしれない)



 危険な感じではないからとジーク達は黙って見ていたらしい。


「選ばれし者の特権」として使いこなしている女性と「異質さ」ゆえに苦労してきた少女。

 この目は、使い方次第で希望にも絶望にもなるんだな……


 ちょっと珍しいぐらいだと思ってたけど、世界中では『紫の目』ってどうなんだろう。私はこの目で何を見るのかな。


 


 受付へ向かった。

 ジークたちは依頼の達成のことで別々だ。

 私はベテランぽい女性が立っているところに並ぶ。60代くらいだろうか。


「はいはい、新規登録ね!」

 派手な虎の刺繍がされたローブを着ている。

「あんた、魔力量相当高そうね!何食べたらそうなんの?測定機高いんだから壊さんように加減してちょうだいね。用意してくる間にこれ書いといて。

それとこれ飴ちゃん。あんた細っこいんだから食べときなさい!」


 と、彼女は一気に喋った。……私は圧倒されてしまった。

 その人は魔力の測定機を取りに行ったようだ。


 飴を舐めながら、名前、年齢、特技職業、住所など書類を埋めていく。

 特技はちょっと見栄をはって魔法にしてみた。職業は学生で、住所は宿屋にしておく。

 こちらのインクをつけて書くペンは初めてだから上手く書けない。


 

「書けた?ん?こことここが抜けてるから書いて!それとこれ測定機ね。普通のだったら無理そうだからこの高出力用ね。

書けたら手をかざして魔力を流して!あんたは本当にそっとね!」


 

 書けたので渡して、運ばれてきた測定機をまじまじと見る。


 真鍮製らしきどっしりした台座にガラスのような大きなドーム型のものが乗っている。中には方位磁針みたいな針が無数に浮いている。

 横にある、金属製っぽい手形のところに手を置くようだ。


 壊したら弁償、という言葉が頭をグルグルと回る。



 そっと手を置いた。

 ドームが青くピカッと光る。

 瞬間、上から二番目の針が、悲鳴を上げるように回転し始める。

 キィン、と甲高い音が響いた。

 針が震えるたびに、ドームの内側に青い光の筋が走った。

 後は重そうな動きでほんの少ししか動かない。


 

 ……これでいいのかなあ?



「やっぱり魔力は振り切れてるわね!後はさっぱりだけど。

筋力とか持久力は小動物以下ね」

「ええっ……」

 近くにいた冒険者が思わず吹き出した。


「買い物とか行けてる?重い物持てないんじゃないの?これからは体を動かすようにしときなさい。

あらあら、特記事項に『異世界の加護』と書いてあるわ。すごいわね!もうちょっと待ってて、今、魔術で転写してるから」



(『異世界の加護』……ってなんだろう?女神様の力のこと……?)



 しばらく後に、冒険者カードがガチャンと音を立てて出てきた。

 もちろんプラスチック製ではない。不思議な質感の板に私のステータスが刻まれている。


 これが私のカード……という感動と共に、魔力以外はゴミじゃないかと思って落ち込んでくる。

 ……筋トレ、頑張ろう……うん、明日から。




「はい、一番下のランクからスタートね!依頼をこなすことによって上がって行くから。詳しくは右手の張り紙を読んどいて。

それじゃ小銀貨3枚かそれに見合う物品ね」



 えっ!お金いるんだ?!聞いてなかった!しかも結構する……



 困った時のピアスだのみ。私はまた新しくつけていたサージカルステンレスのピアスを外して渡す。

 500円くらいのだけど、ここでも何とかならないかな?



「これでは、だめでしょうか?」

「あら!見たことない金属ね!丈夫そうでそれにこのデザイン!画期的だわ!充分よ!

錆びにくそうで魔力による変質に強いみたいね。素晴らしいわ!」

 あれで良かったようだ。助かった。



「はい、これで終了ね!お疲れ様!あんた初心者なんだし、オススメの店教えておくわ」


 冒険者ギルドのオススメなら安心だ。教えてくれたところをメモする。

 ここでもメモ帳を大変珍しがられたので、お礼に数枚あげた。


「ちょっと見て見て!こんなのもらっちゃったわよ!!」

 大変喜んでくれて、周りの同僚に見せびらかしているようだ。



 終わった〜!

 列を抜けて後ろを見ると、ジークたちも終わったようで、椅子に座っていた。


「無事、終わったよ」

 冒険者カードを見せる。


「私の時より綺麗になってますね……でも、『異世界の加護』とは…… そんな項目、伝説の英雄以外で見たことがないです」

「なんだろうね、それ。ミュウってとんでもない人なんじゃない?

魔力がやっぱりすごいね!……あとはひどいね……」

「俺も『異世界の加護』は気になるな。少し調べてみるか。

しかし、ミュウは体を動かした方がいいな」


 ……ここでも言われてしまった。魔法と並行して頑張らないとな……

読んで下さり、ありがとうございます。

ついに冒険者ギルドに登録した美優。

魔力測定器を壊しかけるほどのポテンシャルを見せたものの、筋肉量は「小動物以下」という衝撃の事実が発覚しました(笑)

ナニヴァルのギルドは、高笑いするお姉さんから飴ちゃんをくれるオカン受付嬢まで、とにかくキャラが濃い!

次回、いよいよ「おばさんの忘れ物」を本気で換金しに向かいます。

果たして、現代のアクセサリーはナニヴァルの鑑定士をどう驚かせるのか?


次回は来週、4/26(日)の19時頃に更新予定です。

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