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「一撃で仕留めろ」━━私の中に眠る、冷徹な助言者

 具合が良くない時に炭酸を飲んだら気分が良くなったと、ネットで読んだのを思い出す。

 どうかなと思いながら、グレープ味の炭酸を出してきてマリアに渡した。


「これはまた、昨日とは違った爽やかさがあっておいしいですね……」


 鼻に抜ける感覚に今日も驚いたようだったけど、どうやら気に入ってくれたみたいだ。

 少しずつ気分も良くなってきているようで、マリアの回復を待って慎重に進むことにした。



 少し歩けば、泉のほとりに荷物らしきものと野営の準備跡が見えてきた。

 鉄製の小鍋に革の袋。枯れ葉と薪が集められている。


 ジークが辺りを警戒しながら、荷物に近づく。荷袋を開けて中を確認した。

「……そのままみたいだな。砥石も無事で良かった……」

 

 アンも続いて、荷袋に手をかけた。

「そうそう、これ!あって良かった〜!」


 パラパラめくっている。少しヨレヨレの本だ。表紙を見たら魔術のものらしい。

 聞けば、ど忘れした時用の基本的なものと、趣味のものとのこと。

 マリアも森で集めた薬草や調合済みの薬が入った荷物が無事で、ホッとしたみたいだ。



 ……魔物の気配とかはわからないけれど、周辺には鳥の鳴き声以外はしない。とりあえずは大丈夫だろうか。


 周囲の警戒を怠らずに、全員で荷物を片付けて車に積んでいく。



「ふぅ、なんとか全部積み終わったね」

「ちょっとごちゃごちゃしているけどね」

 後で整理は必要なものの、片付けられて良かった。

 ホッとした時、後ろでガサガサッという音がした。

 全員でその音がした方向を見ると、


「あっウサギだ」

 かわいい茶色のウサギがつぶらな瞳でこちらを見ていた。

「わ、これは魔物?」

「ううん、ただの動物だよ」

 どうやら魔物でなく、動物として普通にいるウサギらしい。


「びっくりしたねー」


 皆で笑いあった時、バサバサと一斉に鳥が羽ばたく音がした。



 何故か森の音が止んだ気がした。風まで吹いていないような。



 森の静寂を破るのは、生き物の鳴き声ではなく、高周波のようなもの。


 「なんか、耳の奥がキーンとする……」

 そう呟いた瞬間、木の陰からそれは姿を現した。

 不自然な影が、地面に落ちている。


 見上げると━━浮いていた。


 重量を無視して浮遊する物体。


 

━━これは……


 

 例の魔物か。やはりテトラポットに似ている。

 中央には濁ったレンズ、奥で赤く光る物体。

 確かに鉄のような色をしているものの、なんとなくそうではないと感じた。

 それが、シュイーン……という低い駆動音を響かせ、ゆっくりと回転しながら近づいてくる。



 ジークの声が響く。

「皆、行くぞ!アン、マリア、援護を!」

「うん!」

「わかりました!」



「時の流れよ、緩やかに揺らぎ、敵の歩みを鈍らせよ」

 


 「スロウ」



「天上に轟く雷霆よ、我が呼び声に応え、力を束ねて矢となれ!」



 「ライトニングアロー!」



 キィン!高い音がした。空気が乾く。

 マリアの遅延とアンの雷の矢は、外殻に弾かれて無効化している。


「奮い立つ鼓動の調べよ、勇気と共にその刃を研ぎ澄ませ」



 「アタックブースト」



 マリアの声が響いた。

 足元から光の柱が立ち昇り、ジークの体を包む。体が渦に飲まれ、攻撃力が高まる。 


 ジークが魔物へ接近し、棍棒のように剣を振り下ろす。服の裾がバサッと音を経てた。

 ギャーン!という音が鳴り響き、剣が弾かれる。手応えが、ない。

 何か弱点がわかれば……


「マリア!弱点とかわからない?」

「やってみます!」



「真理の光よ、対象の構造を映し出せ」


 「アナライズ」



 マリアの解析魔術だ。呪文から少し遅れて効果があった。

「……魔力が通りません……!赤いものが弱点です!雷は吸収されます!」


 

 ……何故か、以前にも同じことがあった気がした。ごくわずかな間、意識が遠のく。

 視界の端が、わずかに歪んだ。


「ミュウ、どうする気だ?」

「外殻は囮。魔力装甲が厚すぎる。核だけが本体。そこを狙って」


 普段よりも低い声が出た。自分でも無意識に、喉の奥から言葉が滑り落ちていた。

 ジークが一瞬、驚く。


「お前、目の色が……

……わかった!全員、ミュウの指示に従え!」ジークが叫んだ。


 さっきのはなんだったんだろう?

「マリア、ジークに守りの呪文を!ジーク、突っ込んで隙を作って!」

「わかりました!」

「わかった!」


「清らかなる光の滴よ、嘆きを退ける盾となれ」



 「プロテクション」



 マリアの声が響き、光の粒子がジークの全身を包む。景色が少し歪んで見えた。マリアのスカートの裾がヒラリと翻る。

 物理防御力上昇だ。


「ハァッ!!」

 ジークは回転する魔物の側面にガキィン!と剣を叩きつけた。


「ジーク、そのまま接地点を攻撃!アン、赤い核に向かって酸の矢を!」

「わかった!」

「うん!」


「這い寄る緑の液よ、鋭き滴となりて仇なす敵を蝕め!」



 「アシッドアロー!」



 緑色の煙が尾を引き、矢が高速で飛ぶ。アンの強力な酸の矢が魔物に命中し、ジュウゥゥという不快な音を立てて白煙を上げながら溶けていく。

 ピピッと音がした。核が点滅している。効いたらしい。


「まだまだ!ここからだよ!」


 機械がアンの方を向き、ビームのようなものを放つ。ジュッという音がし、当たった木が焼き焦げる。アンは安々と避けた。

 

(当たったらヤバい……)


 けれど、ギュルル、ガガッという音を頼りに動きを見ていれば、避けられる。


 機械はシュイーン……という音を経てながら、少しずつこちらへ近づいてくる。


「アン、時間停止を!奴の回転を止めて!」

「うん!」


「巡る因果を鎖で縛れ、万象は凪の中に眠れ!」



 「タイムストップ!」



 アンの声が響いた。完全停止ではないけれど、魔物の動きがギクシャクと止まる。


「マリア、ジークに攻撃力上昇を!ジーク、赤い核を射抜いて!」

「わかりました!」

「わかった!」 



 「アタックブースト」



 マリアの声が響いた。

 ジークの攻撃力が高まる。 


「これで、どうだっ……!」

 ビームを避けつつ、回転の鈍くなった魔物の核に、ジークの渾身の一撃が突き刺さった。

 

「次は、私が行く!」


 ここで決める!ありったけの炎の矢を!!



「無駄を削げ」

「一撃で仕留めろ」誰かの声が頭の中で響いた気がした。

(これは……誰の言葉……?)



 私は息を吸い込み、詠唱をした。


「来たれ赤き炎よ、我が指先に集いて鋭き矢となれ!」


 一瞬、空気が張り詰める。


 「フレイムアロー!」



 私の上着がパチッと鳴った。熱で空気が弾ける。

 高温で青くなった矢が何本も飛んでいき、脆くなった核に突き刺さる。

 肌を焦がす様な熱風が押し寄せた。



 熱風が吹き抜けた瞬間、どこか懐かしいと思った。



 焦げた金属と甘い嫌な匂いが鼻をつく。

 浮遊音が弱まり、消えた。パキン、と乾いた音がして、赤い核がひび割れ━━砕けた。



 全員で動かなくなるのを見守る。

煙の向こうで、わずかに微動する影が残っているように見えた。何かが“引きつるように”動いた気がした。

(油断は禁物……)

 しばらく警戒を解けない静寂が、森を包み込む。

 


「すごい……本当に動かないね!」

 アンは跳ねるように喜んだ。マリアがほっと息をつく。


「やった……良かったああ……」 


 その場にしゃがみこんでしまう。

 皆が駆け寄ってくる。


「やったな!」

「倒せたー!ミュウ、やるじゃん!」

「お怪我はありませんか?」

「全然問題無し!ただ腰が抜けただけ」


 ジークとアンが残骸をみて驚いている。


「あの鉄の塊がドロドロに溶けている。信じられない温度だ……」

「こんな高温だなんて……」



 さっきより、ほんの少しだけ前に立てた気がする。ちょっとは成長してるかな?



 祠はすぐそこだけど、すぐに帰れるために車で移動することにした。

 車が近くにある方が安心だ。


 全員で乗り込む。

 バンッというドアを閉める音に心底ホッとして、エンジンをかけた。

読んで下さり、ありがとうございます。

現代服(&ネコミミ帽子のアン)のまま、なんとか初戦闘を切り抜けました。

普段はふんわりしている美優の、一瞬見せた「別の顔」……ジークたちが驚いた理由や、あの青い炎の正体は、今後の物語で少しずつ明かされていく予定です。


次回は来週、4/5(日)の19時頃に更新予定です。よろしくお願いします。

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