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 第二十六章 カーテンコール


 あの気品のある佇まいは。


 間違いない。


 みーちゃんの。


 王子様。


 もしかして。


 お見舞いに……


 いやいや。


 そんなはずはない。


 病院へ行っていたことなんて。


 知るはずもないし。


 ムンムンに。


 みーちゃんが怪我を。


 負わされたことも。


 知らないだろう。


 だけど……


 このタイミングで。


 訪ねてくるなんて。


 なかなか。


 持ってる。


 うん。


 私がみーちゃんなら。


 惚れてまうやろー!


 これで。


 口に。


 お花でも。


 くわえていれば。


 完璧だった。


 だけど。


 ここは冷静に。


 みーちゃんが外に出ないよう。


 気を付けながら。


 外に出た。


 そして。


 キョトンとしている。


 王子様に。


 話しかけた。


「みーちゃんを誘いに来てくれたの?」


「ニャー」


 相変わらず。


 美しい声。


「みーちゃんね、ムンムンにやられて、怪我してるの」


「ニャー」


「ごめんね。だから、遊びに行けないの」

 

 そのとき。


 外に出ようと。


 サッシ戸を。


 みーちゃんが。


 がりがりと。


 引っ掻き始めた。


 それを見て。


 王子様が。


「ニャー」


 と。


 鳴いた。


 まるで。


「迎えにきたよ!」


 と。


 言わんばかりに。


 え?


 ちょっと待って。


 この状況。


 まるで私が。


 二人の仲を裂こうとしている。


 悪い魔女。


 みたいじゃん。


 王子様が。


 私をじっと。


 見つめて来た。


 その瞳には。


「みーこを解放してあげて」


 そう言ってるように。


 感じた。


「いや、だからね。みーちゃんはね」


「ニャー、ニャー」


「や、やめてよ。私を悪者にするのは」


「ニャー!」


「だから、悪いのはムンムンだって」


「ミャー、ミャー!」


「ニャー!」


 完全に。


 みーちゃんと王子様が。


 サッシ戸越しに。


 会話をしている。


「私はここにいる。たすけて!」


「みーこ! 今行くぞ!」


 てな感じに。


 聞こえた。


「はぁー……」


 深いため息を。


 ついた。


「はい。私が悪者でもいいです」


 けど。


 みーちゃんは。


 最低1週間は。


 外に出しません。


「悪いけど、もう帰ってね」


 そう言って。


 家に戻った。


 みーちゃんは。


 変わらず。


 王子様に会いたいと。


 サッシ戸を。


 引っ掻き続けていた。


 外からは。


「ニャー」


 と。


 王子様が。


 まだ鳴いていた。


 しばらくの間。 


 続いていた。


 それはまるで。


 ロミオとジュリエット。


 悪者役の私は。


 二匹の台詞を。


 聞きたくなくて。


 背を向け。


 ヘッドフォンをして。


 音楽を聴き始めた。


 4曲目に。


 入ったとき。


 足に何かが。


 触れた。


 それは。


 みーちゃんだった。


 どうやら。


 諦めてくれたらしい。


 優しく撫でた。


「こんな時だもんね。よけい会いたかったよね」


 本当に、ごめんね。


 立ちあがって。


 外を覗いた。


 するとそこには。

 

 王子様が。


 香箱座りをしていた。


 まるで。


「みーこに会わせてくれるまで。僕は帰らない!」


 そんな決意が。


 見て取れた。


 だけど……


 だけどさ……


 普通。


 猫が座ると。


 丸く見えるよね。


「王子様。あなたはどうして、そんなに四角なの?」


 ロミオとジュリエットをパロったような。


 台詞が。

 

 思わず出てしまった。


 そう。


 王子様の香箱座りは。


 信じられないくらい。


 四角かった。


 まるで。


 一斤の食パン。


 たぶん。


 長い毛のせいだろう。


 うまく。


 丸まらない。


「……ぷっ、ぷぷぷっ」


 あまりの四角さに。


 思わず。


 吹き出してしまった。


 そのとき。


 みーちゃんが近付いてきた。


 私は。


 咄嗟に。


 カーテンを閉めた。


 あの四角い姿を。


 見てしまうと。


 せっかくの恋が。


 冷めてしまう。


 かもしれない。


 それほど。


 不格好な。


 座り方だった。


「みーちゃん」


「ミャー」


「いいこと。誰にでも欠点はあるものよ」


「ミャー?」


「そういうことよ。わかるわね」


「ミャー」


「ご飯にしましょうね」


 そのとき。


 突然。


 けたたましい声が。


 聞こえてきた。


 みーちゃんと。


 顔を見合わせて。


 カーテンを開けた。


 すると……


 王子様と。

 

 ムンムンが。


 激しく。


 転がり合っていた。


 ムンムンは。


 王子様の。


 1.5倍は大きい。


 どうみても。


 王子様が。


 不利だ。


「ど、どうしよう!?」


 みーちゃんは。


 王子様を。


 助けに行くと。


 サッシ戸を。


 開けようと。


 必死だった。


 だけど。


 みーちゃんの加勢は。


 必要なかった。


 王子様は。


 自分より大きな。


 ムンムンを。


 撃退した。


「うそっ! かっ、かっこいい……」


「ミャー!」


 みーちゃんに。


 怪我をさせた。


 ムンムンを。


 追い返した。


 王子様は。


 長く美しい毛を。


 なびかせていた。


 その佇まいは。


 まぎれもなく。


 本物の。


 王子様。


「最低1週間は、外に出さないで」


 先生の声が。


 頭の中で流れた。


 けど。


 愛する二匹を。


 ここで。


 会わせないのは。


 あまりにも


 野暮というもの。


 私は。


 思わず。


 サッシ戸を開けてしまった。


 みーちゃんは。


 縁側から。


 エリザベスカラーをつけたまま。


 飛び出した。


 感動の。


 再会。


 映画のようなシーン。


 そう思っていたら。


 みーちゃんは。


 王子様をすり抜けて。


 逃げた。


 ムンムンを。


 追いかけて行った。


「みっ…… みーちゃん?」


 ムンムンが。


 遠くまで逃げたのを。


 確認して。


 みーちゃんは。


 やっと戻ってきた。


 今度こそ。


 感動の再会。


 そう思っていたら。


 王子様の姿が。


 ない。


「あれ? どこいったの?」


 きょろきょろと。


 探していると。


 王子様は。


 玄関戸に。


 おしっこを。


 飛ばして。


 マーキングをしていた。


「……あーーー!! 何するのよー!?」


 私の大声に驚いて。


 王子様は。


 ムンムンよりも速く。


 凄い勢いで。


 逃げて行った。


「ちょっと、やだー。この匂い、ひどいよー」 


「ミャー……」 


「みーちゃん。なにあれ?」

 

「ミャー……」


「もうやだー」


 匂いがとれるまで。


 洗剤を使った掃除に。


 20分かかってしまった。



 次の日の夕方。


「ニャー」


 外からまた。


 鳴き声が聞こえた。


 王子様だ……


 みーちゃんの仇を。


 取ってくれたのは。


 嬉しい。


 けど。


 マーキングはだめです。


 一言。


 そう言いたくて。


 カーテンを。


 開けた。


 すると。


 あの気品ある姿は。


 どこへやら。


 そこには。


 飼い主さんに。


 ペットサロンへ。


 連れていかれ。


 短くカットされた。


 王子様がいた。


「ぷぷうぅー」


 その姿はまるで。


「マーキングしてごめんなさい。反省してます」


 と。


 自ら。


 坊主にしてきたみたいに。


 感じてしまった。


「や、やめてよー。どうしてこのタイミングでカットされたのー。ぷふぅー」


 しばらくの間。


 笑いが止まらなかった。


「あはははははー、嘘だー、嘘みたいー」


 この日は。


「みーちゃん、見て見て! 王子様が坊主、坊主だよ!」


 私とみーちゃんが。


「ミャー……」


 マダニに噛まれてから。


「ご、ごめんなさい。笑いが、と、止まらない。あはははー」


 ちょうど2週間が。


 経った日だった。


 

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