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 第十一章 はじめの一歩


 ……息が、白い。


 ここに引っ越してきて、初めての現象。


 そう。


 ついに冬が始まった。


 みーちゃんは変わらず、一日2回来てくれている。


 カリカリのあと、縁側での日向ぼっこが日課。


 そして、少し変化があった。


 突然起き上がり。


 時折、部屋の方を覗き込む。

 

 どうやら家に興味があるらしい。

 

 けど入らない。

 

 罠だと思ってるのかな。

 

 以前から考えていたことを、思い切って提案してみる。


「みーちゃん。冬の間だけでも、ここに住まない?」


 返事はなく、去っていった。


 告白失敗。


 田舎に引っ越してきて、まさかの失恋。


 いきなり同棲を迫るなんて、さすがに唐突過ぎたかしら。


 もしかして、寝る場所には困ってないのかも。


 餌をあげてる人が、寝床も提供してる。


 だからみーちゃんは、生きてこれた。

 


 今日も縁側に並んでいる。


 滞在時間が日に日に増えている。


 嬉しい。


 寄り添っていたのに、急に起き上がる。


 帰るのかなと思いきや。


 部屋に近づいていく。


 鼻をひくひく。


 中をキョロキョロ覗き込む。


 ここは、静かに見守るべきか。


「こちら、私のベッドになります。寒がりなため、電気毛布完備しております」


 などと案内すべきか。


 いや、もっと積極的に。


 押し倒すという選択もある。


 また、変態おじさんのような企み。


 たまに自分が怖い。


 しかし、これは悩む。


 正解がわからない。


 間違えれば、関係が終わってしまうかも。


 チキンな私は、見守ることにした。


 障子の敷居ギリギリに立っている。


 まるで異世界への境界線。


 すでに顔は部屋の中。


 いいぞー。


 もっと入って。


 背後で踊って応援したい。


 そう思った瞬間、くるりと反転。


 不穏な空気を感じてしまったか。


 縁側からも降りて、去っていった。


 くぅー、おしかった!


 さっさと踊ればよかった。


 けど無理強いはしない。


 自然に。


 みーちゃんにまかせる。

 


 午後。

 

 待ってました!

 

 テクテクと歩いて来てくれた。

 

 すっかり慣れた縁側で「カリカリ」

 

 お水も「ペロペロ」

 

 いつもなら次は私に寄り添う。

 

 けど、また境界線に立った。


 遠くを見つめるような瞳。

 

 鼻をひくひくクンクン。


 頭を振ってキョロキョロ。


 からの一点見つめ。


「……」


 何を見てるのかな?


 もしかして、雑に脱ぎ捨てた部屋着!?


 しまった。


 マイナスを付けられたか。


 見つめる表情が可愛い。


 私らしいと微笑んでるみたい。

 

 たまらない。


 後ろから押したい。

 

 駄目。我慢我慢。

 

 ただじっと待つ。


 静寂から、みーちゃんの足が動いた。

 

 超えた!

 

 境界線をゆっくりと越えて、中に入った。

 

 ついに、この日が来た。


 これは一匹の猫にとっては勇気ある一歩だが、私にとっては偉大な飛躍である。

 

 長かった。

 

 瞳が一瞬で潤む。

 

 古い畳の上を、一歩、また一歩。

 

 キョロキョロしながら。

 

 私のベッドに近づく。

 

 クンクン。

 

 大丈夫。

 

 この日のために、ゆず風呂断ち。

 

 次はモニター前の座椅子に。

 

 もう少女の香ではない。

 

 ファブリーズしとけばよかった。

 

 けど、嫌な顔はしてない。

 

 クリアー!

 

 就活の面接を思い出す。

 

 あの時より緊張。


 今度はストーブへ。


 どうして点けてないの。


 気が利かない私。

 

 音を立ててはいけないと、首だけ振り返る。

 

 変な体勢。

 

 首が痛くてもう限界。

 

 いや、大切な場面。

 

 耐えてみせる。

 

 ゆっくりと、時間をかけて部屋中回ってる。


 そして、縁側に戻ってきた。

 

 ドキドキしながら聞いてみる。


「どうかな…… 気に入ってくれた?」


 何も答えない。


 いつものように、去っていった。


 それでも、充実感に満たされていた。



 次の朝。


 庭掃除中にみーちゃん登場。


「カリカリ」のあと、日課のように部屋に入ってくれた。


 外で作業途中。


 安全と節約も兼ねて。


 またしてもストーブを点けていない。


 暖かさを体験させてあげたかった。


 一通り見て匂いを嗅いでから、去っていった。


 縁側から、みーちゃんの出て行った部屋を眺める。


 殺風景。


 畳の部屋にベッド。


 他に目を引くのは、PC。


 そして、覚えたてのエレキギター。


 みーちゃんには関係ない。


 ぼーっと眺めてて、あるアイデアを思いついた。


 急いで脱いだ長靴がどこかへ飛んでいった。


 気にせず着替えてから車に飛び乗る。


 行先は一番近いホームセンター。


 車で30分の道のり。


 到着後、真っ直ぐ向かった。


 ペットコーナー。


 目的は当然、猫グッズ買い込み。 


 ゆっくり見て回る。


 なかなかの充実具合。


 やるな。


 では。


「コホン」


 まずはトイレと砂。


 おしゃれな形より、実用性。


 広くて快適なのを選ぶ。


 猫になったつもりで、座る姿を想像。


 これだ! びびっときた。


 次はごはん皿に水皿も専用を。


 デザインより使いやすさ重視。


 これにしよう。


 そして、寝床(ベッド)も買う。


 みーちゃんは女の子。


 こっちはデザインも考慮。


 手を入れて感触を確かめる。


 ふっわふわで柔らかい。


 色もいいし見た目も可愛い。


 採用!


 爪とぎ。


 意外に種類が多い。


 うーん……


 ここはシンプルイズベストで。


 ぬかりなく揃えたい。


 大きなカートに手あたり次第。


 いつもカリカリだけ。


 ウェットのエサも、おやつも追加。


 国内産。無添加。


 料金やや高め。


 それがどうした!?


 気にしない。


 みーちゃんのためなら。


 ねこじゃらしも。


 三種類。


 半野生の猫。


 遊んでくれるかな?


 ウキウキが止まらない。


 その時。


 あることに気づいてハッとした。


 さっきまでのスキップはどこへ。


 一点見つめ。


 電池が切れたおもちゃのように止まる。


 理由は……


 大家さんの許可。


 一番大切なことを忘れてた。


 スマホを取り出し。


 恐る恐る電話。


 お願い、出て。


 出てくれた。


 冬の間だけですと事情を説明。


 大家さんは知っていた。


 みーちゃんのことを。


 せまい地区。

 

 おそらく、亡くなったみーちゃんの飼い主さんとお知り合い。


 そのせいか、承諾してくれた。


 優しい大家さん。


 本当にありがとうございます。


 ウキウキルンルンで買い物続行。


 帰宅。

 

 嘘みたいに大きな特大のレジ袋を両手に持って、車から降りる。


 両手の位置は肩の高さ。


 そうじゃないと地面に引きずってしまう。


 荷物を廊下に置く。


 部屋をジッと見つめ、腕を組む。


 まずは頭の中で妄想。


 うっすら目を開けている。


 無我の境地。


 たぶん今変な顔。


 気にせず集中。


 一休さんのように、チーンと閃いた!


 買ってきた物を部屋に並べる。


 トイレはここ……


 いや、こっち!


 爪とぎはここね。


 ごはん皿と水皿はここ。


 いったんセットして、遠くから眺める。


 うーん……


 だめだめ。


 センスの欠片もない。


 いったい何の閃きだったのか。


 自分が嫌になる。


 やり直し。


 とにかく。


 みーちゃんに気に入ってもらいたい。


 その一心。他意はない。


 寝床は、私のベッド寄り。


 これぐらい。


 うーん……


 もっと近くへ。


 えーい!


 もうくっつけてしまえ!


 いや、ベッドに乗せればいいんだ。


 嫌がるかな。


 あ、他意バリバリあったじゃん。


 けど、みーちゃんと一緒にお寝んね。


 むひひひぃ。


 不埒な気持ちでも、これは譲れない。


 できたー!


 なかなかの配置。


 やればできる。


 けど……


 ベッドの上に寝床(ベッド)って気になる。


 寝床(ベッド)が気に入らなければ、ベッドで寝てくれるかも。


 計画(たくらみ)も2段構え。


 これだ。


 ストーブを忘れずに点けて。


 あとは、みーちゃんを待つだけ。


 喜んでくれるかな……



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