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 第十章 冬支度



 栗の木が、まるで眠りにつくように静かに葉を落とし始めた。


 恐れていたことの始まり。


 それは…… 冬。


 私は寒さが大の苦手。

 

 それに。


 エアコンの暖房も苦手。


 そう。


 足元が冬で、頭が春。


 あの感覚が嫌い。


 それと、ただでさえ乾燥する季節なのに、エアコンによってさらに乾燥する。


 駄目押し。


 でも、暖房なしでは冬を乗り切れない。


 床と天井の温度差が少ない暖房器具。


 石油ストーブ。


 毎年使っている。


 二台持ってる。


 小さいのと普通の。


 ストーブの利点。


 お鍋を置ける。


 どすこーい。


 ちゃんこ鍋ではない。


 お水を入れたお鍋。


 ストーブの上に置くと、湯気がほどよく出る。


 お肌の天敵、乾燥から守ってくれる。

 

 それに、ウイルスからも。


 ストーブの上に直接お鍋を置くと、世にも奇妙な音が出る。


「キューーーー」「ピュユウーーー」


 UFOと交信できそう。


 この大きな音を聞きながら眠るのは不可能。


 だけど、簡単に解決できる。


 100均で網を買う。


 餅とか焼くやつ。


 お鍋とストーブの間に置くだけ。


 これで、UFOはこない。


 お婆ちゃんに教わった。


 先人の知恵。


 そういえば、お婆ちゃんは畑の達人だった。


 一緒に買い物に行った時、種のコーナーで何を食べたいか聞かれた。


「スイカ」


 そう答えると、翌年の夏には畑にスイカがあった。


 私が収穫して、山水が流れる桶に入れて冷やした。


 いとこたちとかぶりついた。


 私のおかげだよと自慢したかった。


 お婆ちゃんは他にも。


 お味噌も、こんにゃくも、豆腐も手作り。


 ぬか床も持っていた。


 保存食、発酵食品、すべて自家製。


 それに、ガスを使わず炭で料理。


 その炭も自家製。


 畑の隣に、大きな炭窯があった。


 YouTuber真っ青のスキル。


 冬休みに行くと、かならずストーブの上におしるこの入ったお鍋。


 甘いものが好きな私が、いつでも食べられるように。


 母が入院した時は、家に来てくれた。


 ご飯を作って、身の回りのこともしてくれた。


 頼りがいがあって、本当に優しくて、大好きなお婆ちゃん。


 帰る時、電車が見えなくなるまで駅のホームに立ってた。


 そういえば。


 お婆ちゃんも一緒だった。


 私が帰る時、車が見えなくなるまで手を振ってくれてたね。


 ……もっと。


 もっとたくさん習っておけばよかった。

 

 もっとたくさん、会いに行けばよかった。


 私の、馬鹿……

 

 空を仰いだ。



 ストーブの欠点。


 わざわざ灯油を買いに行かないといけない。


 しかも重い。


 この辺りには当然、ピッツァなどのデリバリーはない。


 だけど、灯油の配達はある。


 田舎でお年寄りが多いから。 


 けど、リッターあたりの単価が高い。


 節約生活。


 自分で行くしかない。


 しかもまとめ買い。


 月に一、二度、病院のために街を訪れている。


 片道、車で一時間半。


 街の方が灯油は安い。


 十数円も違う。


 20リットル入るポリタンクを四つ買った。


 ポリタンク代を計算に入れても、ひと冬だとお得計算。


 それと、以前から持ってた18リットル二つ。


 全部で116リットル。


 この辺りの冬は寒いと評判。


 けど、これだけあれば戦える。


 自然と微笑んでいた。


 車の後部に積んだ。


 病院帰りに、いざ街のガソスタへ。


 灯油の給油機に車を横付け。


 ポリタンクを降ろさずに済む。


 隣の人がポリタンクの数を見て驚いていた。


 車はトヨタのパッソ。


 軽トラなら驚かれなかったかも。


 とりあえず気にせず入れていく。


 金額は1万3千円を超えた。


 けど、住んでる田舎なら1万4千円を大幅に超える。


 つまり、今回だけで1000円以上お得。


 これを冬の間に何度か繰り返す。


 くねくね山道で、後ろからチャポチャポ音が。


 大量の灯油。


 爆発なんてしないよね?


 音が不安を誘う。  


 なんとか無事帰宅。


 駐車場は隣の空き家前。


 持ち主は遠方に住んでる大家さん。


 普通に歩けばすぐ近く。


 重い灯油を運ぶには遠い。


 両手で持って腰を落とす。


 想像を超えた重さ。


「うむむむぅ」


 ペンギンのようにヨチヨチ歩く。


「ミャー」


 みーちゃんが見ていた。


「あ、みーちゃん! 灯油運ぶまで待っててね」


 すべてを倉庫に運び終えると、いなくなってた。


 歩き方が不気味だったのか……


 もっとエレガントに運べばよかった。


 ファッションモデルのように。


 いや、無理だよ。


 がっかりした。


 着替えてから、落ち葉集め。

 

 猪八戒の武器で、ざっ、ざっ、ざっ。


 大量の落ち葉。


 一筋縄ではいかない。


「ミャー」


 またみーちゃんだ!


 ゆず風呂を我慢してから、なんとか仲直り。


 最近は毎日来てくれる。


 多い時は一日2回。


 朝と午後。


 縁側にも上がるようになった。


 いい感じ。


「ご飯食べるよね」


 落ち葉集めは中止。


 並んで縁側に向かう。


 歩く姿が可愛い。


 いいリズム。


 シッポをピーンと立ててる。


 嬉しい証拠らしい。


「はい、どうぞ」


 いつものように「カリカリ」


 夢中で食べてる。


 ……触ってみたい。


 そろそろいいよね?


 でも、ご飯で釣るなんて。


 やり口が汚い。


 まるで変態おじさん。


 いいえ、私は女子。


 そっと手を伸ばす。


 指先が、背中に触れた。


 ふわっ。


 柔らかい。


 どこのコンディショナーかしら。


 カリカリを食べながら、ちらっとこっちを見た。


 私が触ってるのを認識してる。


 それでも逃げない。


 許された気がした。


 その証拠に。


 いつもなら、食べ終わると静かに消える。


 だけど今日は違った。

 

 ふたりで日向ぼっこ。

 

 ぽかぽか縁側で。


 古民家と三毛猫。


 そしてノーメイクの私。

 

 なんて絵になる。


 ……ん?


 まぁでも。


 これこそ、思い描いていた夢の田舎暮らし。


 離れていたのに、みーちゃんから近づいてきた。


 ピタッと寄り添ってゴロン。


「あー、いいのー」


 思わず声が漏れた。


 ゆず風呂を絶ったかいがあった。


 もう他人じゃない。


 きっと絆がある。


 柔らかな陽を浴びながら、初めてみーちゃんをなでなで。


 感動!


 目を閉じて、気持ちよさそう。


 私も、心が気持ちいい。


 一緒だね。


 永遠に続いてほしかった。


 けど、太陽を雲が隠した。


 いじわる。


 ふたりで空を眺めた。


 しばらく待っていたけど、みーちゃんはどこかへ消えた。


 もう。


 太陽の馬鹿。


 雲なんかに負けないでよ。


 しかたない。


 落ち葉集めを再開。


 一ヵ所に山盛り。


 ゴミに出してもいいけど。


 こうしておけば、たくさんの生き物が冬を越せる。


 自然のストーブ。


 この中で。


 春までの共同生活。


 そういえば、みーちゃんはどうするんだろう。


 この辺りは、雪も降る。


 寒さの厳しい山の冬。


 どこで寝ているのだろう。


 とても、心配。



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