闇の出現
デス・フォールの創立者であり現リーダー、ウィルレオ・アルン=シルバーは街の中心部にある巨大広場を歩く。
現在、デス・フォールのニ幹部であるナイロ、ガリオン、側近のアリアを筆頭として数百名の衛兵や組員を連れて広場を歩いている。
「騎士団の動きはどうだ?」
隣で歩いているナイロに尋ねる。
「先ほどこの街の関所に着いたようだ。
ただそれ以降通話が繋がらん。
全くあいつは何をしているんだ。
まさかやられたというわけでもあるまい…」
ナイロはやれやれというように頭を掻いた。
「それは分からんぞ?
我々の敵は騎士団だけではない。
銀髪の女といい、館を荒らした謎の者といい、そして何より蒼翠のフェンリルなる者がいる。
そのいずれかにやられていてもおかしくない」
ナイロは苛立つような顔を見せる。
「何故こんな急に邪魔者が増えやがった…。
1週間前までは銀髪の女だけだったっていうのに」
「あぁそうだな…」
そんな姿や自分達の現状を考えていると、なんだか自分も腹が立ってくる。
そうなのだ。
一週間前までは我々に歯向かっていたのは銀髪の女だけであった。
それが二日前にフェンリルとかいう暗殺者を倒した敵が現れ、その次の日に館を壊滅させ副戦士長を葬った謎の人物が現れた。
これだけでもかなりめんどくさいのだが、泣きっ面に蜂という言葉があるように、今日は国の方から直々に騎士長が来るという話だ。
この街に来る要件というのは衛兵の汚職の摘発、そして何より自分達デス・フォールの排除だ。
現に大群を引き連れ、街の入り口で自分達の組織と王国騎士団が戦闘をしているという話だ。
そしてこの大軍で移動しているのはそれを迎え撃つためだ。
それを倒しただけでは終わらない。
フェンリル、銀髪の女、謎の人物、さらには街で暴動を起こしている市民共もこの街から排除しなければならない。
つまりこの組織は5つの脅威を取り除かなければいけない。四面楚歌よりも酷い状態である。
こんな危機に瀕しているのは組織が創立してから初めての事態だ。
クソッ……。
鬱陶しいコバエどもめ…。
ウィルレオは握り拳を作る。
騎士団を滅ぼしたら順次煩わしい者も消してやる。
そのあと五月蝿い市民共も皆殺しだな。
我々に喧嘩を売ってただでは済まさんぞ…。
ウィルレオは青筋を立てて右手を握りつぶした。
その時。
なんだ…?
自分達の前方数十メートル先に、暗黒のモヤが集まっていく。
「あの霧はなんだ?」
「なんだあれは?」
ナイロとガリオン、アリアも驚いている。
後ろのあまりに多い数の兵士たちも動揺したために、その動揺は途轍もない大きな音を生んでいった。
そして全員の視線がそのモヤに集中する。
モヤはどんどん濃くなっていった。
やがてそれは一つのまとまりになると、その中から2人の人物が出て来る。
1人は銀髪の女。
騎士風の格好をした背丈が高い女だ。
2人目は貴族のような格好をした男。
トップハットにタキシード、黒くて細い杖をついていて隣の女の腰に手を当てている。
「…………」
しばらく時が止まったように固まる。
やがて貴族風の男が前へ歩いてく来た。
その姿は非常に優雅であった。
「やぁ諸君…。
今日はいい朝、いや…いい昼だな」
女の方も男に追随して一定の距離まで来ると止まった。
「我の名は蒼翠のフェンリルである。
そしてとなりの淑女はリエルという。
以後お見知り置きを」
フェンリルは一礼をする。
帽子を取らない挨拶は非常に綺麗だった。
まるで本当の貴族のようであった。
それに対してナイロが前へ出る。
「貴様がフェンリルか。
貴様とその女の事は随分と探したぞ。まさか自らこの大軍の下にやって来るとは、そんなに死にたいのか?ハッハッハ!!」
「ハッハッハ!!」
「ハッハッハ!!」
ナイロと総勢数百名の戦闘員達は大笑いをする。
あまりの笑い声の大きさに広場は覆い尽くされていく。
それに対してフェンリルはただ余裕そうに立っていた。
「これはこれは…。
諸君に喜んで頂けて何より。
だが数分も経てば、笑い声では無く悲鳴の大合唱をする事になるぞ?」
顔は見えないが男の口元がニヤリと笑った。
ナイロは少し不快げになる。
ふざけた冗談だ何故笑っていられる?
こちらは300越えの戦闘員、ウィルレオがいるんだぞ?自分達が置かれている状況というのを全く分かっていないようだな。
暗殺者を殺して良い気になったのか?
だったら自分達の過ちを後悔させて懺悔させてやる。
ナイロは早く目の前の男をぶちのめしたい気分でいっぱいだった。
「そんな出鱈目が通じると思うか?」
怒りを発散するようにそう言った。
「出鱈目も何もそれが未来の現実になる。
貴様らでは私に勝てん」
そしてフェンリルは話を続けた。
「……そして一つ聞きたいのだが、私の隣の淑女とそちらの桃色髪の女性を一体一で戦わせていただけないだろうか?」
「なぜだ?」
「その答えは桃色髪の女性が一番知っていると思うぞ」
ジークはリエルを見る。
リエルとアリアは睨み合っていた。
ここに来た時からリエルは彼女の事しか見ていない。
アリアの方もリエルのことをおちょくるような視線で一部始終見ていた。2人には過去に深い因縁がある。
「アリア久しぶりだな。
まさか貴様が寝返っていたとは思わなかったぞ?」
リエルはものすごい形相でアリアを睨みつける。
「私はあんたみたいな雑魚に興味は無いの。
あの時に他の奴みたく死んでくれたら良かったのに♪」
アリアはリエルの事を嘲笑う。
「ク、クソ野郎!!」
リエルは思わず駆け寄ってしまいそうになる。
しかしジークが肩に手を置いてきた。
「な、なんだ!?」
リエルは珍しくジークに対して声を荒げる。
しかしジークはどこまでも優しかった。
そしてリエルにだけ聞こえる声で耳打ちをする。
「大丈夫だよ…。
リエルとあの女はタイマンにするように計らうから…」
「あぁすまなかった。
あまりの怒りで我を忘れそうになった…。
どうか嫌わないで…」
「大丈夫だよ嫌うわけがないじゃん」
「ありがとう……」
ジークはどこまでも優しい声でそう呟いてくれた。
だからリエルも冷静になる。
「どうだ?その女性とこちらの女性を一騎討ちさせて頂けないだろうか?」
「……それは無理だな。こっちには大軍がいるんだ。
わざわざ貴様らの土俵で一体一などさせるものか」
「私としてもゴメンだわ。
そんな女と一体一なんてしてらんない!
リエル、あなたはここで仲間の仇も撃てずに死んでいくのよ♪」
ジークは帽子を深く被る。
「――フッフッフッフ…」
「あぁ??」
「お前たちの許可など必要無い。
私が認める。ただそれだけの話だ……」
結界創造。
ジークが一言。
それで隣のリエルもあちらの女も一瞬にして消えた。
「な…何をした!?」
「彼女とあの女だけの世界を作った。
2人は今その世界にいる。そこにいる以上、貴様らは手出しをすることは出来ない」
「何を言って…」
とことん気に食わない野郎だ。
どこに自信があるのか分からないが、この軍勢を相手に去勢を張って、なおかつ自分の知らない魔法を唱えて来る。
魔法においてこの街で自分の右に出る者はいない。
この俺を挑発した代償をアイツは払うことになる。
ナイロは非常に興奮している。
対して目の前のフェルリルは、どこまでも落ち着いていた。
「さぁ我らも始めようか…。殺し合いをな」
フェンリルは口元に笑みを浮かべた。
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