支配者の美学
「……大丈夫かロサ!?」
「ロサ!!」
「ロサさん!!」
ロサの下に三人の男女が走ってくる。
その者達はロサの冒険者パーティー仲間だった。
「あぁ…なんとか大丈夫だ!」
ロサは腹を押さえながら空元気で返事をする。
「どうした…腹が痛いのか?」
1人の仲間の男がロサに肩を貸す。
「兵士に腹を蹴られてしまってな、その衝撃でもしかしたら肋骨が折れてるかもしれない…。うっ……!」
ロサは胸を押さえて苦しんだ。
「それは大変だ…!
待ってろ今ポーションを使う」
男はそう返事をした。
そして目で佇んでいる男を一瞥する。
この男は一体誰なのだろうか。
貴族のような格好をしていて非常に不気味だ。
それに、この者は味方なのだろうか。
ロサを治療する前に何者なのか尋ねた方がいいかもしれない。
自分は一瞬のうちに逡巡する。
そして一つの答えを出した。
正体を聞くのは後だ。
男はただ佇んでいるだけで何もしてくる様子は無い。それに、今は目の前で苦しんでいるロサの治療に専念した方がいいだろう。
男は服からポーションを取り出す。
そして小瓶の蓋を開けた。
「待て…その必要はない」
謎の男がそれを止めた。
「あ、あなたは?」
「……自己紹介は後だ。
今は負傷者の看護をするべきだ。
お前、横になれ」
謎の男は淡々とそう告げる。
なんなんだこの男は…?
自分は思わず顰めっ面をしてしまう。
身元の分からない者に従いたくはない。
敵か味方か不明な以上、おかしな真似をされては困る。
この男の命令には従わなくていいだろう。
それよりも応急処置だ。
しかし、身体が何故か無意識に動いてしまった。
男の言う通りロサを横にさせてしまったのだ。
……?
は……なんで俺はロサを横にした?
本当に無意識で彼を横にさせてしまった。
一体なぜそんな事をしたのか自分でもよく分からない。
もしかして目の前の男は何かしたのだろうか。
「少し離れていろ」
男の右手から黒い炎が発生した。
「な、何をするつもりだ!?」
ロサは咄嗟に剣を構える。
この闇の炎でロサを焼くつもりだろう。
男はやはり敵だったのだ。
後ろにいた2人も近寄ってくる。
「……なんなのその炎は!?」
「や、やめてください!!」
自分の仲間、レトとリアナが弓と杖を構えて前へ躍りでた。変な真似をしたらすぐに攻撃するというように、戦闘態勢を取る。
「……?貴様ら何の真似だ?
私はこの男の傷を癒してやるのだ」
武器を突きつけられているにも関わらず目の前の男は余裕な素振りを見せる。
分からんというように両手を広げ、攻撃を微塵も恐れていないように見える。
男は恐ろしいほどの圧力を放ち始めた。
くっ……!
…これはまずいな。
自分の抱いている感情は恐怖。
無意識に脂汗をかき、ヘビに睨まれたカエルのようにだんだんと身体が動かなくなってしまう。
間違いない。
この男は絶対に危険な存在だ。
もし戦ったら非常に危険な羽目になる。
だが、それでも自分達は戦うだろう。
たとえ自分達より強い相手だとしても、こんな者に仲間を好き勝手にさせる訳にはいかないのだ。
すると。
「彼に攻撃する事は私が許さん」
男の後ろで控えていた銀髪の女が、レイピアを引き抜いてこちらへ向かってくる。
そして鋭い剣先を突きつけてきた。
ロサを挟んで3対2の構図が出来上がった。
いつ始まってもいいように自分は剣を握りしめる。
リアナは杖を構えてレトは弓を引き絞っていた。
銀髪の女はレイピアを構え、そして一番注目が集まる貴族風の男はというと。
何も持たずに両手を広げていた。
そこに降参という意図は全く見られない。
むしろ、掛かってこいという雰囲気を醸し出している。
男はゆっくりと口を開く。
「諸君らが間違えた判断をしないと私は信じている。
……しかし。もし我に歯向かう、または隣の彼女に対して危険な動きを一つでも取ろうものなら、貴様達はここでゴミのように死んでいくだろう」
これを聞いて、思わず苦虫を噛み潰したような顔に自分はなってしまう。
……これは…。
これはまずい…。
もし戦えばきっと勝てない…。
脳が本能的に警告してくる。
目の前の男には決して勝てないと。
実際、攻撃パターンを考えているのだが、この男が死ぬような想像は全く思いつかない。
男は続けて口を開いた。
「別に我は諸君らの味方というわけではない。
通りの兵士を殺めたのは我の名が上がると考えたからであり、もし諸君らが我の利益を少しでも妨害しようものなら我は貴様らを遠慮なく殺す」
ドス黒いオーラが男から流れ出している。
もしかして自分達は彼を怒らせたのかもしれない。
…こ、これほどだと!?
自分達は誰に喧嘩を売ってしまったのだろうか。
剣を握る手が震える。
必死にそれを隠そうとしても、恐れという本能が理性を支配して身体が全く言う通りに動かない。
横を見れば自分と同じく2人もガタガタと震えていた。
一触即発の雰囲気が臨界に達する。
その時。
「お、お前らもうやめろ!!」
地面に伏しているロサが苦痛に顔を歪めながらも自分達に怒鳴りつける。
「この方は私を助けてくれたんだ!!
お前達では決して勝てない!!
武器を下ろせ!!」
「わ、わかった…」
自分達は武器を捨てる。
「よ、よければ貴方様も武器をお納め頂けないでしょうか?私の仲間が勝手な事をして誠に申し訳ございませんでした…」
ロサは地面に伏しながらも懸命に訴える。
「……分かった。その謝罪素直に受け取ろう。
ところで先程行おうとした我の治療魔法はどうする?」
「…お願い致します」
「よかろう。では失礼する」
ジークは再び闇の方を右手にまとわせた。
そしてその炎をロサの腹部に移した。
「うわっ!?」
「だ、大丈夫か!?」
やっぱり男は裏切ったのではないか。
自分はそう思って剣を握ろうとする。
「大丈夫だ。
この炎は優しく俺の身体を包んでくれる」
ロサはこちらに言い聞かせてきた。
確かにロサは気持ちよさそうにしていた。
しばらくして炎が鎮火する。
「な、治った!!
腹部の痛みが治った!!」
ロサは感激したように飛び上がる。
「あ、ありがとうございます!!
貴方様は私の命の恩人でござます!!
是非ともお名前をお聞かせ頂けないでしょうか?」
ロサはジークの前で深くお辞儀する。
「…諸君らとの挨拶は不要。
どうせもう会うことは無いのだから」
「そうおっしゃらずに是非ともお願いします。
貴方様は私の恩人なのですから…」
ロサは恐れ恐れそう言った。
そしてハッとした顔をする。
「こ、これは失礼!!
私は"ステラ"という冒険者パーティーのリーダーを務めているロサ・パティシプルという者でございます」
ロサは後ろを振り向いて自分達に咎める視線を送る。
「ほらお前達も挨拶をしろ!!」
3人は焦ったように前へ出る。
「私の名はヴァルテル・ジストでございます。
先程は本当に申し訳ございませんでした…」
ヴァルテルは深く頭を下げる。
そしてその後も女性2人の紹介が行われた。
紹介曰く、弓を構えていたのがレト・ホワイト、杖を構えていたのがリアナ・クルーシュだという事だ。
その後も長々と説明が続いた。
△△△△
ジークとリエルは彼らと別れて、通りの中心を堂々と歩く。
「しかし先ほどの緑色の攻撃は一体何だったのだ?」
「緑色の攻撃?」
「あぁそうだ。
兵士を覆い尽くした緑色のやつだ。
たしかカビと言っていたな?」
「あぁそれね、それはカビの攻撃だよ。
人呼んで、カビるんるんアタックだ」
「かびるんるん?なんだそれは?」
リエルは綺麗な顔を傾げる。
「カビるんるんというのは魔法の言葉なんだよ。
直訳としては貴方を必ず倒します。って意味だね」
「そ、そうなのか…。それは凄いな」
もちろん嘘だ。
カビるんるんとはあのアニメの某キャラクターに決まっている。カビるんるんアタックというのも今適当に名付けた。
ジークとリエルはこの通りを確認するように歩いていく。
ここもだいぶ綺麗になった。
大方敵は片付けただろうか。
離れた場所の敵はまだまだいるが、あのアンデッドたちに任せていいだろう。
それよりも……。
エイラ達は敵の拠点に向かう。
それに対して自分達はこれから大広場に向かわなければならない。
あそこに敵が固まっているとの情報なのだ。
「これから大広場に向かうけど準備は出来てる?」
「あぁ大丈夫だ」
「あの巨大な広場で最終決戦といこうか。
かつての知り合いとも会う準備はできた?」
そう聞くとリエルは目を瞑った。
そして大きい胸に手を当てる。
しばらくして目を開けた。
その瞳には彼女の覚悟が固まっていた。
「あぁバッチリだ。
彼女に全てを聞かなくてはな」
「いい意気込みだ」
自分も目を見開く。
これから全ての敵を葬り去る。
アニメでいったら、今はその最終決戦の前のシリアスなシーンなのだ。
自分も彼女も、真面目な雰囲気を出していなければならない。
「転移するから俺に近寄ってくれ」
俺は落ち着いた声を出した。
「あぁ…//
ジークにくっつくからな//」
うん?
なんで興奮してんの?
彼女はなぜか惚けた声を出した。
いつもふざけていたアニメも、最終決戦前はめちゃくちゃシリアスだったのだ。
最終決戦前でふざけた態度は許されない。
彼女の惚けた声は多分気のせいだろう。
そしてリエルは近寄る。
……のではなく、抱きついてきた。
あの〜。
くっつきすぎでは?
近寄れっていたはずだよね?
……まぁまぁ…。
気にしないことにしよう。
支配者は何事にも動じないのだ……。
「や、闇よ、わ、我々を広場へ誘え…」
若干動揺しながらも、とある言葉を言う。
それは転移の魔法。
2人は闇の霧に包まれていく。
そしてだんだん霧が晴れていった。
そこに2人の姿はもう無かった。
次回は決戦となります。




