第二章 魔祖の呪い
「第七次魔人侵攻ですか、確かに今までの侵攻のペースを考えるとそろそろ侵攻してきてもおかしくはないですね。」
シャーレーのいう通り、今までの魔人侵攻は3年おき程のペースで行われていた。15年前の第一次、13年前の第二次、10年前の第三次、7年前の第四次、5年前の第五次、そして2年前の第六次。魔人がいつ襲ってきてもおかしくない状況だ。
「もちろん、もうしばらく侵攻を行わない可能性もある。ただ、第五次、第六次魔人侵攻で魔人たちはほとんど領土を広げることができなかった。」
「なるほど、魔祖ですね」
「おーい、二人だけで話を進めるなよー」
シャーレーの話を遮るように声をかけてきたのはシュン、夜の番人の火の元素を扱う魔術師だ。得意な火魔術は広範囲の炎による攻撃魔術だ。シュンとは同じ孤児院で育った馴染みってやつだ。こいつも魔人侵攻で両親を失っている。境遇が似ていた俺たちはすぐに打ち解け、魔人を倒すと誓い合った一人目のパーティーメンバーだ。
「俺様たちはリーダーの到着を待ってたのに、ずいぶんとひどい扱いだなー」
「悪かったシュン、エルドとアーシャも聞いてくれ、これから第七次魔人侵攻の対策について話し合いたい」
エルドとアーシャはうなずき答えてくれる。
エルドは夜の番人の土の元素を扱う魔術師、アーシャは陽の元素を扱う魔術師だ。
エルドは土塊から武器を作る土魔術 アーシャは自分や他者にバフを与える陽魔術を得意としている。
ここにいる6人とネリッサを合わせた7人が夜の番人のメンバーだ。
ちなみにリーダーはパーティー設立をした俺が担っている。
「いいのかよ、ネリッサのやついねーぞ」
「ネリッサには今度会いに行って俺のほうから伝えておくよ、きっと魔術工房にいるだろうから」
「なっ、そんな必要はありません!シドさんのお話は私が伝えておきますから!」
なぜか急にシャーレーが慌てだした。そして、エルドとアーシャはその様子をどこか微笑ましそうに見ている。エルドとアーシャはパーティーメンバーの中で最年長であり達観している。なぜシャーレーが慌てているのかも手に取るようにわかっているのだろう。
「なあ、エルド、アーシャ、シャーレーはなんでこんなに慌てているんだ?」
「ふふっ、わたくしにはわかりませんわ」
「罪な男だな、シド」
絶対にわかっているのに白々しくごまかすアーシャ、エルドも理由を教えてくれない。
「あっ慌ててなんていません。エルドさんも変なこと言わないでください!」
「むっ、すまん」
俺には何のことやらさっぱりだったのだが、シュンには何か思い当たる節があるのか、少し考えこんだのち、にやりと笑い話し始める。
「俺様わかっちまったぞー、シャーレーはシドとネリッサを二人で会わせたくないんだろー」
「なっ、そ、そんなんじゃありません!」
「いいや、俺様にはわかったぞー。ネリッサのやつことあるごとにシドを誘惑しようとしてるからなー、シャーレーはシドを取られたくないんだろー。」
「なっ、なっ」
「いやー、シャーレーは昔からシドにだけは甘かったから変だと思ってたんだが、なるほどー、シドのことすきだったのかー」
「なっ、何言ってるんですかー」
直後、シャーレーのグーパンチが、完全に油断しているシュンの顔面にクリーンヒットした。そればかりか、シュンは数メートル後ろに吹っ飛ばされた。
「えー!シャーレーちゃん、シドちゃんのこと好きなのー!?」
「スカイ、気づいていなかったのか」
「エルドさん、スカイ、変なこと言うと殴りますよ!」
「っ、、」
「むっ、すまん」
「ふふっ」
「えっと、シャーレーさん、、、」
「ち、ちがうんです、シドさん。もっ、もちろんシドさんのことは好きですが、それはあくまで、いち魔術師として尊敬しているだけであって、恋愛的な意味ではなく、そのー//」
「いや、シャーレーさん、そうじゃなくて急いでシュンに治癒魔術を、、、」
そこには泡を吹いてぴくぴく動いているシュンの姿があった
「わぁー!い、急いで治療します!」
シャーレーの治癒魔術によってシュンは意識を取り戻した。だが、完全にシャーレーにビビッていつもの調子は出ていないがちょうどいい。今日は少しまじめな話をしなくてはならないからな。
「んんっ、えー、話を戻すが今日の議題は第七次魔人侵攻についてだ。そして俺は、この侵攻が近日中に行われると踏んでいる。」
「はいはーい、今までの侵攻のスパン的に、そろそろ来てもおかしくはないけど、もう少し時間を空けてくる可能性はないの」
スカイが質問を投げてくる。こういう率直な疑問を投げてくれるのは、理解を促すうえで効率がいいのでありがたい。
「俺が、近日中に侵攻があると踏んでいるのには理由がある。それは、第五次、第六次の侵攻で魔人は領土をほとんど奪えていないからだ。」
「だからって、なんで急いで攻めてくるの?むしろ時間をかけて万全の準備をしてくる可能性もあるよね」
「いやその可能性は低い、なぜなら、、、」
「魔祖の充満ってところかしら、シドくん」
アーシャが補足をしつつ説明を促してくれる。
「うん、魔人は体内で魔祖を生成してしまう。生成しても時間をかければ媽祖を吐き出すことができるから問題はないんだが、吐き出した魔祖が空気中にとどまり濃度が高くなると魔祖の吐き出しが追い付かずに魔力耐性の弱いものから自我を失い狂化してしまう。これが魔人にかけられた魔祖の呪いだ。それを防ぐために、魔祖の充満していない人間の領土を奪いに来るだろうね。」
「なるほどー、だからすぐに仕掛けてくる可能性が高いんだねー」
「うん、それにネリッサの魔術で魔人の領土を盗み見してもらったんだけど、、、どうやら今回の侵攻では魔王軍が動く可能性が高くなっている。」
この一言で今までどこか楽観的だった空気が一変した。今までの侵攻では、魔王軍は侵攻に参加することはなく、あくまで使役する魔物を人類の生活圏に放っていただけだった。夜の番人はその魔物の侵攻を完全に撃退することができていたため、今回の侵攻も大丈夫だろうと思っていたはずだ。
「魔王軍というと、人魔大戦時に最も多く人を殺した魔人の中でも魔力量の多い精鋭ですよね。」
「それは、少しばかり厄介になりそうね」
「でも、今までなんで魔王軍は表舞台に立たなかったんだ?言っちゃなんだが、魔王軍が侵攻に参加してたら、俺たち全滅しててもおかしくないよな」
「おそらく、人魔大戦の失敗から魔王も慎重に事を済ませたかったんだろう。だが、魔物を放つだけでは領土を奪うことができなくなって、ようやく動くってとこだろうな」
「人類にとっちゃ、それは失策ってことになんのか、魔王のやつ、おつむは弱いのかもな」
シュンはそういったが、魔王には別の考えがあるような気がしてならない、とはいえそれをここで話しても意味はないので話を戻す。
「だから、今回の侵攻は文字通り人類の存亡がかかった重要な戦いになる。ネリッサの情報によると魔王軍が侵攻を始めるのは一週間後。それまでに魔術師の集いとも連携を密にとって侵攻に備える。これが今回の侵攻に対する俺たちができる最善策だ。」
第七次魔人侵攻、この侵攻を機に俺たちの物語は加速度的に進んでいくこととなった。
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