第三章 不穏
一通りの会議が終わり、一度解散ということになった。焦らなくても、ネリッサの情報通りならまだ一週間ある。それまでに各々できることをやってもらうことが大事だ。かくいう俺も一週間という時間を大事にしなくてはならない。そのために今はネリッサのいる魔術工房に向かっている。本人の強い希望でシャーレーとスカイが同行を求めてきたので了承して、今は三人で向かっている。
「どうして、シドさんがわざわざお話をしに行くんですか?私が伝えておけば問題なかったと思うのですが。」
頬を膨らませながらシャーレーはいう。
「シャーレーを信用してないわけじゃないんだが、人づてだとどうしても俺の伝えたい意図だったりが正確に伝わらない可能性があるだろ?今回の話は重要な話だし、俺から伝えるべきだと思ったんだよ。それにネリッサとはここ最近顔を合わせられてなかったからね」
「そういうことなら仕方ないですね。でも、ネリッサさんがそもそも会議にきていればこんなことにはなりませんでした。」
「まあまあ、ネリッサの固有魔術がなければ後手に回ってたのは確実だっただろうし、今は少しでも休ませてあげよう。」
固有魔術は例外を除いて基本魔術より魔力の消費が激しい。使用後は疲労感も相当らしい。
「それより、スカイはどうしてついてきたがったんだ?」
「うーんとね、シャーレーちゃんに聞きたいことがあって、、」
「私ですか?」
「う、うん。さっきの会議の時のことなんだけど」
どことなく元気がなさそうというか、いつものスカイらしくなく、もじもじとして話しづらそうにしている。
「シャーレーちゃんってシドちゃんのこと好きってわけじゃないんだよね?」
伏し目がちにそう訊ねる。
「も、もちろんです!私はシドさんのことを尊敬しているだけですから!」
「そっ、そっか、よかったー!」
何が良かったのかはわからないが、まあ今は流しておこう。ネリッサのいる魔術工房は夜の番人の家から歩いて20分ほどの距離にある。ここはネリッサが自費で建てた工房だが、戦闘時に使う武器などもここにあるので、パーティーメンバーは勝手に出入りしている。
しばらく無言のまま歩き、工房につく。
「ネリッサさーん、いますかー」
シャーレーが声をかけるが反応はない。特に鍵もかかっていなかったのでそのまま入る。
「寝てるのかもしれない、シャーレー、悪いが寝室に確認しに行ってくれないか?眠っていたら無理に起こさないでいいから。」
「わかりました。少しお待ちください。」
シャーレーが寝室のある二階に向かったとたん、いきなり背後から抱きつかれる。
「シド、私に会いに来てくれたの?うれしい。」
「ネリッサ、お前隠密を使っていたな?」
「シャーレーの前でシドにくっつくとうるさいからねー。」
そんなことを耳元でささやきながら体をべたべた触ってくる。
「あのー、ネリッサさん、離してくれません?」
「んー?だめ、このままシドには私の欲の発散に手伝ってもらわなくちゃなんだから。」
「っっ!、、」
とうとうわけのわからないことを言い出したので、大声でシャーレーを呼び戻そうとしたのだが遅かった。俺の体はもう動かず声すらまともに出せなくなってしまった。こいつ、静止まで使ったのか。ネリッサは陰元素を扱う魔術師で今使った隠密や静止を得意としている。ともかくこいつに、フリーズを使われたら逃げ出すことは不可能だ。
(頼む!助けてくれスカイ!こいつを引きはがしてくれれば静止が解ける!)
静止は対象に触れていることが条件で、一度使用した対象には10分間静止をかけることができない。最後の望みであるスカイに心の中で叫んでみたが、、、ダメそうだ。スカイは顔を真っ赤にして手で目を覆い隠しながらも隙間からちらちら覗くだけだった。
(なんでスカイは変なとこでうぶなんだ!)
心の中でスカイに文句を言うが、まあスカイは悪くない。警戒を怠った俺の責任だ。
「シド、ようやくあきらめてくれたのね。じゃあ、いただきまーーす。」
ネリッサの手が俺のあそこに伸びる。あー、俺の19年間守ってきた貞操が、、いや、よく考えたらネリッサはきれいだし、スタイルもいい。別にそういう関係になることに何の不満もない。むしろこちらからお願いしたいくらいだ。
「シドさーん、ネリッサさん寝室にいませんで、ってー!何やってるんですかー!ネリッサさん!」
シャーレーの声で我に返る。
「んもー、もう少し時間がかかると思ってたのにー」
「離れてくださいっ!」
シャーレーが強引に引き離すことで、俺も静止が解け自由を取り戻せた。もう少し遅くてもよかったなんて思ってないが、うーん、惜しいことをしてしまった気分だ。
「シド、今度は一人で来てね、いっぱいシてあげるから」
「はははっ、」
「シドさん、何かにやついてません?」
ネリッサが手を上下に動かしながら卑猥なポーズでそんなことを言ってきた、苦笑いで返したつもりだったが、にやついて見えたらしい。とにかく、シャーレーの圧がすごいので話を変える。
「今日の会議で話したことについて共有したくてな、まあ、ネリッサがくれた情報をもとにどう動くかってことくらいしか話してないけどな。」
「魔王軍についてよね?あいつらは必ず動いてくるわ。私の固有魔術で確認したから間違いはないはずよ」
ネリッサの固有魔術は空間掌握、この魔術は広範囲の空間で起きている事象のすべてを瞬時に掌握するという魔術だ。法外な力ゆえに、術者本人に多大な負担がかかる魔術だ。この魔術を使い魔人のテリトリーの一部の情報を掌握した結果、魔王軍の侵攻を事前に把握することができた。
「ああ、それで侵攻までの一週間各自戦闘に備えてもらうことにしてる。」
「まあ、今できる最善ってとこかしら、けど魔王以外にも厄介そうなのがいるのよね。」
「ああ、魔王直属の配下、六傑だよな」
ネリッサはうなずき答える。ネリッサからもらっていた情報は魔王軍が侵攻に参加する可能性が高いことと、六傑という厄介そうな敵がいるということだ。もちろん、さきの会議でメンバーに六傑について伝えたが、具体的な対策法は伝えていない。
「私の空間掌握のから得れた情報だと六傑は六大元素それぞれのスペシャリストってところね、戦闘になったら必ず私たちの障害として立ちはだかるわね。」
「それ以外の戦力は?」
「夜の番人の敵ではないわね、魔術師の集いに任せれば十分対処できる戦力だと思うわ。それで、六傑の対策はどうする予定なの?」
当然の疑問を投げつけられる、さきの会議でも聞かれたが俺は答えを濁した、それはまだ俺自身悩んでいるからだ。だが今決めないと、手遅れになる可能性がある。俺は覚悟を決めてシャーレー、スカイ、ネリッサに方針を伝えた。
「六傑は、夜の番人だけで片付ける。対策は集団戦闘ではなく個人戦闘。各個撃破だ。」
この選択が転機だった。そして俺はのちにこの選択を悔やむこととなる。
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