第一章 へっぽこ魔術師と仲間たち
この世界には2つの種族が暮らしている。一つは俺たち人類、もう一つは魔人だ。魔人はその膨大な魔力量で自在に魔術を扱うが、人類は魔術を扱うのに適していないらしい。だから、魔術を扱えるのは一部の魔術師たちだけだ。かくいう俺も魔術師だが...いや、魔術師であるのは本当なんだが、俺は基本魔術が使えない。
基本魔術のほかに、自分にしか使えない固有魔術というものがある。魔術師は必ず一つ固有魔術を持って生まれてくる。俺が使えるのは固有魔術だけだ。基本魔術を使えないと知ったときは絶望したが、あの日の悲劇が俺を奮い立たせてくれた。両親を失った15年前から、ただひたすらに剣を振り続けた。そのおかげで、魔術で身体能力を強化した状態のやつにも戦闘で後れを取ることはなくなった。今の俺なら必ず魔王に剣が届くと確信している。
この世界には、魔術の六大元素というものがある。火、水、風、土、陽、陰に分かれていて魔術師はこの六つのうちのどれかひとつの元素を持って生まれてくる。元素ごとに基本魔術は異なってるから、自分の元素はわかるはずなんだが、あいにく俺は基本魔術が使えない。だから、自分の元素がわからないんだが、固有魔術は、自分の元素の派生や応用になっているケースが多い。それを加味すればおそらく俺の元素は陽ってことになる。
人類は南方に生活圏を持ち、魔人は北方に生活圏を持っている。これは20年前に行われた人魔大戦ののち取り決められたものだ。人魔大戦では、魔術師と魔王軍の全面戦争となった。魔力量の膨大な魔人が優勢かと思われたが、魔王軍はたった一人の魔術師、英雄クライに返り討ちにあい撤退を余儀なくされた。魔王はその後、降伏を宣言するとともに和睦を提案してきた。人類はこれを受け入れ、五年もの間戦乱のない平穏な世が続いた。
しかし、英雄クライの死でこのかりそめの平和は崩れてしまった。魔王がクライの死を知り、人類に対して侵攻を始めた。これが15年前に起きた第一次魔人侵攻である。この侵攻で、俺の両親は死に、人類は領土の半分を魔人に奪われた。この後も魔人は侵攻を進め、二年前に行われた第六次魔人侵攻で、和平時に5:5であった領土は1:9になってしまった。
合計6度もの侵攻を受けながら人類が全滅していないのは、第一次魔人侵攻を受け、今まで個人でしか動いていなかった魔術師が魔術師の集いを結成したことが大きいだろう。魔術の戦闘は基本的にすべての元素を扱えるほうが有利になる。そのため徒党を組むことは合理的だ。
俺は魔術師の集いには参加せずに個人で魔術師を集めてパーティーを組み、魔人侵攻時にいつでも動けるようにしている。パーティーを結成したのは第五次魔人侵攻の少し前だ。初陣となった第五次魔人侵攻、そして第六次魔人侵攻で俺たちのパーティーは侵攻を食い止めるのに貢献し、街では有名なパーティーとして名が通っていた。誰がつけたか俺たちは夜の番人というパーティー名で呼ばれるようになっていた。由来は魔人たちが侵攻してくるのが、魔物が活性化する夜だったためそう名がついたのだとか。魔物は魔人が使役する使い魔みたいなもので、魔力は少ないが、非魔術師を殺すには十分な能力を持っている。
「シドちゃーん、シドちゃーん」
などと考え込んでるうちに後ろから声をかけられた。ちなみにシドというのは俺の名前だ、そして俺をちゃん付けで呼ぶのは一人しかいない。
「どうしたんだ、スカイ」
「これから作戦会議でしょー、家に帰ろうとしたらシドちゃんが見えたから声かけちゃったー」
そう嬉しそうに微笑んで近づいてくる、いや近づいてくるどころか腕をつかまれる。
スカイは俺にだけ距離感がおかしい、まあ長い付き合いだからというのもあるのだろうがそれにしても近すぎる。まあ気にしていても仕方ないのでじゃれてくる猫だと思っておこう。
「そうか、だけどずいぶんと早いなまだ会議まで10分はあるぞ。時間通りに来ることも稀なのに、珍しいこともあるもんだな」
「あー!シドちゃんひっどーい!あたしだって時間通りに来ることくらいあるんだからねー!」
スカイは夜の番人のメンバーで風の元素を扱う魔術師だ。得意な風魔術は斬撃を飛ばしたり、自身のスピードを飛躍的に向上させる魔術だ。性格は天真爛漫、いつもニコニコしているパーティーの末っ子的な立ち位置だ。
「悪い悪い、てっきりシャーレーあたりに叱られたのかと思ってたよ」
「なっなんでしってるの!?」
そういうことらしい、シャーレーは夜の番人のメンバーで水の元素を扱う魔術師だ。得意な水魔術は治癒魔術で戦闘時には後方支援をしてくれている。普段は優しいのだが、怒らせるとパーティー1怖い。スカイは遅刻の常習犯だからシャーレーにこっぴどく叱られたのだろう。
「なんとなくそう思っただけだよ、また遅刻してシャーレーを怒らせる前に向かおう」
スカイと二人で家に向かう。夜の番人は一人を除いてここに住んでいる。この家は魔人侵攻時の活躍による報酬で建てた家だ。おかげで財布の中身はすっからかんだが、拠点という意味でもこの家は非常に役に立っている。しばらく歩いて家に着く。
「たっだいまー!シドちゃんとあたしが帰ったよー!」
「おかえりなさい、シドさん、スカイ」
元気よくスカイが声をかけると奥の部屋からシャーレーが出迎えてくれた。スカイは若干委縮してしまったが、スカイのことだ、しばらくしたらいつも通りに戻るだろう。そしてまたシャーレーに叱られるのが定番となっている。
「ただいま、シャーレー。みんなはもう集まってる?」
「ネリッサさん以外は集まってます。おそらくネリッサさんは不参加だと思いますが」
「そっか、まあネリッサは大事な時にはみんなの役に立ってくれるし、仕方ないね、」
「シドさんが許しても私は許しませんよ!今度会ったときに必ずきつく言っておきますから」
ぷりぷりと怒りながらシャーレーは決心したように語った
「じゃあ少し早いけど会議を始めよっか」
「今日の会議の議題は何ですか?」
シャーレーとスカイと話しながらみんなのいる部屋へとたどり着く。
「今日の議題は、、、第七次魔人侵攻についてだ」
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