第36話「二人の力」
領主の剣が振るわれるたび、空気が震えた。剣圧だけで地面にひびが走り、土煙が舞い上がる。
「ぐっ……!」
カインは拳で受け流そうとしたが、衝撃の重さに体が痺れる。肩口が裂け、血が滲んだ。
「カイン!」
アルトが杖を掲げ、光の矢を連射する。しかし領主は片手で結界を張り、ことごとく弾き返した。矢の破片が夜空に散り、火花のように明滅する。
「小賢しい……」
領主の剣が一閃する。空気を切り裂く衝撃波が、アルトの胸元を直撃した。
「うあっ!」
体が吹き飛び、地面に叩きつけられる。肺から空気が抜け、息が詰まった。
「アルト!」
カインが叫ぶが、領主は追撃の手を緩めなかった。剣の切っ先が容赦なく迫る。
その時――。
「負けないで!」
澪の声が広場を突き抜けた。
「二人なら……二人なら絶対に勝てる!」
木工職人のエマが続いた。
「俺たちに希望を見せてくれ!」
声は一人、また一人と広がっていく。
「カインさん、アルトさん……頼む!」
「俺たちの村を守ってくれ!」
村人たちの声援が夜を震わせた。
カインはふっと目を閉じた。痛みで揺らいでいた意識が澄みわたり、拳に再び力が宿る。
「……そうだ。俺の型は一人じゃ未完成だ」
アルトも膝をつきながら立ち上がる。胸の奥に宿る光が、再び燃え上がった。
「なら僕は、魔法で型を広げる!」
二人は並び立ち、同時に構えを取った。
「来い!」
カインの声に応じ、領主が剣を振り下ろす。
今度は違った。
カインの体は流れるように動いた。拳で受けるのではなく、肩から腰、足裏まで連動させ、剣の力をいなし、流す。まるで川が岩を迂回するように。
「なに……!」
領主の体勢がわずかに崩れる。
その隙に、アルトが踏み込んだ。彼の足先が光に包まれる。
「光閃脚!」
杖を支点にし、体を回転させた。光を纏った蹴りが、領主の剣と激突する。激しい閃光が弾け、結界が軋む音が響いた。
「ぐっ……!」
領主が初めて後退する。
「カイン!」
「おう!」
カインは再び型を繰り出した。拳、肘、膝、足――すべてが流れるように繋がり、ひとつの連撃となる。領主の剣を次々と受け流し、崩し、攻め立てる。
その横でアルトが魔法を重ねる。光の矢が連撃に合わせて放たれ、まるで二人が一つの身体になったかのような連携を見せた。
「これが……俺たちの……型だッ!」
カインの拳が領主の剣を弾き飛ばす。
「光と型が重なれば……!」
アルトが跳び上がり、蹴りを放つ。
「砕けろ!」
光を纏った蹴りが、ついに領主の胸を直撃した。轟音とともに衝撃波が広がり、領主の体が膝をつく。
「……っ、この私が……!」
領主の歯ぎしりが広場に響く。
だが村人たちの目には、もう恐怖はなかった。彼らは歓声を上げ、拳を突き上げる。
「やったぞ!」
「二人が押してる!」
希望の炎が広場を満たす。
領主はなお立ち上がろうとしたが、その顔に焦りが浮かんでいた。
カインとアルトは互いに頷き合い、最後の構えを取った。
「次で決めるぞ」
「うん、一緒に!」
村の命運を懸けた戦いは、いよいよ最終局面へと突き進んでいった。




