第37話「領主の敗北」
「村人ごときが……この私に逆らうか!」
領主の咆哮とともに、巨剣が振り下ろされた。刃から生じた衝撃波が地面を裂き、砂煙が吹き荒れる。だが、もう村人たちは逃げなかった。
カインとアルトの背中を見つめ、声援を送っていたからだ。
「まだだ……終わらせるのは俺たちだ!」
カインが拳を握り直す。全身の血が沸き立つように流れ、動きが研ぎ澄まされていく。
「来いよ、領主……俺の型は、もう一人じゃ止められねぇ!」
「光よ、彼と共に――」
アルトは胸元に光を集め、杖を構えた。視線を交わすと、二人の呼吸は自然と重なった。
再び剣が迫る。
カインは一歩踏み込み、肩をずらし、拳で軌道を押し流す。重圧を受け止めるのではなく、流す――それは彼が編み出した「型」の真髄だった。
「ぐっ……!」
領主の体勢がわずかに揺らぐ。
そこへ、アルトの声が響いた。
「光槍!」
矢のように鋭い光がカインの拳の動きと同調し、領主の側面を打ち据える。光と打撃の連撃に、領主の剣筋が狂わされた。
「なに……この程度で!」
怒声とともに、領主は結界を張り直す。だが――。
「諦めねぇのは、俺たちも同じだッ!」
カインが膝蹴りを放ち、連動してアルトが光矢を撃ち込む。二人の攻撃は波のように重なり合い、結界にひびが走った。
「……馬鹿な!」
領主の目が見開かれる。己が絶対だと信じていた魔力障壁が、村人の声援と二人の連携によって揺らいでいる。
その瞬間だった。
「やれーッ!」
「負けるな!」
村人たちの声が夜空を突き抜けた。澪の叫び、エマの拳、老人たちの震える声までが、二人を押し上げる。
「これが……俺たちの力だ!」
カインの拳が閃光を放ち、領主の剣をはじき飛ばす。金属音が虚空に響き、剣は土に突き刺さった。
「終わりだ、領主!」
アルトが跳躍する。全身を光が包み込み、杖を蹴り台のように使って回転――。
「光閃脚ッ!」
放たれた蹴りが胸甲を砕き、白光が爆ぜた。轟音とともに領主の巨体が膝をつき、地面を抉る。
「ぐぅ……この、私が……村人などに……!」
血を吐きながら立ち上がろうとするが、足は震え、もはや動かない。
「俺たちは……村人じゃねぇ」
カインが前に立つ。
「この村を守る者だ!」
アルトが横に並び、光を杖に収める。
その言葉に呼応するように、村人たちが広場へ駆け寄った。誰も剣を持っていない。ただ、彼らの目には恐怖の影がなかった。
「降参しろ、領主!」
「もうお前に従う者はいない!」
兵士たちが次々と武器を落とす音が響いた。恐怖に支配されていた彼らも、もはや戦う意志を失っていた。中には逃げ出す者もいたが、大半はその場に座り込み、領主を見限った。
領主は最後の力を振り絞り、カインを睨みつける。
「……私が……こんな……!」
その声は怒りではなく、崩れ落ちる敗北の呻きだった。
村人たちの歓声が夜を震わせる。
「勝ったぞ!」
「カイン! アルト! ありがとう!」
広場の空気が一気に解き放たれ、涙を流す者、抱き合う者が溢れた。
カインは拳を下ろし、深く息を吐いた。
「終わったな……」
アルトが笑みを浮かべ、隣に並ぶ。
「うん。でも、ここからが始まりだよ」
領主が倒れ、圧政の夜は終わりを告げた。
村には新しい光が差し込み始めていた。




