第34話「領主の怒り」
巨漢と槍使いが土に沈み、広場に静寂が戻った。
「……ば、馬鹿な」
馬上の領主は、顔を紅潮させて震えていた。
「精鋭が……村人ごときに……!」
兵士たちの列に動揺が走る。後退する者、仲間と顔を見合わせる者――勢いは明らかに削がれていた。
だが、広場の村人たちは逆に熱を帯びていた。
「やれるぞ!」
「俺たちの村は負けない!」
歓声が広がり、恐怖を吹き飛ばす。
澪は両手を高く掲げ、村人に合図を送った。
「みんな、準備はいいね!」
畑のあぜ道に隠された落とし穴、木柵の影に並べられた瓶――その中でぬるりと揺れるのは小さなスライムだ。
カインが腕を組み、にやりと笑った。
「型と工夫を積み重ねりゃ、戦場だって道場になる。見せてやれ!」
アルトも杖を掲げる。
「光は恐れを追い払う。さあ、立ち向かおう!」
領主が怒号を上げる。
「まだ立ち尽くすか! 進め! あの鼠どもを踏み潰せ!」
兵士たちは渋々前進した。槍の列が迫る。
「今だ、投げて!」
澪の声に応じて、村人たちが瓶を放った。
ガシャーン!
地面に叩きつけられた瓶が割れ、透明なスライムが兵士の足を絡め取る。
「うわっ、動けねぇ!」
「またこれかぁっ!」
次々と足が鈍り、列が乱れていく。
そこへ――地面が崩れた。
「ぎゃああ!」
前列の兵士たちが、掘られていた落とし穴に次々と落ちていく。
混乱する兵の目に、突然まばゆい光が炸裂した。
アルトが杖を振り下ろし、光魔法の閃光を放ったのだ。
「目が、見えねぇ!」
兵士たちは目を覆い、列が完全に乱れる。
その隙に、村人たちが飛び出した。
カインが指示する。
「型通りにやれ! 掴まれたら流せ、打つなら腰を回せ!」
若者が拳を突き出し、女たちが体をひねって腕を振りほどく。子どもですら小さな体を使って相手を押し返した。
「うおっ、なんだこの動きは!」
兵士たちは次々と体勢を崩され、戦列はさらに崩壊していった。
「ふ、ふざけるなああ!」
領主が馬上から剣を振り上げる。顔は怒りに染まり、声は裏返っていた。
「村人が武を持つなど……許されぬ!」
しかしその怒声を前にしても、村人たちはもう怯えなかった。
澪は胸を張って叫ぶ。
「私たちは生きるために戦う! 知恵と勇気で、この村を守るんだ!」
アルトは杖を構え直し、カインは拳を握りしめる。
領主と村人たちの戦いは、いよいよ決定的な局面を迎えようとしていた。




