第33話「アルトとカイン」
巨漢が雄叫びをあげ、大斧を振り下ろした。
刃が風を裂き、地面を叩き割る。砂と土が爆ぜて舞い上がり、その場にいた若者が悲鳴を上げて飛び退いた。
「下がってろ!」
カインが叫び、巨漢の懐へ踏み込む。
迫る斧の軌道を読み取り、腰を沈めて身をひねる。刃は紙一重で頭上をかすめ、重みに耐えきれず地面をえぐった。
「ぐっ……この怪力を、受け流すだと!?」
巨漢が目を見開く。
カインは腕を組んだ型の動きを繰り出す。
受け、流し、踏み込み、打ち。村人たちと繰り返した稽古の「型」を、今度は一人で連続して放つ。拳が大斧の柄を叩き、蹴りが巨漢の脚を揺らす。
「型はただの真似事じゃねえ。積み重ねりゃ力を超える!」
巨漢は怒号を上げ、再び斧を振るう。しかしその度に動きをずらされ、足を払われ、体勢を崩していく。観戦していた兵士たちは信じられないように声をあげた。
「まさか……素手で、あの大斧を押さえ込んでる……!?」
一方その頃、戦場の反対側では、アルトと槍使いが激しく刃を交えていた。
槍の突きは速い。目で追えぬほどの連撃が、矢継ぎ早に襲い掛かる。
「くっ……!」
杖で受け止めても、衝撃で腕が痺れる。数歩押し戻され、背後に土埃が舞う。
「速さで勝てぬなら――合わせるまでだ!」
アルトは大きく息を吸い込み、杖を地に突いた。
その動きは武術の「蹴りの型」。
片足を高く振り上げ、同時に魔力を練る。足先に光がまとい、火花のような輝きが生まれた。
「はああっ!」
蹴りが振り下ろされると同時に、光弾が飛び散った。
次々と連続で放たれる光の弾丸が、槍の間合いを崩していく。
「なっ……蹴りの型から魔法が放たれた!?」
驚愕する兵士たちの声が上がる。
槍使いは必死に突きを繰り出すが、光弾に押し返され、間合いを維持できない。ついに足元を狙われ、火花が爆ぜる。
「ぐっ……!」
槍使いの体勢が大きく崩れた。
「魔法と武術……一つになった!」
アルトは瞳を燃やし、さらに踏み込む。
その頃、巨漢もまた劣勢に立たされていた。
「ぐあああっ!」
カインの肘打ちが鎧の隙間を突き、巨体がよろめく。続けざまに低い蹴りで膝を崩され、地響きを立てて地に膝をついた。
「終いだ!」
カインが拳を突き出す。その勢いは、村人たちの声援を背に受けていた。
「いけええっ!」「倒せ!」
拳が巨漢の顎を打ち抜き、兜が宙を舞った。白目を剥いた巨体が前のめりに倒れ込み、土煙をあげる。
ほぼ同時に、アルトの光弾が槍を弾き飛ばした。
「うわあっ!」
槍使いはよろけ、背後の精鋭兵たちも連鎖的に倒れていく。
静寂。
次の瞬間、村の広場に歓声が爆発した。
「やったぞ!」「倒したんだ!」
兵士たちは後ずさり、動揺を隠せない。
「嘘だろ……領主様の精鋭が……!」
「たかが村人に……!」
カインは大きく息を吐き、肩を回した。
「ふう……こいつらを倒せりゃ、まだやれる」
アルトは杖を構え直し、戦場を見渡す。
「次は……本当の勝負だな」
巨漢と槍使いが倒れた今、村と領主の戦いは新たな局面に入ろうとしていた。




