第31話「村人たちの反撃」
鉄靴の響きが迫り、村の外柵が揺れるほどの圧が伝わってきた。
槍を構えた兵士たちが先陣を切り、鬨の声を上げながら突進してくる。
「来たぞ――備えろ!」カインの怒声が広場に響いた。
次の瞬間、兵士たちの足元が崩れる。
隠されていた落とし穴に、何人もがまとめて落ち込んだ。
「うわっ!?」「助けろ!」
泥水と枯草で偽装された穴にずぶずぶとはまり、鎧の重みで身動きが取れない。
「今だ、閃光!」
アルトの合図とともに、柵の影から子どもたちが両手を掲げた。
小さな声で詠唱し、掌から弾けた光が空を裂く。
「うわあっ、目が……!」
兵士たちが一斉に目を押さえ、隊列が崩れる。
そこへ飛んできたのは、瓶の破片。
「皆投げて!」澪の声に、村の女たちが一斉に腕を振った。
地面に叩きつけられた瓶から、ぬるりと半透明の塊が広がる。
――スライムだ。
とろみのある粘液が兵士の脚を絡め、鎧の隙間に入り込み、立ち上がろうとする者を容赦なく引きずり倒す。
「こ、これは……!?」「ぬめって……動けねえ!」
規律ある行進は乱れ、怒号と悲鳴が交じり合った。
柵の後ろでは、薬草を煎じる煙が立ちのぼる。
「傷はここに! すぐ縛るから!」
「大丈夫、ヨモギで血は止まる!」
女たちが手際よく傷口を処置し、倒れた者を引き上げる。
負傷してもすぐに戻れる。
その姿に、前線の若者たちの胸が熱くなった。
「……俺たち、本当にやれてるぞ!」
誰かが叫んだ。
その声は、恐怖ではなく昂ぶりを帯びていた。
押し寄せる兵士の波に、盾を持った若者が立ちはだかる。
「はああっ!」
カインから叩き込まれた「型」を思い出す。
息を合わせ、二人が同時に盾を押し出す。
衝撃が伝わり、兵士が後ろへ弾き飛ばされた。
「次だ! 蹴りを合わせろ!」
掛け声と共に、横に並んだ三人が同時に足を振り上げる。
規律正しい兵士の攻めを、一瞬、押し返した。
「な、なんだこの村は……!」
「ただの無能な村人じゃなかったのか!?」
混乱する兵たちの声があちこちで上がる。
後方に控えていた領主は、馬上からその光景を見て顔を歪めた。
「愚民どもが……この私を愚弄するか!」
鞭を握る手が震え、憎悪の視線を村に突き刺す。
だが村の広場では、恐怖よりも熱が渦巻いていた。
薬草の香り、焚き火の煙、子どもたちの光が交じり合い、誰もが声を上げずにはいられなかった。
「押し返せ!」
「俺たちの村を守るんだ!」
恐れはもうない。
響く声は戦の叫びではなく、生き抜こうとする意志そのものだった。
そして戦場は、ますます混沌へと変わっていく。




