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異世界スローライフ誌編集長  作者: やしゅまる


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第24話「剣と筆」

秋の風が乾いた木の葉をさらい、村の広場を吹き抜けていった。

 そこでは、澪とトマスが大きな木版を前に座り、彫刻刀を走らせている。


 「次はヨモギとドクダミね。煎じ方を載せておこう」

 澪は額の汗を拭いながら、紙に走り書きした下絵を木板の横に置いた。

 「保存食の続きもだな。干した魚のやり方を描いておかないと」

 トマスがうなずき、木を削る音が続く。


 刷り上がった紙の束には、薬草図鑑、保存食の作り方、石鹸の手順などが並んでいた。素朴な字と挿絵が工夫され、子どもでもわかる。村人たちは目を輝かせて紙を抱きしめていた。


 「……すげえ、本当に字になってる」

 「これがあれば、病気のときも助かるな」


 澪の胸は温かくなる。だが同時に、領主の影が迫っている不安も消えなかった。


 ◇

 一方、広場の隅ではカインが若者たちを集めていた。

 「まずは基本姿勢。腰を落として、膝は軽く曲げる。肩はリラックスだ」

 若者たちは苦しげに膝を曲げ、腕を振る練習を始める。


 「次は型だ。殴る蹴るの動きを流れるように繋げる。相手に当てなくていい。手首や足首を痛めないよう、空間を意識する」

 カインは一つの型を示す。右手を前に突き出し、腰を軽く回転させ、左足で前蹴りを軽く踏み出す。手を引き、回避の動作を入れ、最後は押し返すように両手を前に出す。

 「力は使わなくていい。体の流れを覚えることが大事だ」


 子どもや女性たちが真似をする。最初はぎこちなく、腕や脚が空を切る。しかし、失敗しても笑いながら繰り返すうちに、動きが滑らかになっていく。広場には笑い声と、軽やかな足音が響いた。


 「型を覚えたら、少しずつ筋トレだ。腕立て、スクワット、体幹を意識しろ」

 カインは若者たちの動きをチェックし、腰の位置や手の角度を直す。子どもたちも小さな体で腕立てやスクワットを試し、楽しみながら筋肉を動かす。

 「体が動けば、型も自然に流れる。これが力に頼らず守る技だ」


 アルトは別の一角で、子どもたちに光の玉を浮かせてみせた。

 「これができれば、夜に敵を眩ませることができる」

 「わあ、きれい!」

 掌の上に淡い光が生まれ、子どもたちが歓声を上げる。


 さらに、エマは木槌を打ち鳴らしながら作業していた。

 「持ってみて! 前に作ったやつより軽いでしょ?」

 彼女が作ったのは、改良型の軽い木の盾だった。子どもでも抱えられる大きさで、裏には革紐が付いている。

 「剣なんか振れなくても、これで守れる。柵も補強しておいたから安心して」


 ◇


 日が傾き、焚き火が広場を照らすころ。

 薬草を唱える声と、型を繰り返す掛け声が混じり合った。


 「本ばかり作ってどうする。腹は膨れんぞ」

 「鍛えても、兵士に敵うもんか」


 不安に揺れる声が広がる。知識を信じる者と、力を求める者。互いの言葉が衝突し、空気がざわめいた。


 「やめて!」

 澪は立ち上がった。手には刷ったばかりの紙を抱えている。

 「筆で守るか、体で守るか、どっちが大事かなんて争っても仕方ない!」


 皆の視線が集まる。澪は声を張り上げた。

 「本があれば病気に立ち向かえる。でも鍛えなきゃ兵士に奪われる。どっちも必要よ! 筆と体、両方で守らなきゃ!」


 焚き火の音だけが響く。やがてカインが腕を組んでうなずいた。

 「……確かに。知識があっても守れなきゃ奪われる。だが力だけでも未来は築けん」

 アルトが光玉を浮かせて言葉を添えた。

 「知識と技。二つが揃って初めて道になる」


 次第に人々の表情が和らぎ、笑い声が戻っていった。


 ◇


 その夜から、夜学は大きく形を変えた。

 広場の半分では澪とトマスが薬草や保存食を教え、もう半分ではカインが型と筋トレを指導する。アルトの魔法とエマの盾が支えとなり、子どもから老人までが加わった。


 焚き火に照らされるその光景は、一つの学校のようだった。

 剣ではなく、型と筆。知識と力。

 村は二つの柱を得て、静かに変わり始めていた。


 澪はその様子を見つめ、胸の奥に熱を覚えた。

 「……これが、本当に未来を守る力になる」


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