第22話「領主の圧力」
翌週、村に領主の役人たちが押しかけてきた。
「税を前倒しで納めてもらう。領主様のお言葉だ」
淡々とした声とは裏腹に、その眼差しは人を値踏みするように冷たかった。
村人たちの顔色がみるみる青ざめる。収穫はまだ先、手元にあるのはわずかな備蓄だけだ。
「そ、そんな急に言われても……!」
老人が声をあげたが、役人は冷笑を浮かべるだけだった。
「ならば土地を手放せ。あるいは娘を奉公に出すがいい」
その言葉に、村人たちの拳が震えた。だが誰も刃を抜くことはできない。敵は領主の権威を背負っている。反抗すれば即座に「反乱」として処罰されるのだ。
◇
税を納めるため、村は急遽作物を売りに出した。だが金に替えるほどの余裕はなく、台所は一気に苦しくなった。
「……食べ物が、足りなくなる」
エマが不安げに呟く。
澪は深呼吸をし、村人を広場に集めた。
「今ある知識を使おう。領主に奪われても、生き抜く方法はある」
彼女は最初の夜学を思い出すように、どんぐりを拾い集めて見せた。
「アクを抜けば、これだって団子やパンになる。昔は飢饉を乗り越えた人たちがいるんだ」
女たちがうなずき、子どもたちが歓声をあげながらどんぐりを集め始める。
粉をこね、石の上で焼き上げると、香ばしい匂いが漂った。質素だが腹を満たす力はあった。
◇
薬草も活用された。
風邪が流行り始めても、ハハコグサの煎じ薬が人々を助ける。
「高い薬を買わなくても、自然に頼れば治せるんだな……」
村人たちは驚きと安堵を口にした。
さらに冷却箱が役立った。氷の魔石と井戸水を使い、わずかな食糧を長持ちさせる。
「肉を塩漬けにして冷却箱に入れれば、一週間は持つ」
アルトが指示を出し、皆で保存食作りに取りかかった。
◇
しかし、知恵を尽くしても限界はある。
夜、焚き火を囲み、カインとアルトが向かい合った。
「これ以上、領主の圧力が強まれば……」
カインの声は低く、鋭い。
「武力衝突は避けられんだろう」
アルトは黙って炎を見つめた。
「俺も同感だ。だが、まだ村人はその覚悟ができていない。知識で守れるものは守るべきだ」
「……それでも、剣を握らねばならない時は来る」
カインは拳を握りしめた。
焚き火の赤が二人の横顔を照らす。澪は少し離れた場所で筆を走らせていた。
「圧力に屈しない方法を、もっと書かなきゃ……。どんぐりの団子も、薬草の煎じ方も。全部、力になる」
彼女の紙面に刻まれる文字は、村人の心を支える灯火だった。
◇
翌朝、村人たちはどんぐり団子を手に取り、薬草を干し、冷却箱を覗いた。
まだ足りない。まだ苦しい。
だが――確かに生き延びている。
「俺たち、知恵で戦ってるんだな」
誰かがぽつりと漏らした。
その言葉に、皆が小さく笑った。
武も魔も、知識も。
全てを総動員しなければ、この圧力には抗えない。
村に重苦しい影が落ちる一方で、確かに燃え続ける炎があった。
それは絶望を覆すほど小さな火種だったが、確かにここに息づいていた。




