第七章 「宛先不明」
二〇一九年。
中学生だった。
小学校を卒業してから、林花と一度も連絡を取らなかったわけではない。
中学に入ったあとも、ときどきメールをした。
何週間も話さない時期があったかと思えば、急に昔のような速さで返信が続く日もあった。学校のことを話し、相談をし、また会おうという話もした。
ただし、恋人ではなかった。
少なくとも僕は、そう理解していた。
林花が僕を好きなのか、友達としてなら話せるということなのか、そのたびに考えた。答えが出ないうちに会話は終わり、またしばらく連絡が途切れた。
六年生のころの僕らには、話を終えることの方が難しかった。
中学生になった僕らには、話を始める理由が必要だった。
それでも、完全に切れたわけではないと思っていた。
春、何日かメールを交わした。
林花は、またいつでもメールしていいという意味のことを書いた。僕は礼を言い、おやすみと返した。
それから、林花の返事が来なくなった。
僕の方から送ったメールもあった。届いているのか、読まれているのか分からなかった。
以前から、メールがひどく遅れて届くことはあった。数日前の文面が今届いた、と言われたこともある。
だから最初は、端末か回線の問題だと思った。
そのまま何か月かが過ぎた。
僕は普通に中学校へ通い、普通に友達と過ごしていた。林花のことを毎日考えていたわけではない。
もう、連絡は来ないのだと思っていた。
七月のある夜、林花からメールが届いた。
短いメールだった。
> いきなりごめん。
>
> 暇な日があったら、会いたい。
>
> もう付き合っている子がいるなら、気にしないで。
二文目までは分かった。
三文目があるせいで、意味が分からなくなった。
ただ昔の友達として会いたいだけなら、僕に付き合っている相手がいるかどうかを、そこまで気にする必要はないようにも思えた。
だからといって、別の意味があると決めることもできなかった。
なぜ今なのかは書かれていなかった。
謝りたいのか。
昔のことを話したいのか。
ただ懐かしくなっただけなのか。
それとも、僕が期待してはいけないような意味があったのか。
分からなかった。
けれど、林花の方から僕に会いたいと言った。
その事実だけで、終わったと思っていたものが少し動いた。
僕は、きれいな返事を書けなかった。
会いたい、と先に返せばよかったのかもしれない。
実際に送ったのは、急にどうしたのか、連絡も急にできなくなっていたのに、という意味の文章だった。
驚きが、そのまま言葉になった。
責めたかったわけではない。
でも、受け取る側にはそう見えたかもしれない。
送信して少しすると、エラーを知らせるメールが返ってきた。
宛先のメールアドレスは存在しないか、メールを受け取れない状態になっている。
受け取ったメールに、そのまま返信しただけだった。打ち間違えるはずはなかった。
もう一度送った。
結果は同じだった。
数時間前まで存在していたはずの宛先が、なくなっていた。
林花がメールを送ったあとでアドレスを変えたのか、端末の設定によるものだったのか、別の理由があったのかは分からない。
僕には、ほかに連絡する方法がなかった。
電話番号も知らなかった。使っているSNSも知らなかった。
共通の知人に頼めば、何か分かったのかもしれない。
そこまでして追いかけていいのか、僕には判断できなかった。
会いたいという言葉だけが届いた。
僕の返事は届かなかった。
しかも僕が返そうとしたのは、僕も会いたい、ではなかった。
急にどうした。
最初に出てきたのは、その言葉だった。
林花がそのあと何を思ったのかは分からない。
返事がなかったと思ったのかもしれない。
送ったこと自体を後悔したのかもしれない。
僕には確かめられなかった。
扉が開いたと思った瞬間、その扉はもう存在しなかった。




