第二章 「大富豪」
六年生になって、僕と林花は同じクラスになった。
そのころには、僕はもう転校生ではなくなっていた。
廊下を歩くだけで見られることもなかったし、教室でどう振る舞えばいいのかも分かっていた。昼休みに一人で本を開いていることは減った。
代わりに、トランプを開くようになった。
教室の机を寄せて、何人かで大富豪をした。
配られた手札を扇形に持って、弱いカードから順番に減らしていく。細かいルールはそのとき一緒に遊ぶ相手によって少しずつ違ったけれど、先に手札をなくした人が勝つことだけは同じだった。
僕はそういう遊びが嫌いではなかった。
会話を続けるのが目的ではなくても、同じ場所にいられる。何を話せばいいのか考えなくても、カードを出せば次へ進む。
林花も、その輪の中にいた。
五年生のころに廊下ですれ違っていたのかもしれない。でも、僕が林花をはっきり覚えているのは、このあたりからだ。
教室では、かなり話した。
何を話していたのかはほとんど残っていない。授業のことや、クラスの誰かのことや、その日のどうでもいい出来事だったと思う。
内容は忘れたのに、よく話していたことだけは覚えている。
林花は、よく僕の近くに来た。
昼休みになればトランプの輪に入ったし、教室でも気づけば近くにいた。林花の友達も一緒にいることが多かった。
最初は、特に理由を考えなかった。
同じクラスなのだから話すことはある。大富豪をするなら、同じ机の周りに集まるのも普通だった。
ただ、それが何度も続いた。
僕と林花が一緒にいると、周りの子がからかうようになった。
小学生のからかいに、複雑な種類はない。
二人で話している。
よく近くにいる。
なら、どちらかがどちらかを好きなのだろう。
だいたい、それだけだった。
僕らは否定した。
否定すると、余計にからかわれた。
教室で大富豪をしているだけなのに、周りから何か言われる。面倒になって、僕らは場所を変えた。
使われていない教室へ行った。
僕と林花と、林花の友達。
三人でトランプを持って移動して、昼休みが終わるまで大富豪をした。
わざわざ空き教室まで行って何をしていたのかと聞かれたら、本当にカードで遊んでいただけだった。
特別な話をしたわけでもない。
二人きりだったわけでもない。
それでも、教室から離れたことで、三人だけの時間になった。
廊下の向こうに普段の教室のざわめきがあって、僕らは別の教室でカードを配った。
林花は、そこでも僕の近くにいた。
からかわれるのが嫌なら、僕から離れればよかったはずだ。
大富豪なら他の子ともできる。わざわざ場所を変えてまで、同じ三人で続ける必要もなかった。
でも、林花は来た。
教室でも話しかけてきた。
昼休みになれば、また近くにいた。
本人に聞いたわけではなかった。
証拠と呼べるものもなかった。
ただ、同じことが何度も続けば、偶然として扱う方が難しくなる。
あるとき僕は、かなり単純な答えにたどり着いた。
この娘、僕のことが好きなんじゃないか。
そう気づいたとき、僕の方はまだ、自分が林花をどう思っているのか分かっていなかった。




