表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Vyper:ゼロから始める虚無に覆われたパラレルワールド  作者: 森田
第一章 『首都での一日』
8/9

第一章7  『命がけで走れ』

蹴りの勢いは凄まじく、少年は吹っ飛んで、すでに崩れていた木材の山に叩きつけられた。


体が、ねじれた。


「ちっ……」


「い、痛……」


奥歯を噛み締める。


赤毛の少年が剣を抜き、鋭い身のこなしで敵へ斬り込んだ。


その間、シンジロウはただ痛みの中で悶えていた。何もできない自分が、ひどく惨めだった。


「だ、大丈夫……」


「立て」


自分の手が体を押し上げようとした。


だが起き上がろうとした瞬間――何かが腹から零れ落ちるのを、目で追ってしまった。


それが何なのか、理解した時には、自分の上に落ちていた。


「熱い……」


初めてだった。こんなにも長く、苦しい死に方は。


「熱い……熱い……」


周囲に煙が立ち込め始めた。零れ落ちたそれは、ぬめぬめとした、ゼラチン質の感触だった。生温かいのに、灼けるように熱かった。


その間も、遠くからは赤毛の少年と少女が共に戦う音が聞こえていた。


――シンジロウのことは、忘れていた。


「な、なんで……置いていくんだ……」


瞼を閉じた。白い光が広がった。


爆発より前に、戻る。


◆◆◆◆


体がベッドから起き上がり、床に嘔吐した。


「も、戻った……」


息を吸って、吐いた。落ち着こうとした。


だが落ち着く前に――臓腑の感触が蘇ってきた。あの灼けるような痛みが。


爆発の記憶が、脳裏に叩きつけられた。


「ちっ……」


素早く起き上がり、声を上げた。


「ここを出なきゃいけない」


「なぜなら――」


「全部爆発するんだ。本当に、早く出ないと」


赤毛の少年と少女は、揃って目を丸くした。


だが赤毛の少年が、シンジロウへ初めての問いを投げかけた。


「……名前は?」


シンジロウは一瞬だけ驚いて、それから苦い笑みを浮かべた。


「西郷シンジロウ。そっちは?」


二人が答えた。


「デンナ・ストレア」


「俺はデイタン・ストレア」


「二人とも王族だ。俺が王子で、こいつが王女――つまり、兄妹だ」


シンジロウは目を丸くした。


「……そうか」


薄く笑って、爆発のことを思い出した。


「まあいい。とにかく早く出よう。鳥肌が止まらない」


『――信じるしかない、か……』


宿を出た瞬間に、爆発が起きた。

デンナとデイタンが言葉を失っていた。


「急ごう」


シンジロウが言った。


だが動き出す前に――また、死んだ。


今度は一瞬だった。

時間の流れが早くなっていた。何度も、何度も死んで、何度も全てを変えようとしていた。


だがどの試みでも、あの「王子」たちは助けてくれなかった。


死んだ回数など、もうわからない。


数えるとすれば――二十五回、といったところか。


心が、ひび割れ始めていた。

デンナとデイタンへの信頼が、少しずつ砂になって崩れていった。


『……あいつらは何度も俺を裏切った』


『なぜ俺だけが、裏切れない』


『もし俺を殺そうとしたら』


『――その前に、俺が殺す』


次に目を覚ました時、シンジロウはまだ意識がないふりをした。


デイタンが爆発の様子を見に行くのを待った。


姿が消えた瞬間、素早く起き上がった。デンナが微笑みかけた――彼が無事だったことを喜ぶように。


その笑みが消えたのは、少年が彼女を床に突き飛ばした瞬間だった。


シンジロウの指が、少女の首に触れた。


力を込めた。


少女の口から泡が滲んだ。抵抗しようとした手が、彼の体を押しのけようとした。


――無駄だった。


少女は、窒息して動かなくなった。


「死ね……」


首を掴んだまま、床に叩きつけた。


「とっとと、死ねっ……」


動かなくなったのを確認して、立ち上がり、宿を飛び出した。


デイタンのことは確認しなかった。確認する必要もなかった。行かせたのだから。


おそらく今頃、首が繋がっていないか、繋がりかけているかのどちらかだ。


「ただ、生きたい……」


「生きたい」


病んだ笑いが漏れた。


そしてまた、死んだ。今度はずっと苦しい死だった。


地面に倒れ、血の中に沈んでいった。


『馬鹿、め……』


――死んだ。


目が覚めた瞬間、飛び起きた。


目の下には隈が浮かんでいた。涙が溢れた。

髪は以前よりもひどく乱れていた。


起き上がって、宿から走り出た。


「生きたい!」


「もう死にたくない!」


泣きながら、走った。走り続けた。


「あいつらのせいだ、絶対にそうだ!」


後ろを振り返らずに、ただ走った。


――本当のことを言えば、俺はあの言葉に同意できない。


かつてのシンジロウは、そんな風には思わなかったはずだ。


走り続けた足が、何かに引っかかった。


地面に倒れた。


「怖い……」


泣き声が漏れた。


「も、もう死にたく……ない……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ