第一章7 『命がけで走れ』
蹴りの勢いは凄まじく、少年は吹っ飛んで、すでに崩れていた木材の山に叩きつけられた。
体が、ねじれた。
「ちっ……」
「い、痛……」
奥歯を噛み締める。
赤毛の少年が剣を抜き、鋭い身のこなしで敵へ斬り込んだ。
その間、シンジロウはただ痛みの中で悶えていた。何もできない自分が、ひどく惨めだった。
「だ、大丈夫……」
「立て」
自分の手が体を押し上げようとした。
だが起き上がろうとした瞬間――何かが腹から零れ落ちるのを、目で追ってしまった。
それが何なのか、理解した時には、自分の上に落ちていた。
「熱い……」
初めてだった。こんなにも長く、苦しい死に方は。
「熱い……熱い……」
周囲に煙が立ち込め始めた。零れ落ちたそれは、ぬめぬめとした、ゼラチン質の感触だった。生温かいのに、灼けるように熱かった。
その間も、遠くからは赤毛の少年と少女が共に戦う音が聞こえていた。
――シンジロウのことは、忘れていた。
「な、なんで……置いていくんだ……」
瞼を閉じた。白い光が広がった。
爆発より前に、戻る。
◆◆◆◆
体がベッドから起き上がり、床に嘔吐した。
「も、戻った……」
息を吸って、吐いた。落ち着こうとした。
だが落ち着く前に――臓腑の感触が蘇ってきた。あの灼けるような痛みが。
爆発の記憶が、脳裏に叩きつけられた。
「ちっ……」
素早く起き上がり、声を上げた。
「ここを出なきゃいけない」
「なぜなら――」
「全部爆発するんだ。本当に、早く出ないと」
赤毛の少年と少女は、揃って目を丸くした。
だが赤毛の少年が、シンジロウへ初めての問いを投げかけた。
「……名前は?」
シンジロウは一瞬だけ驚いて、それから苦い笑みを浮かべた。
「西郷シンジロウ。そっちは?」
二人が答えた。
「デンナ・ストレア」
「俺はデイタン・ストレア」
「二人とも王族だ。俺が王子で、こいつが王女――つまり、兄妹だ」
シンジロウは目を丸くした。
「……そうか」
薄く笑って、爆発のことを思い出した。
「まあいい。とにかく早く出よう。鳥肌が止まらない」
『――信じるしかない、か……』
宿を出た瞬間に、爆発が起きた。
デンナとデイタンが言葉を失っていた。
「急ごう」
シンジロウが言った。
だが動き出す前に――また、死んだ。
今度は一瞬だった。
時間の流れが早くなっていた。何度も、何度も死んで、何度も全てを変えようとしていた。
だがどの試みでも、あの「王子」たちは助けてくれなかった。
死んだ回数など、もうわからない。
数えるとすれば――二十五回、といったところか。
心が、ひび割れ始めていた。
デンナとデイタンへの信頼が、少しずつ砂になって崩れていった。
『……あいつらは何度も俺を裏切った』
『なぜ俺だけが、裏切れない』
『もし俺を殺そうとしたら』
『――その前に、俺が殺す』
次に目を覚ました時、シンジロウはまだ意識がないふりをした。
デイタンが爆発の様子を見に行くのを待った。
姿が消えた瞬間、素早く起き上がった。デンナが微笑みかけた――彼が無事だったことを喜ぶように。
その笑みが消えたのは、少年が彼女を床に突き飛ばした瞬間だった。
シンジロウの指が、少女の首に触れた。
力を込めた。
少女の口から泡が滲んだ。抵抗しようとした手が、彼の体を押しのけようとした。
――無駄だった。
少女は、窒息して動かなくなった。
「死ね……」
首を掴んだまま、床に叩きつけた。
「とっとと、死ねっ……」
動かなくなったのを確認して、立ち上がり、宿を飛び出した。
デイタンのことは確認しなかった。確認する必要もなかった。行かせたのだから。
おそらく今頃、首が繋がっていないか、繋がりかけているかのどちらかだ。
「ただ、生きたい……」
「生きたい」
病んだ笑いが漏れた。
そしてまた、死んだ。今度はずっと苦しい死だった。
地面に倒れ、血の中に沈んでいった。
『馬鹿、め……』
――死んだ。
目が覚めた瞬間、飛び起きた。
目の下には隈が浮かんでいた。涙が溢れた。
髪は以前よりもひどく乱れていた。
起き上がって、宿から走り出た。
「生きたい!」
「もう死にたくない!」
泣きながら、走った。走り続けた。
「あいつらのせいだ、絶対にそうだ!」
後ろを振り返らずに、ただ走った。
――本当のことを言えば、俺はあの言葉に同意できない。
かつてのシンジロウは、そんな風には思わなかったはずだ。
走り続けた足が、何かに引っかかった。
地面に倒れた。
「怖い……」
泣き声が漏れた。
「も、もう死にたく……ない……」




