第52話:決着、そして暴かれる不正。魔王様、お忍びで無双する
「ふざけるな……ふざけるなァァァッ!!」
神聖なる闘技場に、レオナルドの絶叫が響き渡った。 彼は髪を振り乱し、血走った目で私と皇帝を睨みつけている。
「私が負けるなどあり得ない! これはインチキだ! この小娘は、皇帝陛下に幻覚を見せる毒を盛ったに違いない!」
「見苦しいぞ、レオナルド!」 ネプチューン皇帝が立ち上がり、一喝する。 「余の舌を愚弄するか! ルネの料理は本物だ。貴様の料理にはなかった『愛』と『技術』があった!」
「黙れ黙れぇ! おい! お前たち、やれ! この場の全員を捕らえろ! 私が新皇帝となり、この国の食を支配してやるんだ!」
レオナルドが合図を送ると、観客席に紛れていた数十人の男たちが一斉に立ち上がった。 手には剣や魔法杖。大会を裏で操る「闇の料理組合」の私兵たちだ。
「キャァァァッ!」 「逃げろ! テロだ!」 観客がパニックになり、逃げ惑う。 武装集団は一直線に審査席――私と皇帝の元へ殺到する。
「死ねぇぇ! 生魚女ァァッ!」 先頭の男が剣を振り上げた。
私は動かなかった。 だって、**「彼ら」**が来ているのを知っていたから。
ドゴォォォォォンッ!!!
横合いから飛んできた巨大な金属の塊(大盾)が、男を吹き飛ばし、闘技場の壁にめり込ませた。
「おっと。食後の運動にしちゃあ、軽すぎるな」
土煙の中から現れたのは、口元に弁当の米粒をつけたガルドーさんだった。 その体からは、さっき食べたカツ丼による赤いオーラが立ち上っている。
「ガ、ガルドーさん! 助かりました!」 「おう。ルネの寿司を守るのも用心棒の仕事だ。……それに」
ガルドーさんは親指で背後を指した。
「もっとヤバいのが機嫌を損ねてるぜ。あいつら、よりによって『あのお方』のデザートに砂をかけやがった」
視線の先。 観客席の一角で、優雅に足を組んで座っていた黒髪の紳士が、ゆっくりと立ち上がった。 手には、食べかけの特大パフェ。 しかし、その美しい顔は、この世の終わりかと思うほど冷酷に凍りついていた。
「……おい、下郎ども」
紳士――魔王グラトニー(お忍び中)が囁いた。 その声は小さかったが、闘技場にいる全員の鼓膜を震わせ、魂を鷲掴みにした。
「余は今、ルネの新作『海鮮パフェ』を楽しんでいたのだ。 塩アイスとイクラの絶妙なハーモニーに、至福の時を過ごしていたのだ……」
魔王の周囲の空間が、バリバリと音を立てて歪み始める。 襲撃者たちがビクリと足を止めた。 「な、なんだあいつは!?」「体が……動かねぇ!?」
「それを……貴様らの巻き上げた埃が、余のパフェに入った」
魔王の瞳が、縦に裂けた。
「万死に値する」
ヒュンッ。 魔王が指を軽く振った。 ただそれだけ。魔法陣も、詠唱もない。
ズドオォォォォォォンッ!!!
重力魔法。 襲撃者たちの頭上から、見えない巨大なハンマーが振り下ろされたかのように、数十人の男たちが一瞬にして地面に叩きつけられた。 「ぐえっ」「ぎゃっ」という悲鳴すら上げる暇もなく、全員が床にめり込み、ピクリとも動かなくなった。 レオナルドも巻き添えを食らい、カエルのように潰れて気絶している。
静寂。 圧倒的な静寂が闘技場を支配した。
「ふん。興が削がれた」
魔王はハンカチで手を拭くと、私に向かってウインクした。 『(今の技、パフェ代としてツケておけよ)』 そんな声が聞こえた気がした。
◆
その後、駆けつけた正規の衛兵たちによって、レオナルドと闇の組織は一網打尽となった。 皇帝ネプチューンは、助けてくれた黒髪の紳士にお礼を言おうとしたが、彼はすでに「次の店を探す」と言って消えていた。 (賢明な判断だ。魔王だとバレたら国際問題になる)
「ルネ・ヴィオラよ!」
騒動が収束した闘技場で、表彰式が行われた。 皇帝が、一本の美しい槍を差し出す。 白銀に輝く、三つの穂先を持つフォークのような槍。
国宝魔道具『海神の三叉槍』。
「見事な料理、そして勇気ある行動であった! この槍と、我が国における全魚介類の優先取引権を、そなたに授ける!」
「ありがとうございます!」
私は槍を受け取った。 ずしりと重い。 【鑑定】によれば、この槍で突いた食材は**「時間が停止し、永遠に鮮度を保つ」**らしい。 これさえあれば、どんな遠い場所でも、獲れたての刺身が運べる!
「これで……これで、私の店で『本物の寿司』が出せるわ!」
私は槍を高く掲げた。 観客席から、割れんばかりの「ルネ! ルネ!」コールが巻き起こる。
こうして、第4回世界美食大会は、 ・優勝者:ルネ・ヴィオラ ・MVP:通りすがりのパフェ好き紳士 という結果で幕を閉じた。
だが、祭りはまだ終わらない。 私の手元には、レオナルドから没収した(奪い返した)大量の高級魚介類と、皇帝からプレゼントされた新鮮な海の幸が山ほどあるのだ。
「みんな! 打ち上げよ! 浜辺で**『海鮮バーベキュー大会』**を開催するわよーッ!!」
私の号令に、カイト、ガルドー、ミシェルカ、そしてちゃっかり戻ってきた魔王様も含め、全員が歓声を上げた。
戦いの後は、ノーサイド。 敵も味方も関係ない、美味しい煙が立ち昇る宴が始まる。




