表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/56

第46話:海賊の宴? 謎の『黒いリゾット』

予選第二回戦。  私の対戦相手は、会場の空気を一変させる荒くれ者だった。


「ガハハハ! 貴族の遊びは終わりだ! 俺たち海の男の料理を見せてやるぜ!」


 上半身裸にベスト、腰にはサーベル。  現れたのは、近海を荒らす『荒波海賊団』のコック長、バロッサだ。  なぜ海賊が大会に? と思うが、この国では「美味い飯を作る者は正義」らしい。寛容すぎる。


「おい、そこの嬢ちゃん! さっきは骨のスープで勝ったらしいが、俺には通じねぇぞ!  男の料理ってのはな、こういうもんよ!」


 バロッサがドカッ! と調理台に置いたのは、巨大な『槍イカ』の山だった。


「豪快! 直火焼きだぁぁぁ!」


 彼はイカを串に刺し、調味料もつけずに強火で焼き始めた。  ワイルドだ。素材のそのまま勝負だ。  そして、彼はイカを捌く際、ある部分を無造作に足元のバケツへ捨てていた。


「……ねえ、バロッサ」 「あぁ? 命乞いなら聞かねぇぞ」 「そのバケツの中の『黒い袋』……いらないなら貰っていい?」


 私が指差したのは、彼が捨てた**『墨袋イカスミ』**だ。


「はぁ? イカスミだぞ? あんなモン、苦いし臭いし、服に付いたら落ちねぇ厄介者だ。毒みたいなもんだろ」


 海賊たちもゲラゲラと笑う。  「嬢ちゃん、墨汁でもすする気か?」「腹壊すぞ!」


 どうやらこの世界では、イカスミはただの汚れ扱いのようだ。  ……しめしめ。またしても独占市場ブルーオーシャンだ。


「いいわよ。その『毒』で、あんたたちを中毒にさせてあげる」


 ◆


 調理開始。  私が作るのは、見た目のインパクト最恐、味は深海級の旨味を誇る**『イカスミのリゾット』**だ。


 まずはオリーブオイルで、みじん切りにしたニンニクと玉ねぎをじっくり炒める。  香ばしい香りが立ち上がったら、生米を投入。  米が透き通るまで炒めたところで――。


「投入!」


 バロッサから貰ったイカスミを、白ワインで溶いて鍋に流し込む。


 ジュワァァァ……!


 一瞬にして、鍋の中がドス黒い闇に染まる。  観客席から悲鳴が上がった。  「うわぁっ、真っ黒だ!」「泥? いや、コールタールか!?」


 見た目は確かに最悪だ。地獄の沼のようだ。  だが、煮込んでいくうちに、漂う香りが変化していく。  ニンニクの食欲をそそる香りと、イカスミ特有の濃厚な磯の香り。それが白ワインと混ざり合い、芳醇な海のアロマへと昇華される。


 米がアルデンテ(少し芯が残る状態)になったら、バターとチーズを混ぜ込み、コクをプラス。  仕上げに、真っ赤なトマトと緑のパセリを散らして彩りを添える。


「完成! **『暗黒のイカスミリゾット』**よ!」


 ◆


 審査員たちの前に、漆黒の皿が並んだ。


「こ、これを食べるのかね……?」 「見た目が……その、食欲を減退させるというか……」


 審査員たちが尻込みする中、対戦相手のバロッサが鼻を鳴らした。


「ケッ! 俺様の『丸焼き』の方が美味そうだろうが!  そんな黒いドロドロ、食い物じゃねぇ!」


 バロッサは私の皿を奪い取ると、「毒見してやるよ!」とスプーンですくって口に放り込んだ。


 パクッ。


「んぐっ……!?!?」


 バロッサの動きが止まった。  彼の脳内で、ビッグバンが起きた。


 見た目からは想像できない、優しく、深い味わい。  イカスミに含まれるアミノ酸の旨味が、お米一粒一粒に染み込んでいる。  ニンニクのパンチと、トマトの酸味。そして後から追いかけてくる濃厚なコク。


「な、なんだこれはぁぁぁッ!?」


 バロッサが叫んだ。


「苦くない! 生臭くない!  まるで深海の底にある宝箱をひっくり返したような、濃密な海の味だ!」


 彼はスプーンを止めることができず、ガツガツと黒い米をかき込み始めた。  それを見た審査員たちも、恐る恐る一口食べる。


「!! 美味い!」 「目が覚めるような旨味だ!」 「見た目とのギャップに、脳がバグりそうだ!」


 あっという間に全員が完食。  そして――。


「ぷっ……あはははは!」 「なんだその顔は!」


 顔を見合わせた審査員とバロッサが、互いに指差して笑い出した。  彼らの口の周りと歯は、イカスミで真っ黒に染まっていたのだ。


「お歯黒だ!」 「強面の海賊が、間抜けな顔になってるぞ!」


 会場中が爆笑に包まれる。  美味しい料理と、楽しい食卓。これぞ食事の醍醐味だ。


「……負けたぜ、嬢ちゃん」


 バロッサは真っ黒な歯を見せてニカッと笑った。


「捨ててたもんが、こんなご馳走になるとはな。  どうだ? 俺たちの船に乗らねぇか? 略奪品の宝石、山分けにするぜ?」


「遠慮しとくわ。船酔いするし」


 私は丁重にお断りした。  こうして、予選第二回戦も突破。  イカスミの美味しさを知った海賊たちが、翌日から「黒い唇」をトレードマークにして海を荒らし回る(そしてイカを乱獲する)ようになるのは、また別の話だ。


 さあ、次は準決勝。  ……の前に、ちょっと休憩。  海岸で何やら泣いている人魚を見かけたのよね。また新しい食材の予感?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ