憲司の友達
街中に入ると、電柱に括り付けられた『パチンコ興栄会館 新装開店』の立看板が目立つ。
『風体の良くない男』が憲司(父)を見て、丁寧に挨拶をしてすれ違う。
マコトは自転車の荷台から、
「父ちゃん、今の人誰? 」
「うん? 友達だ」
「トモダチ?」
マコトを乗せた自転車がスーパーを通り過ぎる。
「?・・・父ちゃん、どこに行くの」
憲司のあやふやな返事。
「うん? うん」
案の定、『パチンコ屋』の前で自転車は停まった。
憲司はマコトを見てニヤっと笑う。
「ちょっとやってみるか」
マコトは焦って、
「ダッ、ダメだよ。母ちゃんに怒られるよ?」
マコトの言葉を無視してパチンコ屋の駐輪場へ入って行く憲司。
新装開店の店内はタバコの煙と満員の客の熱気で、ひしめいている。
憲司はタバコを咥えながら厳しい目付きで「台」を選んでいる。
マコトは憲司(父)の上着を引き、
「父ちゃん、刺身!」
憲司の台を選ぶ目は真剣である。
「分ってる。待ってろ。・・・『すき焼き』にしてやるから」
すると一人の客が台を立って移動する。
すかさず憲司は釘を観てその台を選ぶ。
玉を弾ハジクく憲司の親指。
マコトが、
「ぜんぜん入らないじゃないか」
憲司も納得が行かない顔で台を睨み、舌打ちをする。
マコトを見て、
「・・・オメーもやってみろ」
隣の空いた台の受け皿に玉を入れる憲司。
マコトは渋々、憲司の真似をして玉を台の穴に入れて弾いてみる。
玉がチューリップに入る。
「あッ! やった。父ちゃん、入ったよ!」
「入った? オメー、ウメェーなあ。ドンドン出せ!」
憲司の台は相変わらず玉がチューリップに入らない。
タバコを咥え、燻った顔で玉を買いに行く。
戻って来た憲司にマコトが、
「父ちゃん、刺身ッ!」
「分かってる。ちょっと待ってろ」
かなりの焦ってい様子である。
突然、憲司(父)の後ろに小箱いっぱいの玉を持った店員が立って居る。
憲司が振り向くと坊主頭に蝶ネクタイの店員(懲役帰り)がニヤリっと笑う。
「ご苦労さまです」
憲司は驚き、
「お〜おッ! いつ戻って来た?」
「はい。先月の二十日です」
「そうか。そりゃあ良かったな。ここで働いているのか?」
「はい」
憲司はパチンコの玉を目で追いながら、
「・・・頑張れよ」
「はい。ゆっくり遊んで行って下さい。コレ・・・」
その店員は気味の悪い笑顔を浮かべ、憲司の前に玉の入った小箱を置く。
憲司は小箱を見て、
「何んだい、ワリーなあ」
その店員は『小指が無く、頭の横に大きな切り傷』が有る。
憲司に軽く会釈し、ニヤリっと笑い立ち去ったて行った。
マコトは立ち去る店員を見て小声で、
「父ちゃん、あの人だれ?」
小箱の玉を受け皿に注ぎ込みながら、
「うん? 友達だ」
「トモダチ? あの人も友達なの?・・・小指が無かったよ」
「そうかい? 怪我でもしたんだろ」
「ケガ?・・・ヘンな人だね」
「うん? うん。変な人だ」
すると憲司の玉がチューリップに続けて二つ入る。
「あれ?・・・出ねえ。お~いッ! タマが出ねえぞー!」
憲司は台を叩く。
するとまた、あの頭に傷の有る店員がニヤリと笑って台の上から首を出す。
「すんません。今、出します」
玉が際限無く受け皿に出て来る。
それを見てマコトが、
「スゲー、父ちゃん! 夜は『すき焼き』だね」
続く




